点と点
リナが潜伏していたであろう部屋に到着したのは、夕焼けで空が赤くなっている頃だった。アルベールと作戦を詰めたときに、空き家となっていて使えると話していた場所だ。
階段を駆け上って部屋に入る。中はもぬけの殻だったが、一つだけ見覚えのあるものが残されていた。
一見するとただの布の切れ端。でも、緑の丸いマークが付いている。
「リナだ……リナのものだ」
魔法の袋に同じマークが付いていた。たしか、リナにとって大事なものを詰めていたはず。
しかし、なんで袋を爆発させたんだ? 思いだせ。アルベールと再会したときに何を見せていた?
分厚い本、緑の液体、大量の薪──。
……そうか! 蛇よけの薬か!
いや、完全にそうとは限らない。その確率のほうが高そうというだけだ。
天涯孤独のリナにとって、帰る場所はあの森しかない。前回の反省を活かして、蛇よけの薬を先に取り出したということなら納得がいく。
……だとしても、なぜ帰る必要がある? わたしに何も言わず、ひっそりとフラナンズを離れようとしているのはなんでだ?
頭を捻っていたとき、前にも一度、リナの様子がおかしかったことがあると思い出した。あれはそう、わたしが過去のことを話したとき。加えて、リュシーさんの心配そうな眼差し、コランタンがこぼしたあの言葉……!
そういうことか。
全てが繋がったわたしは、リナを追いかけるために外へ出た。
行かないで、リナ。
空は既に、暗くなり始めていた。
城壁を出て草原を走ること、数時間。
自分の雑な推理と勘を信じて馬を急き立てているけれど、一向にリナは見つからない。まずい。帰りの時間も考えると、そろそろ見つけないと。
焦り続けていたとき、地平線に強い緑色の光が見えた。……魔法でしかこんなことはできない。わたしには、これがラストチャンスのように思えた。
……だけど、なんで見つかるようなことをしているんだろう。
まぁいい。今は考えている場合じゃない。あの光を掴むんだ。リナに会って、ちゃんと伝えるんだ!
わたしはさらに馬を急がせた。かなりのスピードを出しているのに、その時間が永遠にも感じられる。段々、光の中に子どもが見えてきた。
リナだ。
わたしに気づいて走り出したが、お構いなしに距離を詰める。
ついに大きく弧を描くように追い抜き、リナの進む先を塞いだ。
小さな体でなんとか光を覆い隠そうとしているリナは、大粒の涙を流していた。
「──リナ!」
焦りすぎて、呼吸も忘れていた。息が上がる。
「ダメです、セレーナさん。ダメです! そこをどいてください!」
無理矢理にでも通ろうとするリナを、馬から降りてそっと受け止めた。
「リュシーさんにね。言われてたんだ。リナが記憶について、旅の途中に気づくかもしれないって。側にいたのに気づいてあげられなくてごめん。ずっと、苦しんでたんだよね」
通して、通してと叫び続けるリナを、膝立ちになり目を合わせてから力いっぱい抱きしめた。
「あの夜、思い出したんだよね? だから苦しくなったんでしょ。リナは元気で正直だからなー。……もう全部、分かっているから。話し出さなくてもいいよ。側にいさせて」
……リナは泣きじゃくって、しゃがみ込んだ。緑に光る、あの本を抱えて。




