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線路は続くよ異世界に!  作者: とくさ
亡くしたもの編
40/60

王子の悪あがき

 僕たちの味方をした以上、マルガリは罪に問われる。

 処刑台に送られるということだ。

 ただ国を守りたかっただけなのに。大切な友だちが、いなくなっていく。

 僕のせいだ。

「今だ! いけー!」

 ああ、うるさい。

 背後を薙ぎ払った。近づいてきていた兵士の悲鳴と、しばらくしてからまた水柱が立つ。

 とめどなく怒りが溢れて、悲しみが心を覆って、希望は全て水路に吸い込まれていく。視界はにじみ、何も聞こえない。静かな世界だ。

 こんなことになるなら、最初から一人でいたかった。

 兵士を水路に落とし続け、僕は泣いた。

 なんでまだ戦っているのかもよくわからない。マルガリに対しての申し訳なさからだろうか。でも、僕はもう何もしたくない。色々な感情がごちゃごちゃになっている。

 僕が水路に落ちたら、代わりにエルワンがやり遂げてくれるだろうか。平和な世界を、作ってくれるだろうか。

 ……やっぱり、エルワンの方が適任だな。

 兵士がかかってくる間隔が長くなっていた。もう何人倒したんだろう。

 僕は改めて水路の方を向いた。見晴らしがいい。戦いで火照った体に、心地よい冬の風が吹いた。

 城壁にある見張り台にはたくさん明かりがついている。今ごろ、ミシェルがボードゲームの二戦目を誘っているかもしれない。

 大きく息を吸い込むと、今まで背負っていた重荷から解放されて、自由になれた気がした。視界も晴れて、世界が音を取り戻していって──。

「逃げて!」

 次の瞬間、風を切り裂く音がした。



 ボードゲームの、途中だった。

 持ち出したワインで兵士の皆さんを酔わせ、貴族の噂なんかで盛り上げて。

 ここさえ通れれば、お二人の邪魔はいない。王子のジョゼフができないこと全てを託したから、ミシェルとして助けたい。万が一のことがないように、一晩中いるつもりだった。

「──誰か、助けてくれー!」

 下から呼びかけられた。

「ったく、なんだよ。今いいところなのに……」

 兵士のおじさんが応答しようとする。

「ま、待ってくださいよ! このままだと、僕勝っちゃいますよ?」

「すまんな、坊主。仕事の時間なんだ」

 笑ったおじさんは、よろめきながら下を見た。

「おーい。こんないい夜にどうしたんだよ」

「どこがいい夜だ! 見張りもせずのんきなもんだよ。あれ見ろって!」

「はぁ?」

「あ、ちょっと待ってくださいよ!」

 駆けつける前に通路の方を見られた。

「……おいおい、なんだありゃ」

 僕も目を凝らした。塔の上で、背中合わせになっている二人が、大勢の兵士に取り囲まれていた。一斉に駆け出し、兵士を次々に倒していく。

「まるで獣だな。特にあいつ。ほっといたら面倒くさいぞ」

 指さされた方には、たった一人で戦う騎士がいた。迷いなく兵士を水路に落としていく。あの所作、アルベールさんだ。

 ──いや、だとしたらおかしい。塔の上にいる二人は誰なんだ。息のあった動きで兵士を翻弄している。一人はエルワンさんだとして、もう一人は?

「ま、面倒ごとはちゃっちゃと片付けなくちゃな。坊主、下がっててくれ」

 兵士の皆さんが弓を手に取った。

「ちょ、危ないですって! 味方に当たるかもしれないですし、何か事情があるのかも!」

「うーん。まぁ、そのときは大人しく処刑台に登るさ」

 炎で揺れ動く影は、不気味に諦めを纏っていた。

「平和ボケしていたが、俺たちはここの見張りを国王陛下から仰せつかったんだ。いい酒飲んで、ちょっと遊んで、いざというときは王家に命を差し出すもんなんだよ。兵士って」

 引き絞られた矢は、まっすぐにアルベールさんを狙っていた。

「そんな、だめです!」

 僕は皆さんの前に立ち塞がった。

「おい、何すんだよ!」

 鍛えている兵士には勝てない。だけど、なんとか照準をずらしたくて必死にしがみつく。

「どけ!」

 振り払われて床に頭を打った。クラクラする。こんなこと初めてだ。でも──!

「僕だって役に立つんだ!」

 力を振り絞って背後から体当たりした。他の方にもぶつかり、矢の方向が少しずれる。

「逃げて!」

「このっ、何すんだよ!」

 お腹を蹴られた。髪をつかまれ、平手打ちをされて、また蹴られて。

 このくらい、お二人に比べたらなんてことない。

 僕は今、大切な人を救えているのかな。

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