突き落とされて
「まもなく、各駅停車川立行、電車が参ります」
今日は夏子と映画行ってサイゾ食べて、最高の一日だったな。
撮ったプリ共有しとこ。
「危険ですので、黄色い線の内側までお下がりください」
小さい女の子の前を通った、その瞬間。
わたしは、誰かに線路へ突き落とされていた。
ふわっと身体が軽くなり、一瞬、世界が止まった。
痛い。何があったの? 痛い。ここ、線路の上? もしかして──突き落とされた?
わたしは起き上がった。ホームを見ると、まだ幼稚園にでも行っていそうな小さな女の子と目が合った。
その子は、傷だらけになったわたしを見て、笑った。
誰だこの子は。どうして、なんで? なんで笑っているの?
耳障りな、ブレーキをかける甲高い音がする。すぐ近くまで電車が迫ってきていた。
なんで、どうしてこんなことに? いやだ、死にたくない。夏美と遊ぶ約束したのに。恋ラブの最終話見届けたい。もうすぐ修学旅行なのに、そんな、そんな!
わたし、ここで死ぬの?
電車が迫る時間は、ひどくゆっくりで、あっという間で、長くて、短くて。とても死ぬ覚悟なんて持てなかった。
ごめんなさい。お母さん。わたし、もう死ぬみたい。
衝突する瞬間なんて見たくなかった。死体が半眼っていうのも嫌だ。
心の中で色んな人とさよならをして、わたしは目を閉じた。
だけど、いつまで経っても電車は衝突して来なくて。
そっと目を開けると、わたしは柔らかいタオルに包まれていた。
「……このあとは二人も知っている通り。私は、知らない世界で知らない国の王女様に、転生してた」
重い空気が場を満たした。
「ってほら! みんなが知らない世界の話だし、死んだときのことなんて話しても変な空気になるだけだから今まで黙ってたの!」
こんなときにする話じゃなかった。ああ、恥ずかしい。
「えーっと、つまり姫様がやけに大人びていたのも? 」
やっぱりアルベールは理解が早い。
「そうなの! 死んだときは高二──って、わかんないか。十七歳だったから、アルベールと会ったときは二十七だったよ」
「……今の私よりも年上じゃないですか。それを私は子どもが入るなとか言って追い出そうとしてたなんて本当に、なんてことだ! 今すぐ首にしてもらっても構いませんよ?」
「さっき誓ったばかりじゃない。って、似たようやりとりその時にもしなかったっけ!」
ひとしきり話すと、アルベールが声を上げて笑った。
「もう、本当におかしいですって! ……おとぎ話みたいだ。姫様に仕えることができるなんて、私は幸せ者ですよ」
「いきなり主人が年上になったけど、気持ち的には大丈夫なの?」
「はい。むしろ、これまでの子どもっぽい行動を、自分より十四歳も年上の人がやっていたなんて知れて安心しました」
「どういう意味よ!」
ツッコむ私を見て、アルベールはさらに笑った。
「フフッ。……大丈夫です。ご安心ください。セレーナ様への気持ちは微塵も変わっていません。年上だろうと年下だろうと、今まで共に過ごしてきたセレーナ様はセレーナ様なので」
炎に照らされたアルベールは、優しく微笑んだ。
アルベールは今二十歳、私は転生前も合わせると三十四歳だ。と言っても体はまだピチピチの十七歳だから、これからは転生前の自分が知らない自分になっていく。
そんな体が少し怖い。けれど、未来が楽しみでもある。
こんな私に、大丈夫と言ってくれる人がいてくれる限り、私はなんでもできそうだ。
そういえばリナが何も話していないなと思い見ると、なぜか苦しそうにお腹を押さえている。
「リナ?」
声をかけると、ビクッと身体を震わした。
「大丈夫? 」
「う、うん。でも、ちょっとトイレに……」
「早く行ってきな! あ、でもここ草原だ」
「少し離れたところまで行ってくるね」
「そう。──ついていこっか?」
「一人で大丈夫です!」
そう言い切ると、リナは闇の中へ消えていった。
「どうしたんだろう。お腹でも痛めたのかな?」
「旅の疲れがたまってきているのかもしれませんね。今日はもう遅いですし、寝る支度でもしましょうか」
私たちはリナが戻って来られるように松明を掲げ、準備を始めた。
リナが戻ってきたのは、それからしばらく経った頃だ。アルベールは少し離れたところで見張りをしている。
「大丈夫? やっぱり体調悪い?」
「……ううん。もう大丈夫」
暗くて表情がはっきりと見えない。火の動きに合わせて、リナの影がおどった。
「何かあったらいつでも言ってね。明日も早いから、もう寝ようか」
今までリナには迷惑をかけてきたし、疲れが出てきたのかな。慣れない環境で、目まぐるしくことが動いて、体調を崩すのも当然だ。
もっとリナのことを気遣おう。そう決意し、私は毛布に潜り込んだ。




