表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
線路は続くよ異世界に!  作者: とくさ
亡くしたもの編
35/60

陛下の急変

 僕とエルワンは、育ちのせいか食べるのが速い。甲冑を着て執務室に向かうと、教官が待っていた。

 どうやら、今日の晩餐会で警護にあたる予定だった兵士が、風邪を引いて寝込んでしまったらしい。急いで身元がはっきりしている兵士を探していたところ、皇太子様から直々に、僕たちが推薦されたそうだ。

「お前たち、よかったなぁ! 臨時ではあるが王室付き近衛兵へ大抜擢だ。出世も近いぞ」

 上官は自分の子どものことのように喜んでくれたが、僕らの気は晴れなかった。

 当時子どもだったから詳しいことは分からないけれど、独房まがいの場所に住まわされたのも、僕の家がなくなったのも、皇太子が関係しているようだった。あの、葬式にいた狐目の黒髪とも時折すれ違うだけで話すことはできない。他の兵士に聞いても名前すら分からないんだ。あいつなら詳しいことを知っていそうなのに。

「大丈夫か?」

 執務室を出た後、エルワンが気を遣ってくれた。

「……大丈夫さ」

 運が良ければ少しだけでも会話をすることができるかもしれない。闇雲に行方を捜すのではなく、今は手がかりを見つける時間だ。そう自分に言い聞かせ、はやる気持ちを抑えた。

 そして、晩餐会が始まった。

 僕らは廊下側のドアに立ち、不審者が来ないか見張る係。つまり王族方と直接話す機会は、ない。

「ま、そう上手くはいかないよなぁ」

 ため息をついてエルワンは呟いた。

「仕方がない。別に、そこまで急ぐことでもないし。焦らず調べればいいさ」

「気が長いな。何年かけるつもりなんだよ」

「……さぁな」

 少しの間沈黙が流れ、耐えきれなくなったエルワンがまた話しかけてきた。

「話は変わるが、今日の国王陛下、なんかお疲れ気味だったよな」

「たしかに。執務でお忙しかったんじゃないか」

 それを聞いてエルワンはニヤリとした。僕より外向的なエルワンは、色々な噂を知っている。今日もどこかで仕入れてきたらしい。

「話によるとな。ここ数年、家臣の皆様方が、次の国王はジョゼフ王子にしようと動いているらしいぜ」

「ジョゼフ王子を?」

 国王はもう高齢で、そろそろ代替わりの時期だ。普通ならあの──皇太子が継ぐはずなのに。その子どものジョゼフ王子はまだ七歳だったはずだ。

「気持ちは分かる。だがな、納得もしちまうだろ?」

「それはそうだけれど……」

 皇太子は、僕と母さんをまともに保護せず、勝手に家を渡しただけではない。今日だって、ここにやってくるとき何かが気に入らなかったのか、使用人に怒鳴り散らしていた。家臣にも横暴、わがまま、おまけに学もないと言われている。正直、僕もそう思う。

「でも、ジョゼフ王子はまだ一度も姿を見せたことがないだろう?」

「皇太子様も警戒しているからな。箱入り息子にしておけば、息子に対する国民の評価も上がらないって魂胆だろ」

「ひどいな……」

「陛下も大変らしいぜ。実の息子への文句を受け止め、まだ死なないでくれと懇願する家臣たちをなだめ、皇太子様がやるべき仕事も引き受けているらしいしな」

「通りで。あんなに痩せてしまうわけだ」

 陛下は優しい。僕だったら心労で毎日胃がキリキリしてしまう。国王というのも、本当に大変な仕事だ。

 ドアの向こうからは笑い声が時々聞こえてくる。どんなことを話しているんだろう。内容までは分からない。

「いい身分だよなー。国王を励ますとか理由つけて十三のか弱い子どもに見張りを任せ、自分らは楽しく晩餐会」

 卒業試験で大人の騎士たちを薙ぎ倒していった十三歳のどこがか弱いんだ。

「か弱いかはともかく、楽しそうではあるよな」

 エルワンは、信じられないという目で見てきた。

「お前も、貴族たちが楽しそうとか思うんだな。そういう感情なんてないと思ってた」

 どういう意味だよと言いかけると。

 甲高い悲鳴が大広間の中から聞こえてきた。

「って、エルワンこれって!」

「落ち着けよ。中にも近衛兵がいる。俺らはドアを見張るのが仕事なんだから」

 しかし、悲鳴と物音は収まるどころか、どんどんひどくなっている。

「──前言撤回。俺らも行こう!」

 ドアを押し開け、広間に突入する。

 そこに広がっていたのは、まさに地獄絵図だった。

「こっ、国王陛下!」

 陛下の手は、息も絶え絶えな兵士を握っていた。見事だった金髪は返り血で真っ赤に染まり、壁には突き飛ばされた兵士が何人ももたれかかっている。

「なんだ。まだ兵士がいたのか」

 背筋を撫でるようなおぞましい声だ。この惨状は、本当に陛下がやったのか?

