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線路は続くよ異世界に!  作者: とくさ
0歳から10歳編
10/60

アルベールの過去

 忙しかった日々に、戦争の準備が加わった。

 兵力拡充、ウェストニアへの応援要請、緊急時の避難訓練など、やることは山ほどある。

 国民に発表した当初は動揺が広がった。けれど父上の言う通り、フラナンズ国民は、強かった。

 街に降りると、「セレーナ様も大変だよなぁ」「私たちになにかできることある?」と声をかけてくれる。備蓄のため、国の食糧庫への寄付を呼びかけたところ、すぐに倉庫がいっぱいになったそうだ。

 あの会議の後、父上から頼まれた「王女として民を励まし、一致団結させる」こと。わたしは上手くやれているのかな。

 不安になっていた、ある日。

 ──今日もペティーが帰って来ない。ここのところ泊まりで裏通りに行くことが増えている。ばあやもいるんだろうけれど、やっぱり心配だな。

 ペティーも頑張っている。わたしも明日、また街に行くつもりだ。なのに……まだ寝れない。

 ベッドから降り、カーディガンを羽織る。ちょっと散歩してこようかな。

 真っ暗な廊下を通り、足は自然と訓練場へ向かっていた。

 もう真夜中だ。誰もいないだろうなと、思っていたのに。

 月明かりに照らされ、一人黙々と剣を振る兵士がいた。

「アルベール? 」

「わっ! 」

 驚いたアルベールの手から剣が落ちる。本物の剣みたいだ。キィンと辺りに響く。

「ごめんごめん。驚かしちゃったね」

「なんだ、姫様でしたか……」

 アルベールは剣を拾い、鞘へと収めた。

「こんな夜中にどうしてこちらに? 起こしてしまいましたか? 」

「ううん、全然。ちょっと寝付けなくて散歩中。アルベールだって、明日も早いのにまだ訓練しているの? 」

「あー、僕は……昔の夢を、みてしまいまして」

「夢? 」

 わたしは側にあったベンチに座り、アルベールを手招きした。素直にこちらへと歩いてくる。

「夢って、イーヒストにいた頃の? 」

「はい。……家族のこととか、親友のこととか」

 隣に座ったアルベールは、側にいれば感じられるほどに体が熱かった。

「戦争が始まる前に、ご家族の亡命も手助けできないかな」

「いえ、大丈夫です。……もうみんな、僕を置いていってしまいましたから」

「えっ? 」

 暗いせいで表情を見れない。ただ俯いていて、月が黒髪を照らしていた。

「僕の父は、小さい頃に行方不明になったんです。母も病気で亡くなって。軍に入ってからは友だちもできて、一緒に亡命しようとしたんです。だけど、追っ手から僕を逃がすために残って……。きっともう、彼らも殺されてしまったでしょう」

 ポトリと、水滴が落ちる音がした。

 わたしはアルベールの手を握った。たこだらけの指も、筋肉のついた手も、アルベールを覆い隠しているに過ぎない。本当は、たった十三歳の子どもなんだ。側にいるたった一人を守れないで、王女なんて名乗れない。

「大丈夫」

 今は、こんな言葉しかかけられないけれど。

「大丈夫。わたしは絶対、離れないから」

 鼻をすする音が、訓練場に響く。

 わたしはただ、アルベールの手をさすっていた。

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