お披露目式
まさか転生先の親が一国の主なんてラッキーだなと思ったけど、異世界だってそう上手くはいかない。
生まれてから一週間後。私は国民にお披露目をされるべく、父上に抱かれ城のバルコニーに出た。
このお披露目式はフラナンズ王国の伝統行事らしく、行われる時間も、子どもが生まれてから一週間後の日の出と決まっている。朝早くたたき起こされて支度をさせられる赤子の身にもなってほしい。私が女王になったらまず、この式を廃止にしよう。
初めて見る城外の景色は、ファンタジーでは定番の円形に広がる町と、青々とした草原に囲まれていた。久しぶりの外気が心地よい。
まだ日が昇っていないのに、城の中庭にはたくさんの人が集まっていた。
みな口々に「ミレーユ様ご出産おめでとうございまーす!」「母子ともに健康で何よりですー!」と叫んでいる。
父上は一歩前にでて、この日のために金糸や大小様々な宝石が縫いつけられたマントで飾られ、小さなティアラを頭にのせたわたしを高く掲げた。
「皆のもの、聞け!」
「なーにが皆のものよ。この一週間、街に降りてきてはのろけ話ばかりだったくせに!」
群衆から野次が飛び、ドッと笑い声が起きた。
「あーもう、うるさいな! 今日くらいはカッコつけさせてくれよ! 一生に一回なんだから」
「はいはい、分かったわよ! 今日だけねー!」
父上は、国民のやりとりで緩んだ空気を咳払い一つで鎮めさせ、改めてと呟いた。
「皆のもの、よく聞け! この度、我らがフラナンズ王国に新たな姫君が誕生した! 名はセレーナ! セレーナ・ド・フラナンズ!」
その時、朝日が昇り、東向きのバルコニーに真っ直ぐ光が飛び込んできた。きっと下からは、まるでわたしが神に祝福されたようにも見えるだろう。歓声が波のように押し寄せた。
「私たちにはこれからも、様々な困難の壁が立ちはだかるであろう。しかし! ここに希望はあり! 今こそ、我ら一丸となって、姫を、この国を、守り育てようではないか!」
オオー! と、群衆も父上の言葉に呼応する。
「セレーナ姫、バンザーイ!」
「これからも共に戦いましょうぞ!」
「まるで唯一神リザーヌ様が降臨なされたときのよう……これでこの国も安泰じゃ」
戦うとかなんとか、物騒だな。それに知らない神様も出てきているし。やっぱり、ここは異世界なのかな。
歓声が飛び交う中、父上は真剣な顔つきでわたしに話しかけた。
「セレーナ。今日のこと、恐らく君は忘れてしまうだろう。だが、これだけは心に刻みつけてくれ」
小さな小さなわたしの胸に、大きな大きな、国王としての手が重ねられた。
「どれだけこの国と君が逆境に立たされても、ここには民がいる。仲間がいる。辛くなったら民のことを思い出せ。自分には、守るべきものがあるのだと」
何があっても忘れはしまいと、私は心のなかで国王陛下に誓った。
この世界に転生したばかりだけれど、きっと──転生する前と同じように、一筋縄ではいかない人生が待っている。
のしかかる手は、小さな胸では支えきれないほど重かった。




