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3 攻防〜オグマの奮闘

「さて、お手並み拝見といこうか」


 アルスの予想どおり、あれから間もなくして、シャモア皇国軍のベルン七騎は後方へ下がり、代わりに六騎が入れ替わるように城壁の近くへ取り付いた。

 兵士たちは騎体の足元に展開したまま、ベルンを遠巻きにして布陣し、ロングボウや攻城兵器の破砕槌で城壁を攻撃している。それを侯爵領軍が反撃しているが膠着状態に陥っている。

 そして、その隙間を縫うように、五騎の銀の鉄騎兵コーパルと、一騎だけ琥珀色に塗られたコーパルが立ち塞がる。

 城壁へ取り付こうとしたベルンが進路を変え、コーパルへと向かってきた。奇しくも一対一となる。オグマはベルンよりも細身のコーパルに長剣を抜かせると大きく振り上げた。


「かかれぇ!」


 外部スピーカーと近距離用念波通信の両方で叫ぶ。胸部にあるコックピットハッチも開いたままなので肉声も飛んだ。

 ゆったりと動いていたコーパルの全騎が抜剣すると、そのまま駆け出しながら手近にいるベルンへ打ちかかった。

 しかし、重装甲のベルンは分厚い盾で受け止め、力比べが始まる。

 オグマの琥珀騎も、一撃目は紺のベルンの大盾に受け止められた。


「まあ、簡単ではないよな」


 今度は通信ではなく独り言を呟くと、レバーを引いてコックピットハッチを閉じながら一歩跳び下がる。

 そして再び上段から振りかぶると、そのまま振り下ろす。たまらず相手のベルンが盾を振りかざすが、その盾を躱すように振り下ろすと、腰の辺りで踏み堪えて鋭角を描いて横に薙ぐ。剣を握るマニピュレーターの関節部分が軋んで嫌な音を立てながら、剣がベルンの腰の辺りを一閃した。

 ベルンはぐらりと揺れると、上半身だけが横倒しに崩れた。


「まず一騎!」


 コックピットのモニター越しに戦果を確認し、次の標的を探して目を走らすと、城壁前で味方のコーパルを押さえ込み、城壁を砕こうと大剣を振り上げるベルンが目に入った。助けに行こうとした瞬間、城壁の上の味方の辺りから煙が上がり、一本の鋼鉄の大槍が撃ち出された。

 バリスタだ。

 蒸気の力で撃ち出された鋼鉄の槍は、ベルンの頭を貫き尻餅をつかせる。

 オグマはペダルとレバーを操作して自騎を勢いよく走らせると、その勢いのまま、ベルンのコックピットのすぐ下の、操作系のケーブル類が集中している辺りに正確に剣を突き刺した。ベルンは一瞬痙攣したように跳ねると、そのまま機能を停止して擱座した。


「お見事!」


 押し込まれていたコーパルの騎士から声が上がり、城壁の上の兵士たちからも歓声が上がる。


「バリスタ隊!助かった!」

「さすがオグマ様!こちらこそ助かりました」


 コーパルの騎士からの礼に、左のマニピュレーターを動かして応えると、オグマはそのまま訊ねた。


「動けるか?」

「……なんとか……」


 銀のコーパルは、駆動音を響かせながらゆっくりと立ち上がる。


「いけそうです。盾は割れましたが、剣がありますから、なんとしてでも防いでみせます」

「ん、その意気だが……無理はするな」


 戦場を見渡せば、コーパルとベルンがあちらこちらで切り結んでいる。

 すでに二騎のコーパルが倒れていたが、それ以上にベルンの損傷の方が大きくも見える。互角ながらも、わずかに推しているように見えた。だが、皇国軍にはまた補給中のベルンがいる。


「気を引き締めろ!」


 オグマは叫んだ。指揮といい単騎での戦闘技術、操縦能力といい、オグマは優れた騎士だった。

 量産汎用騎のコーパルとベルンは性能に大差はない。一長一短の特徴があるが、同レベルの騎体であれば、騎士としてのオグマは抜きんでている。

 オグマが琥珀のコーパルの右手を掲げ、鬨の声をつくろうとしたその時、念波通信がコックピットのスピーカーから流れた。


「甘い!油断か?」


 同時に衝撃を受けてコーパルが横殴りに吹き飛ぶ。ごろごろと転がりながらも体勢を立て直し受け身を取らせたオグマは、コーパルを立たせ身構える。

 見れば、先ほどまでコーパルが立っていたところに、鮮やかな紫色の細身の鉄騎兵が剣を薙ぎ払ったまま止まっている。


「出たか、シュターカ」

「おう、侯爵領にまでわが鉄騎兵の名前が伝わっているとは光栄だな」

「今日が最後にしてやるさ」


 念波通信で棘のある言葉が飛び交う。


「さすがだ。旗印からするに、貴殿が侯爵領騎士団の筆頭騎士オグマだな」

「……こちらこそ、こんな辺境の騎士の名前をご存じとは……痛み入る」

「辺境とはよくいう。ここは最前線ではないか。強い騎士がいると有名だぞ……我が名は第二師団長サクリス・ブラウン!これも高名な、鉄騎兵サーパスの姿が見えぬが……よい、始めよう」


 正面モニターの向こうでサクリスの操るシュターカが抜剣したまま構えた。オグマは素早く計器類に目を走らせて、自騎の状態を確認する。

 センサー系は正常。動力は少し出力が落ちているが正常範囲。駆動系は……各関節が悲鳴を上げている。あまり長くは持たない。武器はすべて問題なし。

 機体性能の差は、オグマの知っている情報どおりなら明らかに負けている。騎士の腕は……せめて互角と思いたい。

 総合的に判断すれば、これは負け戦の可能性が高い。

 だが、オグマにはまだ、いくつかの手があった。あとは、その手が性能差を埋めてくれるかだ。むしろ、この後の戦力差まで考えると埋めるだけでは足りないだろう。

 オグマは短い思案の後に一言呟いてから、騎体に長剣を構えさせ腰を落とす。


「龍の神よ。力をお貸しください」

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