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線路は続くよ異世界に!  作者: とくさ
イーヒスト戦争開戦編
16/60

ランスロ

 混乱している我が軍にイーヒスト軍が到着し、すぐに乱戦となった。

 フラナンズ軍は、圧倒的な数の暴力によって苦戦を強いられている。わたしとアルベールは、皇太子と軍隊長を探して戦場を駆けていた。

 無言で馬を走らせる。

 頭の中は、軍隊長に裏切られたショックでぐちゃぐちゃだ。

 でも、不思議なことにどこか冷静な自分がいる。本当に軍隊長が裏切ったとしたら、これまでのつじつまが全て合うからだ。

 内通者を見つけたと報告しようとしたペティーを牢に入れたのも、イーヒスト軍の情報が全て間違っていたのも、軍隊長が全てやったこと。

 しかし、こうしてフラナンズ軍の兵士たちは命がけで戦ってくれている。どうやら裏切ったのは軍隊長だけのようだ。軍議などの情報は全て、軍隊長によって捻じ曲げられ、報告されていたということか。

 ああ、なんだ。カラクリが分かれば理解するのは簡単。ただ……。

 ただ、悔しい。

 子どもの頃から稽古をつけてくれたのも、アルベールを紹介してくれたのも、全部、全部嘘だったのかな。

 あの笑顔も、全部、嘘だったのかな。

 ああ、悔しい。

 涙があふれては、風に流された。今日は泣いてばかりだ。

「──セレーナ様」

 ずっと無言だったアルベールが口を開いた。

「私は、あの裏切り者の紹介でこの地にやってきた人間です。もしセレーナ様が私のことを疑っているとしても、当然のことだと思います」

 こう言われて初めて、わたしは自分がアルベールのことを微塵も疑ってなかったことに気がついた。確かにそうだ。状況的にはアルベールも裏切っていたと考えてもおかしくない。だけど……わたしは疑えなかった。疑いたくなかった。

 今アルベールまで失ってしまったら、わたしはどうすればよいのだろう。

「本来ならば私は、国家転覆の疑いで拘束されるべき人間です。しかし、こうして私は今自由の身でいられる。……ならば、私は」

 アルベールは、この戦場のどこかにいる恩人に向かって呟いた。

「私は、私の仕事をするだけです。セレーナ様の剣として」

 ……そうだよね。今は考えてる場合じゃないよね。

 わたしはこの国の王女、セレーナなのだから。

 ちゃんと王女らしくしなくちゃ。

「それと、もし私が裏切り者と戦うことになってしまい、皇太子とセレーナ様が二人きりになったとしても大丈夫です」

 ふっ、と柔らかく笑ったアルベールは、少し無理をしているように見えた。

「あの皇太子はもう四十後半です。若さでセレーナ様が勝つでしょう」

「もう。なによそれ。でも──ありがとう。アルベール。そっちも大丈夫よ」

「ええ。もちろん。負けませんよ!」

 本当に、ありがとう。と、わたしはまた心のなかでつぶやいた。

「あっ、あそこに!」

 混戦から少し離れたところに、スッポリと白いフードを被った皇太子と側に控える軍隊長、いや、ランスロを見つけた。

 涙の最後のひと粒が、こぼれて消えた。


 わたしとアルベールが皇太子たちに近づくと、ランスロが剣に手をかけ牽制してきた。

「姫様、いや、今はセレーナと言うべきですか。驚いたでしょう。国に忠実な軍隊長が、実は敵国の手の者だったなんて」

「ええ、もちろん。ランスロ」

 わたしも、剣を抜ける体勢に入った。

「本当なら、いつまでもあなたと話していたい。でも今日は時間がないわ。緊急時だから。わたしはその皇太子に用があるの。そこをどいて」

「……これで五百六十二戦目ですね。最近は負けっぱなしでしたが、それも今日までです! 」

 ランスロは剣を抜き、まっすぐこちらに向かってきた。訓練していたときよりも、速い! 今まで実力を隠していたというのか。

 やっぱ悔しい。絶対わたしが戦いたい。勝つ。

 けど、わたしと同じ気持ちの人がもう一人いる。今回は譲ってあげよう。

 突撃してくるランスロに人影が割って入った。剣を受け止めたのはアルベールだ。

 二人とも、ものすごい力で互いを押さえつけている。わたしが入る隙すらない。

「……いくら恩人であろうが、姫様と国に仇なす者は全て敵です」

「ああ。分かっている」

「ならば、なぜ……!」

 アルベールが剣を振り払い打ちつけるも、ランスロは難なく受け流していく。

 再び膠着状態になったとき、ランスロが言った。

「少し、話をしようか」

「お前と話すべきことはもう、何もない! 」

「ずっと前から知りたがっていた話だよ。アルベール」

 そのとき、皇太子が逃げるような素振りを見せた。

「私は──」

 皇太子は馬に乗り、草原の方へと去っていく。

 

 ごめん、アルベール。ここは任せたよ。

 わたしは皇太子を追いかけた。

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