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過去とこれからと

イクス視点です


では、どうぞー!

最近、リーアはたまにイクスの過去について聞いてくるようになった。

これまでは、自分のことで精一杯で、そこまで意識が行かなかったのだと思う。


リーアに聞かれて困ることはないけれど、イクスのこれまでをすべて話すには長くなりすぎるし、中には、少しだけ、リーアがどう思うかな、と思う過去もある。

それでも、ほんのさわりだけリーアに話せば、リーアはそれ以上聞いてこない。

イクスが話し終わったところで、話を終える。

興味がないわけではないだろうに、たぶん、イクスのペースにあわせてくれている。


敏い子だな、と思う。


無意識にだろうが、イクスがしつこく聞かれるのを嫌がることに気がついているのだろうし、誰にでもあまり知られたくない過去があることを知っている。

10歳にもならない子なのに。

それは、自分の過去があるためか、それとも天性のものなのか。

どちらにしても、リーアはイクスにとって居心地のいい存在だ。


リーアにも少し話したけれど、施設に入る前、ちょうどイクスに引き取られた頃のリーアの年齢と同じ頃、イクスは、森にほど近い貧民街で育った。

下町で盗みをするより、森に入って自分で獣を捕まえたほうが早いと、いつからか森に入るようになった。

たぶん、同じ年頃の子どもたちよりも、感覚も能力も優れていた。

だから、食べ物に困ることは、あまりなかった。

森の中でどんどん研ぎ澄まされていく五感と、身体能力は、施設に入れられるには十分なものだっただろう。

おそらく、リーアが貧民街で育ったなら、リーアも施設に入れられていた可能性はある。

まぁ、あの国にそんな施設があったかはわからないけど。

いや、正直に言えば、調べた結果、それっぽいものはあったけれど、レベルはイクスの育った施設には遠く及ばないものだった。


リーアは、身体能力はともかくとして、魔術と、記憶力がずばぬけている。

護身術は教えているけれど、たぶん武術面はアンナ同様それほど伸びないだろう。

となると、もしリーアが施設にいたとしたら、教えられる暗殺術は、毒殺と閨での暗殺だ。

つまり、アンナと同じ。

リーアにそんなことさせたくないから、リーアが施設に捕まらなくてよかったと、イクスは思っている。

自分色に染まっていくリーアを見守るのは、とても楽しい。

リーアを見つけたのは、僥倖だった。




そんなことを、頭の片隅で考えながら、イクスは独立派の幹部たちの集会を、天井裏から見ていた。

彼らがこれから何をするつもりなのかは、もう大体掴めたので、あとは、それを一つずつ潰して、最終的には独立派を全員暗殺するだけだ。


(それにしても、リーは面白いこと考えるなぁ)


