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線路は続くよ異世界に!  作者: とくさ
イーヒスト戦争開戦編
19/60

化け物

 あれから何日経ったんだろう。

 もう疲れた。

 早く、早く城に帰らないと。

 ああ、やだな帰るの。

 きっと皆殺しにされてるよ。

 たぶんわたしも、すぐにみんなと同じところに送られるんだろうな。

 だったらいいかな。

 アルベールが死んだことだけは、最期に確認したいよね。それができたら、気兼ねなく死ねるんだけど。

 でも疲れた。お腹も減った。

 まだ歩ける?

 ……いや、もう限界。

 わたしは、歩いていた草原にばったりと倒れこんだ。

 視界がぐるぐるしてる。お腹もぐるぐるしてる。

 わたし、ここで死ぬのかな。

 もう頑張ったし、考えるの止めていいかな。寝ちゃおうかな。

 まぶたを閉じかけた、そのとき。

 目の前に、血のように真っ赤な果物が落ちた。

 手を伸ばせば届きそうな距離に、ポツンと置かれた。

 あれ? 今これ、空から降ってこなかった?

 気のせいかな。じゃあ、いっか。

 わたしは、震える手で果物を引き寄せた。

 でも、この果物、なんか不思議だな。

 りんごみたいな形なんだけど、数か所がトゲみたいに出っ張ってる。

 不揃いものってやつかな。

 おいしかったらいいや。

 食べちゃえ。

 ……おいしい。

 すごくおいしい。

 お腹減ってるのもあって、すっごくおいしい。

 わたしは夢中で二口、三口と食べ続けた。

 しかし、本当に不思議だな。この不揃いりんご。

 中身が血みたいに真っ赤だ。

「おい、いたぞー! 」

 あれ? 誰か近づいてきてる?

 何重にも重なった馬の足音と、人の声が聞こえた。

「王女の髪……きれいだな」

「おいおい、そんな目で見てんのか? 今からとっ捕まえるってのに」

「違う! ただ、本当にきれーだなって……」

「静かにしろ。俺たちが出会うこともなかったはずのお方だ。もっと敬意を払え」

 意地の悪い男の人たちの声。きっとイーヒストの追っ手だな。

 動く体力も気力も無いままに、わたしは死を待ち続けた。

 ここに来るまであと、ほんの数メートル。

 そう思っていると。

 ふわっと体が、軽くなった。

 なんだこれ。どんどん意識が遠のいていく。

 これが、死ぬってことか。

 でも、体が自分のものじゃないみたいに勝手に動きだした。

 まぁいっか、と思うことにした。



「この方があいつの姫様かぁ……。惚れちまうのも納得だな 」

 頭を剃った男が、馬を降りながら話す。

「お前らがさっきから話してる、あいつって誰だ? 」

 髭面の男が言った。

「うーん、説明すると長くなるんだが」

「ならいい」

「なんだよ」

 髭面の男は、ツッコミの手も軽くかわしていく。

「しかし、皇太子も変人だな。か弱い女の子一人を血眼になって探すなんて」

 髭面の男が握る簡潔に特徴が書かれた手配書には、「王女セレーナ。長い金髪に青い目。銀の髪飾り。連れ帰った者に金貨百枚」と書かれている。

「フラナンズの連中に、姫様が生きていると信じて言うこと聞かない奴らがいるんだってさ。……もういっそのこと、従っちまった方が楽なのに。そんだけ、この子がいい姫だったんだな」

「ああ。──この元姫様には申し訳ないが、上の命令だ。仕方がない」

 髭面の男が、柄を分解していた槍を組み立てていたとき。

「お前ら、少し見ていろ。こいつの首は俺が切る」

「エルワン! 抜け駆けすんじゃねぇぞ」

 エルワンと呼ばれた若い男は、話しかけた髭面の男にジロリと視線を向け、「約束は守る。俺には、自由にしたいやつがいるんだ」と言って、剣を抜いた。

「まぁ大丈夫だって。エルワンは強いし、ここまで本気になる動機も大したもんだしよ」

「……それもまた、あいつがらみか? 」

「まぁな。親友の為ならなんとやらって、言うだろ? 」

「お前らうるさい。少し口閉じてろ」

 セレーナが立ち上がったのは、そのときだった。

「おい。立ち上がったぞ」

「見るからに満身創痍だな。エルワン。お前なら手負の姫くらい余裕だろ」

「黙れ」

 セレーナの首に、狙いが定められたとき。

 突然、強い風が辺りを吹き散らした。

「なんだ?」

「この風──あの、死んだ国王のやつに似てるぞ! エルワン、あぶねぇよ!」

「そうだぞエルワン。一旦引こうぜ! 」

「……先手必勝だ」

「エルワン?」

「このくらいなんだ。あいつを自由にするんだったら、こんなところで止まれない。それに、あいつだったらこんなところで止まらない!」

 若い男がセレーナのふところに入ったとき。

 セレーナは、剣を振るった。空気でもなでるように、柔らかく。

 次の瞬間には、男の首が草原に転がっていた。

「エルワン!」

 二人が駆け寄る。

「貴様、なんてことをするんだ! 」

「エルワン? おい、どうしたんだよ。俺、お前に言われるまで何にも知らなかったのに……。最近、やっと、笑ってくれるようになってたじゃんか」

 二人は剣を抜いた。

「エルワンの仇は俺が討つ! さぁ、かかってこ──」

 また音もなくセレーナは剣を振るい、髭面の男の首を切り落とした。

「うわぁぁあ⁉︎」

 残された頭を剃った男は情けなく尻もちをつく。

 セレーナは、一歩前に歩み出て剣を抜いた。

 その目の中に、もう慈悲はなかった。

 まるで人が変わってしまったように、口元だけが笑っていた。

 声は凍てつき、獲物を突き刺していく。

「ゆっくり、苦しんで死ぬがいい」

 男に向かい風が吹いて目を閉じた瞬間、セレーナが無数の斬撃を放った。

「ぐはぁあ! 」

 いずれも致命傷ではないが、身動きが取れるようなものでもない。

 恐怖で染まった男の顔に満足したセレーナは、剣をちらつかせて男に近寄った。

「待っ、待ってくれよ! 話だけでも聞いてくれないか! あんた、姫なんだろ!」

 男が叫ぶ。しかし、聞く耳も持たずセレーナは男の脇腹を突き刺した。

「私はもう、セレーナなんかじゃない」

 その笑みには、あの悪魔とセレーナの優しさが混ざり合っていた。



 なんだか意識がぽわぽわする。

 視界は真っ暗で。でも、剣を握る感触だけは確かにあって。

 体が勝手に動く。重たいような、柔らかいような、何かを切った。

 続けてもう一度。

「うぎゃぁぁあ! 」

 ……なにこれ? 断末魔?

「ゆっくり、苦しんで死ぬがいい」

「ぐはぁあ! 」

 ──わたしの声だ。

 わたしが、どこかの誰かに言っているんだ。

 この状況、まるで、転生する前みたいな。

 なんだ。そういうことか。

 なら、ちゃんと誰かに言ってあげなきゃ。

「わたしはもう、セレーナなんかじゃない」

 悪魔に取り込まれた、ただの化け物。

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