婚約者は物ではありません
妹に物を奪われ続けた主人公がヒーローによって助けられる(?)王道ストーリーです。
アーネ・クラフト子爵令嬢の妹、モウトはアーネの物を何でも欲しがった。
「お姉様ずるいっ! 私に頂戴っ!!」
貰ったアクセサリーや宝石、ドレスなど、モウトも貰っているのに何故かアーネの物を欲しがるのだ。両親は最初の頃はモウトを注意してくれていたが、モウトがずっと駄々をこねるので次第に注意する事をやめてしまった。
「アーネ、すまないが姉として我慢してくれないか?」
姉だからという理由で我慢しろだなんて理不尽だとアーネは思う。しかしモウトの要求に応えずにいると面倒臭い事になるとアーネは分かっていた為、アーネも諦めたようにモウトに渡すようになった。モウトの中では、姉の物は自分の物になって当然だと思っているのだろう。それを仕方ないと思っていたアーネだが、この後そのせいで大変な事になってしまうのであった。
◆◇◆
「えっ!? お姉様が、アルフレッド・イナズケ侯爵令息の婚約者に選ばれた!?」
ある日、アーネはアルフレッドに婚約者になって欲しいと告白された。クラフト子爵への正式に顔合わせは今日だが、アーネの話を聞いてクラフト子爵はこの婚約を認めるのは間違いなかった。アルフレッドは外見も良く成績も優秀で、子爵家よりも地位の高い侯爵家の令息だ。そんな人の婚約者に選ばれた事はアーネも素直に嬉しかった。
「…そんなのずるいわ、お姉様。」
モウトの言葉に嫌な予感がしたアーネは、警戒しながらモウトを見た。
「お姉様、アルフレッド様を私に頂戴っ!!」
アーネはモウトの言葉に目を丸くした。そして、
「何を馬鹿な事を言っているよ!!?」
アーネはモウトを睨みつけて怒鳴った。モウトはアーネに怒鳴られてビクッ、と身体を震わせた。
「モウトどういうつもり?! 貴女が私の物を欲しがるのは何時もの事だけど、まさか私の婚約者を渡せと言っているの?!」
「…ひ、酷いわお姉様っ! そんな大声で怒鳴るなんて…何時もお姉様は私にくれるじゃないっ!!」
モウトは涙ぐみ始める。アーネがモウトの要求を拒否すると泣き出し、怒鳴り、ずっとアーネに付き纏ってくるのだ。それが嫌だからアーネは自分の物を渡すようになったのだが、今回ばかりはそうはいかない。
「モウト、私は私の物を貴女にあげたのよ。でもアルフレッド様は、婚約者は私の物ではないのよ?!」
アルフレッドはアーネの婚約者だ。私物ではなくて人だ。しかもアルフレッドはアーネよりも高貴な存在であり、譲る譲らないで語って良い存在ではない。そんな事も分からないのかとアーネは焦りと呆れを感じた。
「煩いわお姉様っ!! 私にアルフレッド様を譲ってよ〜!! お姉様はずるい、ずるいわっ!!」
モウトはアーネの話を聞かずに喚き出す。両親がアーネ達に気付き、駆け寄ってくる。アーネの話を聞いて流石に両親もモウトを放っておけずに注意するがモウトは首を振る。そうこうしている間に、アルフレッドとの約束の時間が来てしまった。
「…っ!」
「モウト? おい、モウト何処へ行くつもりだっ!?」
モウトは何を思ったのか、クラフト子爵の声を無視して玄関へと走り出した。アーネ達が追いつくと、丁度アルフレッドを乗せた馬車が到着しようとしているところであった。馬車は玄関前で到着し、馬車からアルフレッドが姿を現した。
「アルフレッド様〜!!」
モウトがアルフレッドの前に駆け寄り嬉しそうに話しかけた。
「ちょ、ちょっとモウト!? 無礼だわ、やめなさいっ!!」
「も、申し訳ない。イナズケ侯爵令息…。」
正式な挨拶もなく馴れ馴れしくアルフレッドに駆け寄ったモウトをアーネは批難する。クラフト子爵も冷や汗をかきながら謝罪する。アルフレッドはにこやかな表情をしつつも困惑している様子だ。
「アルフレッド様! お姉様なんかじゃなくて、私の婚約者になって下さいっ!!」
「っ、モウト、何を言っているのよ!?」
アーネの言葉に反応せず、期待を込めた眼差しでアルフレッドを見ているモウトにアルフレッドは困った顔をした。
「一体何の冗談ですか、これは?」
「冗談ではありません! アルフレッド様、お姉様ではなく私のモノになって下さいっ!!」
「なっ!?」
「…何故ですか?」
モウトの発言にアーネ達が凍り付いたように固まる中、アルフレッドはにこやかにモウトに質問した。
「だって、お姉様がアルフレッド様の婚約者になるだなんてずるいじゃないですかっ! お姉様にお願いしたら駄目だって言われてしまったんです。だから、アルフレッド様に直接お願いするしかないなと思ったんです!!」
にこやかに、さも当たり前の事を言っているようにモウトは言うと、アルフレッドはにこやかな笑みを崩さずに口を開いた。
「…モウト嬢。君は僕がアーネの物だと思っているのかな?」
「…えっ?」
アルフレッドの言葉の意味が理解出来ず、モウトは困惑した。
「っ、も、申し訳ありません!!」
