暗闇の光
気がつくと、わたしは真っ暗などこかを漂っていた。体に力が入らない。
目を開けても閉じても暗い。ここは──コランタンが、キネロと一体化したときに来た場所。
きっと今頃、あの男は死んでいるだろう。それどころか、わたしは大量虐殺をしているかもしれない。せっかく戻ってきたのに。こんなところでおしまいなのか。
いや、まだ諦めたくない。
まだこの島に生きている人がいるかもしれない。
だったら、止めなくちゃ!
最後くらい醜く足掻いてからがいい。希望を絶やしちゃだめだ。諦めるな、わたし!
力を振り絞って、わたしは手を握りしめた。
そのとき。
じんわり胸が温かくなり、か細く光った。
今にも消えてしまいそうな光は、血流に乗って全身に広がり、動かない体をほぐしていく。
もうこの場所は真っ暗闇ではない。心臓の鼓動に合わせて点滅し、わたしが金色に光っている。
すると、遠くで呼応するように青色の光が見えた。
ゆっくりゆっくり点滅し、ゆっくりゆっくりこちらへと近づいてくる。
手を伸ばせば届きそうな距離に来たその人は、わたしと同じ金髪をしていた。
「初めまして。君がセレーナだね 」
優しい優しいその声は、先ほどの叫びとよく似ていた。
「あなたが、コランタン」
少年は困ったようなそぶりを見せて言った。
「よしてくれよ。僕はもう、その名前を名乗る資格なんてないさ」
遠い遠いどこかを見て、少年は続けた。
「僕のことはリュシーから聞いたよね。──あのとき、僕は諦めてしまったんだよ」
「何を?」
少年は、大きなため息をついた。
「誰も、傷つかない世界を。それがキネロの入り込む隙を与えたんだ。数百年一緒にいたから分かったよ。あいつは、魔力そのものだ」
「どういうこと?」
「数百年前の島は魔力であふれていた。でも、リュシーのおかげでそれがなくなって、キネロは一度、死んだ。そして、君のように転生したんだよ。人間じゃなくて虫だったけどね。どうやらキネロは魔力の代わりに、宿主と同じ種族の生きものを殺すことで力を得るみたいなんだ」
なるほど……? 分かったような、分からないような。
そんなわたしを察したのか、少年は苦笑いをした。
「理解できないよね。そもそも、なぜキネロというものがいるのか。転生の基準も分からない。君やキネロ以外に、転生した例はいないから」
少年は自分の胸を指した。
「正直ね、僕はこのままでもいいと思っていたんだ。キネロが何をしたって僕には関係ない。好きにすればいいさって。──だけどキネロは、君やリュシーを殺してしまった 」
ん? リュシーさんを殺したのは知っている。けれど、わたしまで?
詳しく聞こうと思ったけれど、また体が動かなくなった。
「そろそろ時間だね。でも、これだけは話させて」
少年は自分を嘲笑った。
「君はリュシーが書いた本で僕のことを知った。だから僕のことを聖人君子とでも思っているかもしれない。だけど、僕は君みたいな眩しい正義の光じゃないよ。自分の感情も制御できない子ども。……時間はかかったけれど、そろそろ成長するときだ」
少年はわたしの手を優しくとり、微笑んだ。
「大丈夫。安心して。君は今日、誰も殺してはいないよ。ジェラールが助けてくれた」
そう言ったとき。強烈な緑色の光が見えた。闇を呑み込み、こちらに迫ってきている。
「これはリナのものだね。リュシーにそっくり。強い意志のある光だ」
少年はわたしの手を引き、光の方へ誘った。
「今まで迷惑をかけてごめんね。もう大丈夫。お日様の下で笑っている方が、君にはよく似合うよ。ほら、行ってらっしゃい」
ついに光がわたしたちを呑み込み、眩しくて何も見えなくなった。
温かい両手も、いつしか離れていってしまった。




