種明かし
作戦会議の夜。私は、二人に計画を説明した。
「まずアルベールが城に戻り、セレーナは死んだ、だから安心しろと伝える。そうね、私の髪でも持っていけばいいわ。安心しきったところに私が登場して、皆に武器を持てと号令したら──不意をつけて、立場も逆転するんじゃないかな」
「……確かに、兵士と働いている国民の総数を合わせたら、人数はこちらが上」
「でしょう? それに、こちらの方が隅々まで街を知っているし。有利な条件は揃えたと思う」
「ですが、街に入るためには門を通らなければいけません。セレーナ様は手配済みですから安易には通れないでしょう」
「そっかあ……いい案だと思ったんだけどな」
私がしょんぼりしていると、リナが口を挟んだ。
「ねぇ。そのチェックって、一日もかからないよね? 」
「大丈夫だとは思いますけど……? 」
不思議な質問に、アルベールと顔を見合わせる。
「あのね、他人の姿に変身できる魔法があるの。ほら、お師匠様のお話にも出てきた。それを使えば、セレーナさんも街に入れるんじゃないかなーって」
「あー、あれか! それって、何か制限はあったりする?」
「うん。変身したら自分の好きなタイミングで元に戻れるけど、丸一日経ったら強制解除されちゃう。あと、わたしの目の前にいる人の見た目を、別の目の前にいる人のものにすることしかできないの」
あまりピンときていない私たちを見て、リナは言い方を変えた。
「例えば今、セレーナさんの見た目を、アルベールさんにすることはできるけれど、遠くのどこかにいる人の見た目にすることはできないの」
「あー、なるほどね」
見知らぬ商人なんかに変装できたらこの上なく便利だったな。
「使い勝手が悪いから、あんまり役に立たないかもしれないんだけど……」
しょげるリナの横で、私はフフッと笑った。
「いや、でもこれ──使える」
私は、たった今思いついた作戦その二を話した。
「私が、アルベールとして街に入っちゃえばいいんじゃない?」
「何を考えているんですか! 危険です。もし正体が知られたらどうなるか分かりませんよ!」
「大丈夫だって。もし丸一日経っても反乱を起こせそうになかったら、その前にアルベールと入れ替わっちゃえばいいし」
「ですが──何もそこまでして、潜り込まなくてもいいのでは?」
これ以上危険なことをしないでくれとアルベールは訴えてくる。
「……だけど私も、みんなと一緒に戦いたいの。国民がいるから頑張れる。王家がいるから国民は立ち上がる。それが、フラナンズでしょ?」
まだ反論はしたいようだったが、アルベールは何も口を出さなくなった。
「キネロが飛び出さないように張っている結界も、一度かけたら一日放っておいても大丈夫だから。安心してね」
「よかった……じゃあひとまず、この作戦でいいかな?」
こうして、私たちの反撃が始まった。
アルベールと服を取り替えた私は、イーヒスト軍が支配する街に潜入。後からアルベールたちも、旅人を装って門を潜った。
そして今、着々と城へ向かう群衆たちに期待を寄せながら、私はステージの上へ降り立った。
「お初にお目にかかります、皇太子殿。いえ、国王陛下?」
私は、一歩一歩男に近づきながら剣を抜いた。
「貴様、ワシを騙しおって。ただで済むと思っているのか!」
震える手で男も剣を抜く。
「安っぽいセリフですね。……本当に、こんな男に滅ぼされかけるなんて。副官が優秀だったのかな?」
私は、男を助けようともしないジェラールを見た。
「お、おいジェラール! 早くこの女を引っ捕らえんか!」
男の言葉にも反応せず、ただ成り行きを見守っている。
「これで戦争も終わり。どう落とし前つけてもらおうかな。せめて、賠償金くらいは欲しいんだけど」
「ふざけるな。ワシは、この島を統べる才があるのだ! 女一人くらい、ワシだけでどうとでもなるっ!」
男は大きく振りかぶって、真正面から突っ込んできた。
「急所がガラ空きですよ」
私はハエでも叩くように片手で跳ね返した。弱い。なぜこの実力で勝てると思ったのか。傲慢で浅はか。甘やか
されてきたんだろうな。──いや、それは私も似たようなものだ。
大きく尻餅をついた男に、剣の先を向けて近づく。先ほどの威勢はどこへやら、男は恐怖で震えていた。
「まっ、待て。剣をしまえ。な! 少し落ち着こうではないか!」
「別に殺すつもりはありません。あなたには、イーヒストとの交渉材料になってもらいますから」
これは本音だ。人質として丁重に扱わせてもらう。ただ、まだこちらに敬意を払って頂けていないので、剣をしまうつもりもない。急所に狙いを定めて寸止めして、恐怖心を植えつけてからなら考えてもいいけれど。
少し驚かせてやろうと、思っていただけなのに。
「憎い」
「!」
手足に、力が入らない。それなのに剣は男の心臓を捉えている。
「殺せ」
なんだ、この声は? 聞き覚えはないのに、なぜか知り合いのような気がする声が、頭の中で響いた。
「殺せ!」
キネロ……なのか? 結界はどうした。まだ一日経っていないのに!
意思に反して体は動き、怯えた男に向けて剣を動かそうとする。
自分ではもう、止められない……!
誰か、助けて!
私の意識は、深い深い闇の底へ、沈んでいった。




