雪景色をともに 2
(あー。温泉て、こんなに気持ちがいいんだ)
部屋付きの露天風呂で、リーアは温泉を満喫している。
泉質のせいか、お肌はびっくりするくらいつるつるのすべすべだし、お湯自体が柔らかい気がする。
それに、なんだか体中に温かさが染み入って、内側からもポカポカとしてくる。
露天風呂は、思ったより大きくて、正直、リーアは、宿についている共同浴場を別にすれば、こんなに大きな風呂に入るのは初めてだ。
手足を伸ばして、筋肉をしっかりと揉みほぐす。
(ああ、気持ちいい……)
「随分気持ちよさそうだねぇ」
突如聞こえた声に思わず振り返ると、腰にタオルを巻いただけのイクスが、楽しそうに笑って立っていた。
『な、なんで……!一緒に入らないって言ったのに』
「俺は、それを受け入れた覚えはないよ?」
言われてみれば、確かにイクスは、リーアの言葉に対して、わかったとは言わなかった。
とりあえず入っておいで、と言っただけだ。
『だまされた』
「えー、ひどいなぁ。だましてなんてないよ?リーがちょっと誤解しちゃっただけでしょ?」
悔しいけど言い返せない。
むー、とリーアが唇を尖らせているそばで、イクスは何でもないようにかけ湯をして温泉に入ってきた。
実のところ、こうして、自分の隠れ家以外でイクスが裸になることは、とても珍しい。
イクスは、常に360度警戒しているようなところがあるので、めったに服を脱がないのだ。
そりゃ、湯浴みはするし、着替えもするけれど。
それが、こんなに開放的なところで裸になるなんて。
「がっつり不可侵魔法をかけておいたからね」
リーアの考えを見透かしたように、イクスが言う。
目を凝らしてよーく見ると、確かに幾重にも不可侵魔法が張り巡らされている。
ちなみに、こんな仕事をしているし、あんな過去も持っているけれど、イクスの身体は傷がほとんどない。
それは、イクスがそれだけ有能だという証でもあるし、ちょっとした古傷はリーアが治してしまったという理由もある。
右目を含むいくつかの古傷がそのままなのは、イクス本人が、自分への戒めの意味で治さなくていいと言ったからだ。
「なぁに、リー。そんなにじっと見て。俺の裸に見とれちゃった?」
からかいを多分に含んだ言葉に、リーアは何も言えない。
「え?ほんとに?」
イクスが驚いたように僅かに目を見開く。
仕方ないじゃないか。
だって、イクスの身体は、バランス良く筋肉が付いて引き締まっていて、それだけでも彫刻のようなのに、おまけに肌もきめ細かい。
本当に、綺麗なのだ。
「もっとよく見る?」
『結構です!』
顔が熱い。
恥ずかしいのももちろんあるけれど、どうやら少しのぼせてしまったみたいだ。
でも、露天風呂から出るとなると、嫌でもイクスの前で全裸を晒すことになるわけで。
どうしようどうしようと思っている間に、どんどん身体は熱くなっていく。
外気が冷たくて、本当に助かった。
これが真夏だったら、間違いなく今頃リーアは意識を失っていただろう。
「リー、顔真っ赤だよ。のぼせる前に出たほうがいいんじゃない?」
『じゃあ、イクスさんはあっち向いてて』
「えー、なんで?リーの裸なんて見慣れてるのに」
暗に、秘め事を連想させるかのような言葉に、リーアはますます恥ずかしくなる。
「なぁに想像しちゃってるのかな?俺は、リーを引き取ったばっかりの頃に、リーが湯浴みのときには、すぐにポーンと服を脱いでたことを言ってるんだけど?」
悔しい。
間違いなく面白がられてる。
『あの頃は、まだ小さかったし!』
「そうだね。リーは、大人の身体に近づいてる」
イクスの言うとおり、まだ大人の身体とは言えないが、少しずつ、女性らしい身体つきになりつつある。
「俺が我慢できるうちに、行って」
少し掠れたイクスの声に、リーアは慌てて露天風呂から出ると、かごに入れておいたタオルを体に巻き付けて、部屋の中で慌ただしく水分を拭き取って服を身に着けた。
イクスは、リーアが出てからそんなに間をおかず出てきた。
やはり、あまり長いこと無防備な裸でいることは嫌なのだろう。
「リー、水分はとった?」
コクンと頷くと、リーアの後ろに回ったイクスが、昔のようにリーアの髪を乾かしてくれる。
気持ちよくて、少しウトウトしていると、イクスが優しく言った。
「リー、もう寝る?」
『まだ寝ない』
「そぉ?じゃ、ちょっと外見てごらん?雪が降り始めたよ」
言われて、窓の外を見てみると、細かな雪が静かに降っていた。
「きっと、朝には一面の雪景色だよ。楽しみだね」
ソファでイクスの膝に座らせられたまま、リーアはしばらく空から絶え間なく降り注ぐ雪に見入った。
氷魔法の応用で、人口の雪を作れないかと言われれば、一応は作れる。
ただ、こんなに繊細できれいじゃない。
『きれい』
「うん。これを見れただけでも、来た甲斐があったね」
イクスの胸にもたれるようにして雪を見ながら、気がついたらリーアは夢の世界に落ちていた。