隠れ家に着いた時に、リーアが言っていたことを思い出す。


追手を始末するだけでは埒が明かないから、それならその親玉を脅せ。


リーアが言いたかったことはそういうことだ。

もちろん、脅すだけではなくて、潰してしまってもいいのだけど、それはそれでめんどくさそうだ。


今夜も、予めいたのであろう隠密騎士が、影からイクスの様子を伺っていることがわかる。

任務中に手を出してこないのは、任務に差し障りがあると困るからだ。


自分で言うのもなんだけれど、隠密騎士の中では、イクスは群を抜いた実力を持っている。

隠密騎士団団長ですら、おそらくイクスの敵ではないだろう。

それがわかっているから、難しい任務はイクスに任せつつ、それが終わり次第イクスを始末するつもりなのだろう。


契約上、守秘義務はあるが、皇帝に歯向かうことは禁じられていない。

そんなことをする奴が今までいなかったから、というわけではない。

初めて隠密騎士として契約する時に、イクスが頷かなかったからだ。

完全に皇帝の犬になるくらいなら、この場で皇帝を害する、という意思を見せたら、契約からその部分は呆気なく消された。

なぜそんなに簡単に契約内容が変わったのかは、イクスにもよくわからない。

あの時のイクスはまだ駆け出しだったのに。


本当は、抜身の刃のような少年が、実際に皇帝に歯向かってきたら、隠密騎士団も皇帝も無事では済まない、と判断されたからなのだが、イクスはそんなことは知らない。

というより、気がついていない。


施設にいた他の子どもたちに比べて、隠密騎士たちはそれほどレベルは高くないな、とは思ったけれど、自分がどれほどギラギラして、危うかったのかは分かっていないのだ。


ともかく。

おかげで、イクスはこれ以上追手をかけるなら、皇帝を狙う、と告げるだけで良くなった。

なんでこんなに簡単なことに気が付かなかったのか。

やはり、皇帝の犬としての年月の弊害か。


イクスは、独立派の密会の内容を魔法陣で隠密騎士団長に送って、独立派の人々が解散したのと同時に、その場を去った。

その跡を、隠密騎士が追ってきている。

イクスは、今夜は何かをするつもりはない。

やるなら明日だ。

だから、あえて途中まで跡をつけさせて、それから気配を殺して隠れ家に帰った。


時間的に、リーアはもう眠っているだろう。

イクスがかけた不可侵魔法に異常がないことを確認して、隠れ家の中に入る。

小屋の中はシンとしていて、誰の気配もない。

リーアは、うまく気配を消して眠っているようだ。

気配を消したまま眠るのは、簡単にできることではない。

リーアだって、最初の頃はできなかった。

それが、いつの間にか出来るようになっている。

本当に、リーアの成長は目が離せない。

小屋に一つしかないベッドでは、リーアが眠っていた。

夢でも見ているのか、眉間にシワが寄っている。

起こさないように、そっと眉間をグリグリと伸ばして、頭を撫でてやると、リーアの身体から強ばりが解けた。



「ただいまー、リー」



そっと、小さな小さな声で話しかける。

無意識に察知したのか、リーアの口元が綻んだ。


(ほんと、可愛いんだから)


清め魔法で体をすっきりさせたあと、ベッドに潜りこむ。

リーアを抱き込むようにすれば、リーアもイクスの胸に擦り寄ってくる。


明日も、夕暮れ前には仕事に出る。

予定では、明日には任務を終わらせて──つまり、独立派の元貴族を抹殺して──イクスの始末に来る隠密騎士を捕らえる。

そうしたら、ソイツを適度に痛めつけて、皇帝と隠密騎士団長に伝言を預ける。

ついでに、ソイツがイクスからの言葉を伝え終わった頃を見計らって死ぬように時限式の毒薬を与えておけば、なおいい。

時限式の毒薬は手元にないけれど、リーアなら簡単に作れるだろう。


それでも追手をつけるようなら、予定通り、皇帝の足一本でも腕一本でも切り落とすなり、毒薬を無理矢理にでも与えるなり、してやればいい。

今後もイクスには手が出せないように、血の契約を交わしておくのもいいかもしれない。

こっちだって、機密保持に血の契約を交わしているのだ。相手にだって同じことをしてもいいだろう。

そうなると、やはり一度は皇帝に会わなくてはいけない。


(向こうに帰ったら、一度寝所にでも忍び込むか)


当然、隠密騎士達や近衛騎士がいるだろうが、そんなのは関係ない。


(いや、いちいち忍び込むのも面倒だな)


それなら、皇帝にしか開けないようにして、血の契約書を魔法陣で送るのもいいか。

血の契約は交わされた瞬間にこちらに伝わるので、問題ない。

あとは、確実に契約をしたくなるように、一定時間を過ぎても契約が完了しない場合は、魔法陣で広範囲爆発するような毒性のある魔石を送るのもいいかもしれない。

いやいや。

最初から、契約書と一緒に毒薬が広がるように仕込んでおいて、契約完了と同時に解毒薬を送るようにするか。

タイムリミットは3分もあればいいだろう。

今のところ、解毒薬が見つかっていない毒物に対する解毒薬を作れるのはリーアだけで、その存在を知っていて入手したものはいない、

つまり、リーアもアンナも積極的にその解毒薬を知らしめるつもりはなくて、自分で必要だと判断したときにだけ、使うつもりなのだ。


(これで、追手もつかなくなるし、楽しい毎日がやってくるなぁ。やっぱり最初のうちは闇ギルドの仕事を請け負うところからかな)


イクスはニンマリと笑みを浮かべて、目を閉じた。

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