自転車に乗る帰り道、風景はゆっくりと流れた
愛車のバイクが故障した時のこと──
走れないことはないのだが、たまにアイドリング中にエンジンが止まってしまう。
バイク屋さんに持ち込むと、修理に丸1日かかると言われた。
「じゃ、お願いします。代車を貸してもらえると助かるんですけど……」
土曜日だった。
明日は仕事は休みだが、足がないのは困る。
その頃、私は自動車を所有しておらず、足はバイクだけだった。
「あー……。今、代車がなくてねぇ……」
バイク屋のおじさんは言った。
「自転車しかないんだけど、いい?」
ライムグリーンのかわいいママチャリだった。
一応3段の変速機がついている。カゴも大きいのがついてる。
まぁ、遠くまで出掛けなければいいか……。そう思い、それに乗って帰ることにした。
バイク屋さんから自分のアパートまでは約7kmの距離。
いつもならバイクで10分もかからない。
ゆっくり、ゆっくり、ママチャリは進んだ。
スポーツバイクと違って車体が重い。変速機をトップに入れて全力で漕げば20km/h以上出るけど、疲れるのでゆっくり漕いだ。
途中、急な坂がある。しかも結構長い。
ローギアにしてもペダルが漕げないほどに重たくなったので、降りて押して歩いた。
登り坂を超えると今度は急な下り坂だ。
スピードが出すぎると自転車が壊れそうなので、必死でブレーキで勢いを抑えながら下った。
『あれ……? こんなところにこんなお店、あったんだ?』
いつもは125ccのバイクで走る道を、自転車でゆっくり走ると、色んな発見があった。
路地の奥に隠れるようにある花屋さん、小さいけどなんだか美味しそうな匂いの漂ってくるラーメン屋さん、道に空いたおおきな穴、こんな街角の路傍に咲いてる白い百合の花──
風もいつもより心地よくて、顔をくすぐった。季節は春だったように思う。いつもは顔を叩いてくる風が、優しく笑っているようだった。
『自転車って、いいな──』
10年以上振りに乗る自転車という乗り物に、私の顔も優しく笑う。
『ゆっくりって、いいな──』
すれ違う人の顔もよく見えて、時間もゆっくり流れた。
帰るまで一時間近くかかったけど、充実した気分の帰り道だった。
『よし、自転車を買おう!』
バイクと違って燃料代がかからない。
毎日の通勤が運動にもなる。
ミニベロ(タイヤの小さいお洒落なスポーツ自転車)を買った。
それが壊れると、今度はもう少し本格的なスポーツバイクを買った。
今では仕事が忙しくなり、乗る暇がない──




