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線路は続くよ異世界に!  作者: とくさ
魔法の森編
26/60

旅立ち

 その日の夜。

 僕は眠らずに、窓の外を眺めていた。

 このまま何もしなければリュシーは行ってしまう。もう、勉強している僕を外に連れ出してくれる人も、笑って隣にいてくれる人もいなくなる。

 そうはさせるものか。

 僕は立ち上がり、慎重に慎重に廊下へ出た。床が軋まないように、ゆっくりゆっくり歩く。

 廊下の途中で、父さんたちの部屋を通り過ぎた。部屋の中から声が聞こえる。

「ふふふっ、あんたも言えばやってくれるじゃない。酒くらい飲まなきゃやっていられないわよ本当」

「まぁ、あとひと踏ん張りだ。私に従ってくれれば、一年後には皇后陛下として民衆から崇められているさ」

「皇后? 」

「そうだとも。美しいドレスに、華やかな舞踏会」

「おいしいご飯に、イケメンとの出会いも! あー、早く面倒臭いことがぜーんぶ終わってしまえばいいのに。そうしたら、私も──あいつら、なんか、見下し……て……」

「ほら、そろそろ睡眠薬が効いてきたんじゃないか? 」

「睡眠……薬? 」

「魔法は本当に便利だな。人を酩酊した気分にさせて、一晩くらいの記憶なら忘れさせられる。族長の娘を殺したときだって、リュシーに魔法の実験だと言い、リュシーの姿に変身できたんだから。おかげで罪を着せるのも楽だった」

「悪い魔法使い……悪魔ね。あんたは」

「ああ。そうだとも」

 ドサっと、何かが倒れ込む音が聞こえた。

「計画が全て終わったら、お前も用済みだ。最後まで生きるのは、私だぞ」

 ……リュシー。これでやっと、僕の気持ちも決まった。

 やっぱり、僕の父さんもひどかったんだね。



 僕がドアをノックすると、「誰? 」と怯えたような声が聞こえてきた。

「リュシー。僕だよ。コランタンだよ。……入っていい? 」

「どうぞ」

 リュシーはベッドに座って、ぼーっと窓の外を眺めていた。

「コランタンも、眠れないの? 」

 僕の方を振り返らない。──嫌われてしまったかな。

「リュシー、ごめん。僕、リュシーを守れなかった」

「コランタンのせいじゃない」

「いや。僕が悪いんだ。まだ、家族が元通りになるって信じたくなっている。本当、これだけは父さんの言う通りだ。新しいことを始めない限り、何も変わらない。このままだと僕は一生、父さんに支配されることになる」

「……私は大丈夫。一人でも、大丈夫だから」

「僕が大丈夫じゃないんだよ! 今の父さんは、何言っても聞いてくれないから反論しなかったけど、僕、決めたんだ」

「そんな、コランタン! 」

 リュシーが、やっと僕をみてくれた。

 正直、今の僕は変な格好をしている。家で一番大きなリュックにパンやナイフ、ランプなどなど、他にも色々詰めた。まるで、旅に行くみたいな。

「コランタン! だめ、来ちゃだめ。危ないよ。コランタンは、まだここで幸せに生きていられるんだから。私は、コランタンと出会う前に戻るだけだよ。だから大丈夫……」

「いやだよ。そんなの! 」

 リュシーを安心させたくて、僕は思いっきり笑った。

「僕は、リュシーの味方でいたいんだ」

 そっと近づき、リュシーの隣に座る。ポケットに入れていたハンカチで、リュシーの目を拭った。

「もう。隠そうとしたって無駄なんだからね」

「──えへへ。だって、恥ずかしいんだもん」

「何だ、てっきり嫌われちゃったのかと思ったよ。ずっと、僕を見てくれなかったから」

「そんな訳ないでしょ! ……だって、お別れするのが寂しいってコランタンに知られちゃったら、心配させちゃうから」

「知らなくても心配するよ。でも、別の意味でも心配だったな。だってリュシーったら、本当に宝石に興味深々だったから」

「あ。バレてた? 」

 そう言った顔が、妙におかしくて。僕は声をあげて笑った。

「ちょっと、もう! 何が面白いの! 」

 でも、リュシーだって笑っている。本当に、父さんに聞かれたらどうしようかとか、そんなちっぽけなことも一瞬、忘れさせてくれた。

 ひとしきり笑ったあと、僕は窓に映る星空を指差した。

「リュシー。あの星、わかる? 」

「どれ? 」

 リュシーは思い切り僕に身を寄せてきた。

「ちょっと近いって……まぁいいや。リュシー。星も、月や太陽みたいにゆっくり動いてるって知ってる? 」

「うん! さっきから見てたもん」

「そうだよね。星は動いてるんだけど、その中でもほら。あの星だけ、ずーっと動かずに同じ場所にいるんだよ」

「そうなの? 」

「うん。しかもね、あの星は大体北の方角にあるんだ」

「へー。すごい! ……待って、もしかして北って! 」

「そう! 僕たちは、あの星を追いかけて旅をするんだよ」

「じゃあじゃあ、宝石はあの星に一番近いところにあるかもね! 」

「そんなにうまくいくかな。でも、そうだといいね」

「うん! 」

 リュシーは、星にも負けないくらいキラキラした笑顔で空を見上げていた。

「ねぇ、コランタン。わたしね、やっぱり寂しかったの。宝石探しは、ほんの少しワクワクだったけど……でもね、コランタンと一緒ってだけで、もっと楽しくなっちゃった! 」

 銀色の光に包まれたリュシーは、とても、綺麗だった。

「うん。僕もだよ。二人で行ったら、きっと宝石も見つかるはずさ」

「あー、ワクワクしてきた! 出発は明日だけど、わたし待ちきれないな」

「だったら、すぐに出発する? 」

「えっ? いいの? 」

「だって待ちきれないんでしょ? というか今出発しないと僕、父さんに止められちゃう。そうだよ、それを言いにきたんだった」

 リュシーはニヤニヤして、僕を小突いた。

「早く言ってよー。コランタンがうっかりするなんてめずらしい。ほら、そうと決まればすぐ出発しちゃお? 」 



 夜中。街が寝静まった頃に、僕らは旅立った。

 北に輝く、あの星を追いかけて。

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