「申し訳ございません、イナズケ令息! モウト、お前も今すぐ謝れっ!!」
アーネとクラフト子爵が顔色を悪くさせながら謝罪をするが、モウトは訳が分からないといった様子で狼狽えているだけだ。
「アーネに僕を、君に譲るようにお願いするだなんて。しかも“私のモノになって”だなんてね…仮にも僕は君よりも地位の高い侯爵令息だ。ただでさえ人を物扱いする事に嫌悪してしまうのに、地位の低い君に言われると心底腹立たしいな。」
「…あ。」
アルフレッドは笑顔だ。けれど声には圧が込められておりとても穏やかではない。モウトにも伝わり、次第に恐怖心が芽生えてくる。
「さっきの君の態度を見てて思ったけれど、君の知能はどれほど低能なのかな? 君は婚約というものを甘く見て…いや、理解していないのかな? そんな君が僕と婚約したいだなんて、僕に対する嫌がらせかい?」
「…ひ、酷い。」
モウトは泣きそうな顔になるがアルフレッドは怯む事なく話し続ける。
「僕はね。アーネの優秀さと人柄に惚れたんだ。僕の伴侶に、未来のイナズケ侯爵夫人になって欲しいと思ったんだよ。そんなアーネと今後の侯爵家の為の計画が頭の中で立てられつつある。それを、君は壊そうとしたんだよ。君みたいな人と婚約だなんて、僕の精神とイナズケ侯爵家を崩壊させる気かい?」
「っ! …ぅ、うぅ、わあああ〜んっ!!」
アルフレッドの容赦ない言葉にモウトはかつてないほど泣き始めた。アーネ達はこれ以上モウトに醜態を晒させるのは不味いと思い、モウトの傍に駆け寄ろうとする。しかしその前にアルフレッドが、
「静かにしてくれないか。」
パァンッ!! と両手を強く叩いて音を出した。するとモウトはビクッと身体を震わせて泣き止んだ。
「…クラフト子爵家の家庭事情には口を出さないよ。でも、僕はアーネの私物じゃないんだ。」
モウトは震えながらアルフレッドを見る。
「…それと、僕とアーネが結婚したらもうアーネの物を欲しがらないで欲しい。アーネが君の姉である事に変わりないけれど、アーネは僕の妻に、イナズケ侯爵家の一員になる。彼女の私物はイナズケ侯爵家の物でもあるし、僕がアーネに渡したくてプレゼントする物もある。それを他の人に奪われたくないんだよ。分かってくれるね?」
真顔で話すアルフレッドの言葉にモウトは怯えたように小さく頷いた。そんなモウトの様子に一先ず納得したのかアルフレッドは再び笑みを浮かべた。その後、アーネとクラフト子爵は改めてアルフレッドに謝罪した後今後の婚約についての話し合いをした。モウトは自分の部屋に引きこもって姿を現さなかった。
アルフレッドが帰った後、アーネと両親はモウトをこのままにしておけば何時問題を起こすか分からないと反省し、今後はモウトがどんなに泣き喚いても我儘を一切許さない事にした。
「…お姉様。アルフレッド様と結婚しないで。」
モウトは早速我儘を言ってきたが今までとは違い、アーネにアルフレッドと結婚しないで欲しいと言ってきた。モウトにとってアルフレッドは恐怖の対象となったのだろう。それにアーネがアルフレッドと結婚したらアーネの物を奪えなくなるのが嫌なのかもしれない。しかしアーネはアルフレッドとの婚約を望んでいる為当然断った。
「ひ、酷いわお姉様っ!! う、うぅ…。」
「これ以上私とアルフレッド様の婚約を反対するなら、アルフレッド様に言うわよ?」
「…っ!」
アルフレッドの名前を出すとモウトは黙り込んだ。アーネはモウトの様子にほっ、とするとモウトと別れた。アルフレッドはアーネ達の家庭事情には口を出さないと言っていたし、モウトを黙らせる為にアルフレッドの存在を毎回利用するのは気が引けた。なのでアーネとアルフレッドの婚約について口を出した時だけ、アルフレッドの名前を使わせて貰う事にした。何故モウトがアーネの物をそんなにも欲しがるのかは分からないし理解しようとは思えない。しかしモウトを放置し続けた結果、婚約者を物と考えてしまう問題児になってしまった。今から教育するのは骨が折れそうだが両親とともに頑張るしかないとアーネは改めて思い直した。
「…でも、正直すっきりしたわね。」
アルフレッドには申し訳なかったが、モウトが自分の思い通りにならずに黙り込む姿を見て気分が晴れやかになったアーネはそう呟いて笑みを浮かべた。
作者の作品では珍しく、主人公が何もしなくてもヒーローに助けられる(助けられたと言われる程ではないかもしれませんが)王道の話でした。偶には良いですよね。妹や親友に婚約者を譲れと言われる話は面白くて好きですが、婚約者を何だと思っているのだと思う時があります。まぁ、その婚約者もクズな場合が多いですけどね 笑
何時も誤字脱字報告をしてくださる皆様、本当にありがとうございます!
最後まで読んで頂きありがとうございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです(*^^*)




