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反撃開始

 翌日の昼下がり。フラナンズ国民が広場に集められた。工事も一時中断され、金槌を持っていたり、作業着姿の者も多い。皆、夜中に急ピッチで仕上げられた木製のステージを見ている。

 壇上には既に、元姫付き騎士のアルベールと、元軍隊長のジェラールが立っている。ジェラールは布を被せられた何かを持っていた。


「皆の者。よくぞ集まった」


 そう言って、イーヒストの国王となった男が壇上に上がった。もちろん国民からは暴言の数々が浴びせられた。取り締まるために兵士たちが群衆の中に入っていく。

 しばらくすると、群衆のあちこちで兵士たちに引きずられる人たちが出てきて、やがて静かになった。国王は一連の流れを満足そうに眺めると、台本をチラチラ見ながら演説を始めた。


「諸君。今日は、お主らに素晴らしい知らせを持ってきたぞ」


 会場がまたざわつく。兵士の何人かが剣を抜くとおとなしくなった。


「お主らの元王女セレーナを、ここにいるアルベールが打ち取って参った。アルベール、前へ」


 困惑や抗議など様々な反応が上がる中、促されたアルベールは前に出た。持っていた物を国王に手渡し、布を外す。


 「見ろ、お前たち! これは紛れもない、セレーナを討ち取った証拠であるぞ!」


 掲げられた金色の髪を見てどよめきが広がる。「王女様の髪留めだ!」と、前の方から声が上がった。


「嘘だ……嘘だ! 姫様が、死んだなんて!」「おい、王様! 俺たちはこんなこと信じないぞ!」


「でも、髪留めは本物だ……」


 混乱する人、否定する人。中には金槌を持って今にも殴り込みそうな人までいる。会場はほとんどパニックだ。

 ニヤニヤした男が、さらに国民にとどめを刺そうとアルベールに話を振ろうとした。


「我が忠実な家臣のアルベールに、討ち取ったときの話を聞いてみようか。おい、アルベール! ……アルベール?」


 横を向くと、さっきまでいたアルベールがいない。壇上のどこにも、いない。


「……くそ、どこ行った。探せ! あいつめ、こんな土壇場で!」

「裏切ったな、ですか?」


 慌てる国王に、投げかけられたのは酷く侮辱するような声だった。


「どこだ!」

「ここですよ」


 国王が見上げると、正面にある民家の屋根に人影が現れた。アルベールだ。先ほどまで着ていたはずの甲冑ではなく、フード付きの黒いマントを着ている。異変に気づいた群衆も、静かに成り行きを見ていた。


「貴様、ワシを侮辱しおって。裏切ったな!」

「そんなまさか。最初から、あなたに仕えるつもりなどありません。私の主君は姫様のみ。ここにいる誰もがそうなのではないですか?」


 一部の群衆から「そうだ、そうだ!」と声が上がる。

 場の流れが変わったのにも関わらず、男はまだ余裕そうだ。


「フッ。アルベール、こんなクーデターごっこ、誰がお前についていくというのだ? 姫を殺し、王家に終止符を打ったのは他ならぬお前ではないか!」


 それもそうかと、群衆の空気が男へと傾きかけた、そのとき。


「誰が死んだのかしら!」


 今度は国王の頭上、一夜で建てられた故にそのままにされた足場に、何者かが立っていた。皆が上を向く。


「私は殺された覚えなんてない! フラナンズを解放し、平和をもたらすために、私は帰ってきた! フラナンズ王家の正当な後継者、セレーナであるぞ!」


 髪を短く切り、壇上にいたアルベールと同じ甲冑を身につけたセレーナが、そこにいた。

 期待と歓声を一身に浴び、セレーナは声を張り上げる。


「皆のもの! よくぞ耐えてくれた。もう虐げられるのは終わりにしよう。今度はこちらの反撃だ! 武器を取れ! 地下牢の国王夫妻を解放するぞ!」


 おおぉぉぉお! と拳が突き上げられ、群衆の熱が最高潮に高まった。イーヒスト兵の規制も突破し、フラナンズ兵とアルベールが中心となって群衆を誘導していく。


 ──私は、その様子を感慨深く見渡していた。アルベール以外はこの反撃を知らなかったのに、咄嗟によく判断してくれている。

 城へと向かっていく人の波を見ていると、妙にうれしくなってくる。私の立案した計画は、着々と動き始めていた。

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