夜明け
空が白む頃、やっとわたしたちは草原を抜け、城門をくぐった。
門で召使いたちが待機していたので馬を預ける。城の内装に見惚れるリナの手を引っ張り、バルコニーを目指して階段を駆け上った。
ようやくたどり着くと、父上に母上、ペティー、それとジェラールが今か今かと待っていた。
「セレーナ! 間に合ってよかった。さぁ、あと少しで夜明けだぞ」
出迎える父上の横で、母上が「せめて髪だけでも整えておいて」と指示を出している。失礼しますよと、すぐにペティーが髪を解かしてくれた。
母上はそのあと、リナに目線を合わせて何か話していた。内容は聞き取れなかったが、リナは笑顔になっていた。悪い話じゃなさそうだ。
テキパキとしたペティーのなすがままにされていると、ジェラールが駆け寄ってきてひざまずいた。
「セレーナ様! この度の恩赦、私にはとてももったいなきものです。本当に、ありがとうございます!」
「ううん。いいのよ、礼なんて。あなたにはまだまだ働いてもらいたいもの!」
七年前と同じセリフに、ジェラールは涙ぐんでいる。
「本当に、ご立派になられて……うれしゅうございます。この命尽きるまで、姫様に仕えさせてください」
軍隊長は、優しく微笑んだ。
「そろそろ時間だぞ、セレーナ」
父上に声をかけられて、わたしはバルコニーに向かった。ペティーのおかげで、いつのまにか身なりもマシになっている。
両親と並んで朝日を待つ。外には、まだ朝早いのにも関わらず多くの人が集まっていた。夜通し飲んでいたのだろうか。ダミ声で話す声が聞こえてきた。
父上は、わたしの肩にポンと手を置いた。
「セレーナ。十七年前、同じ場所に立ったときのこと。君はもう、忘れてしまっているよな」
いえ、父上。はっきりと覚えています。朝早すぎてうざかったことまで鮮明に覚えています。と言いたかったが、ぐっと胸の中に留めておいた。
「私はあのとき、君に一つお願いをしたんだ。それを君は、今日まで守り続けてくれた。誰よりも優しく、民のことを想う姫に育ったんだ。本当に感謝しかできない。一国の王として、礼を言わせてくれ。……ありがとう」
隣で母上も涙を浮かべている。
……あの日言われたことは、辛くなったときに思い出していた。わたしには守るべき民がいる。そう思うだけでここまで走り抜けられたんだ。なんて不思議な職業なのだろう、お姫様って。
「父上、母上。育ててくれて、ありがとうございます」
たとえ転生先の両親だとしても、愛情を持って育ててくれた二人のことが、わたしは大好きだ。
「時間になりましたよ」
そう言って、ペティーが窓を開いた。惜しみない歓声に迎えられ、わたしたちは前にでる。
──これで、ゲームだったらハッピーエンドになってエンドロールでも流れているんだろうな。でも、よく考えてほしい。この世界でわたしはまだ十七年しか生きていない。物語を終わらせるにはいくつも壁が残っているだろう。正直めんどくさい。もうこれで終わりにしてもいいのではないかと思う。
でも、わたしはこれからも民のために生き続ける。
「皆のもの、よく集まってくれた! ここに、我ら王家は帰ってきた。わたしこそ、フラナンズ王家の正当な後継者であるセレーナだ!」
目の前には笑顔の国民が、後ろには大切な人たちがいる。
朝日に照らされたわたしは、世界一の幸せ者だ。




