4 興亡〜閑話休題
四百二十年前。
一つの災厄が訪れた。厄災龍ヴェルガノンドの襲来である。
真っ黒で一つの街を軽々と覆い尽くすほどの巨体を誇る龍は、ある日突然現れ、大陸で一番の繁栄を誇っていた都市の一つを一夜で滅ぼした。
ヴェルガノンドは、そのまま世界を滅ぼすかと思われたが、そこにもう一体の蒼い龍が現れた。
蒼龍アルカスタは、当時、大陸で一番の大国だったウィー帝国の帝都に現れると、王宮の屋根の上に、龍の蒼玉と呼ばれる宝珠と一枚の石版を置いた。
「小さき生き物よ。これで我とともに戦うがよい」
低いがよく通る声が、帝都中を巡ったという。
人の背丈の三倍はあろうかという石版は、慎重に降ろされ、皇帝をはじめとした廷臣たちの前に運び込まれた。
蒼く静かに光を放つそれは、なにか特別な力を持つ宝玉と考えた彼らは、さっそく国中の高名な学者を集めて研究させた。
太陽が百回巡る時間が流れた。
神出鬼没の厄災龍は、気まぐれに都市を破壊して回っていたが、その間に人間たちは研究を重ね、石版が人型の機械の設計図だと結論づけた。
そして、人の頭より一回り大きな宝玉こそが、動力源たる物だと判明した。すぐに図面どおりに建造が始まり、やがて、一体の人型の巨大兵器が完成した。
これが鉄騎兵の原型だ。
最初の一騎の鉄騎兵はカルヴァドスと名付けられ、蒼龍と共に大地を駆けた。二体は戦い続け、災厄龍ヴェルガノンドと、その配下として生まれていた無数の眷属龍との、長い激戦の末に勝利した。
厄災龍は火山の中に姿を消した。
蒼龍アルカスタも戦いで深く傷つき、人間たちに賞賛の言葉を残した後に姿を消した。
残されたのは、眷属の龍たちの身体から発見された、たくさんの黄色い宝玉だけだった。
人類はつかの間の平和を手にした。件の石版がどこから来たのか、誰にも分からなかったが、やがてその石版とカルヴァドス、そして、黄色の宝玉を用いて、たくさんの鉄騎兵が建造された。
その技術と騎体は各国に渡り、世界の繁栄と国家の滅亡に力を貸した。
そして、時代は流れ今に到る。