 ……訓練を積んだ近衛兵がやられている。下手に刺激してはダメだ。隣にいるエルワンもそう思っているらしく、ジリジリと陛下の方へ近づいていた。

「へっ、陛下? 何をなさっているのですか?」

 恐怖で足はすくみ、言葉も震えてしまう。

「そうか。やはり今回は国王になったのか。……面白い」

 口角を極端に吊り上げた笑顔は、やはり陛下のものじゃない。

 ただものではないオーラをまとったそれに、どう対処すればいいのか悩んでいると。

「なっ、何をしているお前たち! 早くこの老いぼれを殺せ!」

 ドアのそばに避難している貴族たちの中から怒声が飛んできた。逃げようとしたが、止められたといったところか。

「ほう。まだ私に楯突くのか」

 持っていた兵士を軽く放り投げ、壁へ叩きつける。甲高い悲鳴が、また貴族たちから上がった。

「そら、怖いだろう? 逃げたいだろう? 残念だな。私に逆らう者は許さない」

 足を踏み込んだ次の瞬間。

 陛下は貴族のうち一人の頭を掴んでいた。貴族が抵抗するより前に、ミシミシと音を立てて頭蓋が潰されていく。

 血飛沫が他の貴族にもかかり、全員がパニックになった。

「……おい。そこの兵士 」

 陛下がこちらを向く。

「ここはどこだ。なんという島だ」

「──ジラマンド島です。陛下」

「そうか、そうか! それはいい! 」

 陛下は返答を聞くと、高らかに笑った。

「これであの魔女に復讐できる! 長かった。数百年かかって、やっと戻ってきたぞ私は!」

 話が見えてこない。陛下は一体、何のことを言っているんだ?

「そこの兵士。そう、お前たちだ。この国にはもちろん、国王付きの兵士がいるんだろう?」

 また質問され、僕たちは素直にうなずいた。

「では、お前たちが今日から私付きの兵士だ」

「なんですって?」

 とっさに言ってしまった。しかし、今回は陛下の気に触れなかったらしい。

「余計なことを知る人間は少ない方がいいからな。今日は許してやる。それとも、殺されたいか?」

 ……今の陛下に逆らうことはできない。

 僕たちはおとなしく、変わり果ててしまった陛下に従った。



 陛下は召使いを呼んで大広間の片付けを指示してから、僕たちに色々と質問をしてきた。

 王室の構成、国の歴史と規模。全て陛下なら知っているはずのことなので、やはりこの人は陛下ではない何かだ。しかし、自分の正体を明かしてくれない。何が気に触れるのかわからないので、聞くこともできなかった。

 ひと通り聞き終わると、陛下は皇太子と主要な家臣たちを謁見室に集めた。

 皇太子はあの晩餐会に出席していたが、お手洗いのため席を外していた。運のいい男だ。そうでなかったら、口答えしたとして真っ先に殺されていただろう。

 僕とエルワンは、護衛として陛下の両隣に立つ。

 陛下は開口一番、こう切り出した。

「これから、フラナンズを攻める」

 なんだって?

 衝撃が僕らの間で走る。こんな平和な時代で、なぜそんなことを。……いや、今の陛下は常人の思考をしていない。それよりも、家臣たちが殺されないかが心配だ。

「へ、陛下! それは、その……なぜなのでしょうか。何か理由があるのですよね」

 家臣の一人が、色々言いたいことを飲み込んで聞いた。

「お前たちに話すことはない。兵士には、敵を皆殺しにし、我らの領土を広めるためとでも言っておけ」

「ですがっ……分かりました」

 あっさり食い下がってくれる。家臣たちは既に、陛下がおかしくなったことを知っているようだ。皇太子もめずらしく何も話さない。

「そこのお前。何日で用意ができる」

 軍隊長が当てられた。

「──三月ほどかと」

「そうか。二ヶ月で準備せよ。出来次第フラナンズ攻めを実行する。各々、準備を……」

 立ち上がりかけた陛下は、よろけて崩れ落ちた。介抱しようとしても、近づくなと制止される。

「くそっ、あれだけ殺してもここまでしか持たんのか。魂、いやそもそも魔力が足らん。魔女め、私が回復したら……待ってい、ろ……」

 誰かを呪いながら、陛下は気を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