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自転車に乗る帰り道、風景はゆっくりと流れた

掲載日:2025/12/07

 愛車のバイクが故障した時のこと──


 走れないことはないのだが、たまにアイドリング中にエンジンが止まってしまう。

 バイク屋さんに持ち込むと、修理に丸1日かかると言われた。


「じゃ、お願いします。代車を貸してもらえると助かるんですけど……」


 土曜日だった。

 明日は仕事は休みだが、足がないのは困る。

 その頃、私は自動車を所有しておらず、足はバイクだけだった。


「あー……。今、代車がなくてねぇ……」

 バイク屋のおじさんは言った。

「自転車しかないんだけど、いい?」


 ライムグリーンのかわいいママチャリだった。

 一応3段の変速機がついている。カゴも大きいのがついてる。


 まぁ、遠くまで出掛けなければいいか……。そう思い、それに乗って帰ることにした。




 バイク屋さんから自分のアパートまでは約7kmの距離。

 いつもならバイクで10分もかからない。


 ゆっくり、ゆっくり、ママチャリは進んだ。

 スポーツバイクと違って車体が重い。変速機をトップに入れて全力で漕げば20km/h以上出るけど、疲れるのでゆっくり漕いだ。

 途中、急な坂がある。しかも結構長い。

 ローギアにしてもペダルが漕げないほどに重たくなったので、降りて押して歩いた。

 登り坂を超えると今度は急な下り坂だ。

 スピードが出すぎると自転車が壊れそうなので、必死でブレーキで勢いを抑えながら下った。


『あれ……? こんなところにこんなお店、あったんだ?』


 いつもは125ccのバイクで走る道を、自転車でゆっくり走ると、色んな発見があった。

 路地の奥に隠れるようにある花屋さん、小さいけどなんだか美味しそうな匂いの漂ってくるラーメン屋さん、道に空いたおおきな穴、こんな街角の路傍に咲いてる白い百合の花──


 風もいつもより心地よくて、顔をくすぐった。季節は春だったように思う。いつもは顔を叩いてくる風が、優しく笑っているようだった。


『自転車って、いいな──』


 10年以上振りに乗る自転車という乗り物に、私の顔も優しく笑う。


『ゆっくりって、いいな──』


 すれ違う人の顔もよく見えて、時間もゆっくり流れた。

 帰るまで一時間近くかかったけど、充実した気分の帰り道だった。




『よし、自転車を買おう!』


 バイクと違って燃料代がかからない。

 毎日の通勤が運動にもなる。

 ミニベロ(タイヤの小さいお洒落なスポーツ自転車)を買った。

 それが壊れると、今度はもう少し本格的なスポーツバイクを買った。




 今では仕事が忙しくなり、乗る暇がない──





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― 新着の感想 ―
景色に気付くというのは、速度だけでなく、外気に振れる点と、前方以外に目を配らなければならない点もありますよね。 そして、それは自転車と歩行の間でもあって、移動手段が変わるだけで、風景の楽しみかたが変わ…
この瞬発力とお蔵入り感がしいなさんらしいです。 ゆっくり自転車に乗れるといいですね。 歩くとまた、見える風景変わってきますよ。。
自転車って乗らなくなるんだよねぇ。 そして一度乗らなくなるとタイヤの劣化が始まり二年と保たずに使用不可能になってしまうのだ。この辺はタイヤの質によるのかな?
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