表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

2 好防〜指揮所にて

 いくつかの手配を済ませ、城の正面の門を出ると、そこに広がるのは見慣れた街並みと大通りだった。先ほどまで浮かんでいた月は西の空で白くなり、東には朝日が昇って街並みを照らし始めている。

 城壁の門まで、軽装に全速で走れば、時計の秒針が一周する頃には辿り着いてしまうような狭い街で、今はなにかヒリついた様な空気が流れている。

 通りには一騎のコーパルが屈んでいて、腕の装甲を外していた。騎士と何人かの兵士がとりついていて、作業をしている様子が見えた。


「サガロ、どうした?」


 オグマは騎体の側に立っていた騎士に声をかけた。


「あ、隊長!昨日の戦で腕部を破損したようで……」

「大丈夫ですよ。中身はほとんど無傷です」


 横にいた作業着姿の兵士が庇うように言った。

 オグマが覗き込むと、人で言うと骨に当たる部分のメインシャフトと、それを取り囲むように這う、筋肉代わりの線やケーブルが綺麗に収められている。

 確かに損傷らしい部分は見当たらない。


「魔力筋のメンテナンスだけで済みました。今から装甲を戻させますから、すぐに出れます」


 整備兵が言う。サガロは右手を額に当てて敬礼すると「申し訳ありません」と言った。


「気にするな。頼むぞ」


 サガロの肩を軽く叩くとオグマは大股で歩き始めた。

 大通りには大店の商店が続く。住民たちはすでに城外や城の地下に避難済みで、人気はほとんどない。すれ違うのは軍属ばかりだ。

 現在、一番上席なのはオグマなので、実質司令官のようになっている。そのせいか、通り過ぎる者のほとんどが立ち止まって敬礼をしていく。

 オグマはそれに返しながら歩みを止めず、城壁へ向かう。

 正門の少し中程にある建物の入口に近づくと、ドアの前に直立していた兵士が敬礼と共に脇にどき、入口を開けてくれた。


「ご苦労!」


 小さなドアをくぐり中に入ると、石造りの小さな小部屋があって、はしごが一つかかっている。オグマは慣れた手つきではしごを五階分上ると、少し広い部屋に出た。

 壁の一方向だけがガラス張りになっていて、城壁とその向こう側の戦場が一望できる。鉄騎兵の頭よりも随分と高い位置にある部屋で、中央の大きなテーブルに地図が広げられ、五人ほどの士官が何事か言葉を交わしている。


「戦況は?」

「良くはないですが、最悪ということもありません」


 部屋に入るなり声をかけたオグマに、答えたのは文官の制服に長い白髪の若い男で、筆頭騎士付参謀のアルスだった。隣に立っている眼鏡をかけた童顔のテインが無言で彼の頭をはたいた。


「具体的に!」

「痛っ!……彼我の戦力差は大きいですが、城壁が持ってくれていますのでなんとか押さえています」

「打って出るのは難しいか?」

「……タイミング次第です。もう少しすれば、連中は補給のために下がります。入れ替えの隙を突けば多少は……ですが……」


 アルスはそこまで言うと、改めて戦場の方を見て口ごもった。


「……シュターカだな?」


 オグマが呟くとアルスとテインは小さく頷いた。


「向こうの旗印は第二師団です。となると師団の旗騎のシュターカがいるはずです」

「私も、まだそれを見ていません」


 テインが窓の向こうを指して言った。

 シュターカは、皇国の制式鉄騎兵ベルンを改修した騎体で、指揮官などに配備されている。

 性能もベルンより上だが、それ以上に、扱う騎士が強い。当然、このティーガ城へも指揮官騎として参戦しているだろう。


「……懸念は分かった。だが、数少ないチャンスなのも間違いがない」

「……そのとおりです」

「であれば、打って出よう」


 オグマは言った。


「はっ!」


 アルスたちだけではなく、部屋にいたすべての士官が返事の声を上げる。


「兵士は全員、城壁の内外に下がるよう通達。全員持ち場に走れ」


 参謀の二人を除いて、士官ははしごに駆け寄り我先に降りていった。


「テイン。君は騎士たちへ伝えてくれ。配置は任せる」

「はい」

「それから私も出る」

「え?……恐れながらオグマ様のサーパスはメンテナンスのために城外の工房へ出したと伺っておりますが……?」

「ああ。アルス。説明を」

「……我が軍の旗騎サーパスはメンテナンス中だけれど、代わりに昨年、ヘンナ王国より秘密裏に拝領した廃棄騎の魔力炉と制御機関を修理した。で、そいつとコーパルの余剰パーツを使って一騎組み上げたんだ」

「それ……大丈夫な……」


 テインはハッと気が付き、慌てて自分の口を押さえたが、オグマは苦笑しただけだった。


「大丈夫。稼働試験は済んでるよ。コーパルの性能は引き出せてる」

「……というわけだ。私ははそれで出る。さあ、すぐに支度を」


 三人ははしごに足をかけると素早く駆け下りた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