初めてのデートはお泊りで 2
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イクスさんに誘われて、イクスさんの仕事についていける事になった。
とは言っても、当然、仕事をしてる最中に一緒にいられるわけではないけど。
それでも、遠出になるからと誘ってくれたのは嬉しかった。
それに、イクスは今回のお出かけを「デート」だと言っていた。
デートはしたことがないけど、リーアだって知っている。恋愛小説に、よく出てきていたから。
(思い合ってる二人が、出かけたり、外で食事をしたりお茶をしたりして過ごすことだよね)
小説なんかに出てくるデートは、大抵、朝出かけて夕方には帰ってくるパターンだったけど、リーアたちは違う。
お泊りだ。
そういえば、デートに出かけた恋人同士が雨に降られて、猟師小屋で夜を明かす、というのもあった気がする。
その二人は、その晩一線を越えてしまうのだけど。
たぶん、リーアたちはそんなことにならないだろうと思う。
だって。
リーアはまだ子供で。
自分の、ペタンとした胸となんだかふっくらしてるお腹を見て、ため息をつく。
イクスは、大人だから(たまに暴走するけど)リーアの成長を待ってくれている。
リーアがイクスとの大人の関係を全く望んでいないかと言われれば、それは嘘になる。
リーアだって、大人の世界に興味はあるし、イクスともっと仲良くなりたい。
でも、現実問題、イクスを受け入れられるほどには、リーアの身体は成長していないこともわかっている。それは、師匠にちゃんと教わった。
だから、きっとイクスもまだリーアのことをそういう目では見ていないと思う。
娼館に行って発散してるのかな、と思って聞いてみたことがあるけど、イクスはリーアと出会ってからは一度も娼館には行っていないし、他の女性と関係を持つこともないし、それはこれから先も変わらないと言ってくれた。
それはさておき。
持っていく荷物については、リーアは旅が初めてだから、イクスに全部教えてもらった。
他にも、どの土地に行くのか、とかどのルートで行くのか、とか。
すごくすごく楽しみで、前日は師匠の家に泊まったのだけど、あまりよく眠れなかった。
合流場所に迎えに来てくれたイクスに、下まぶたを撫でられて、気持ちが良くて目を細めた。
イクスに触れられるのは、すごく好きだ。
少し硬くてゴツゴツしているけど、細くて長い指。
リーアよりも少し低めの体温も、気持ちいい。
頭を撫でられるのも、手を繋ぐのも、キスをされるのも、背中をポンポンされるのも、全部好き。
イクスの胸板はほっそりしてるように見えて、それなりに筋肉がついているから、抱きしめられたときや、抱きついたときにしっかりその腕の中に閉じ込められるのも、好きだ。
すごく、安心できる。
とにかく。
師匠とは別れて、イクスと一緒に歩き出す。
イクスが認識阻害魔法を使ったことに気がついて、リーアもすぐに気配を消した。
誰かに教わったわけじゃないけど、気配を消して歩くことくらい、リーアにとっては、食事をするくらい簡単なことだ。
気配を消したリーアに気がついて、イクスは頭をなでてくれた。
「俺のリーは、良い女だね」
前に、「いい子」と言われるのが嫌だといって以来、たぶんイクスは意識して「いい女」と言ってくれるようになった。
「いい子」と呼ばれていたときも嬉しかったけど、「いい女」と言われるのは、一人の女性として見てもらえてるみたいで、すごく嬉しい。
たとえそれが、言葉の上だけだったとしても。
しばらく歩いたあと、イクスは、辻馬車にリーアと一緒に乗り込んだ。
イクスなら、仕事柄、こういう動きが制限されがちな乗り物は避けると思っていたから、少しびっくりした。
そんなリーアに気がついたのか、イクスは目を細めて微笑んだ。
「普段は使わないけど、最初から頑張りすぎてへばっちゃうと、あとの予定に響くからねぇ」
「そっか」
たぶん、イクス一人なら使わなかっただろう。
でも今は、リーアが一緒だから。
少し、申し訳ない気持ちになる。
「リー?二人で馬車に乗るのも、デートの醍醐味だよ?楽しんで」
そんなことを言われてしまえば、謝ることもできなくなる。
本当に、イクスはリーアの気持ちに敏感だし、リーアにはどんな言葉が響くか、よくわかっている。
馬車から降りたのは、夕暮れになってからだった。
そこは、ちょっとした街になっていて、露天が多く並んでいた。
食べ物の美味しそうな匂いにキョロキョロしていると、イクスが少し笑ってリーアとつないだ手に力を入れた。
「今日の夕飯は、露店で買ったものにしようか。
でも、ちゃんと気になるところには連れて行くから、一人では行っちゃだめだよ?それから、アツアツを食べたいかもしれないけど、食べるのは今夜の寝床に着いてから。いい?」
ちゃんと、リーアの希望に応えて、露店のものを選んで食べさせてくれるなんて、やっぱりイクスは優しいと思う。
今夜の寝床、というのは、たぶんイクスが言っていたいくつか在る隠れ家の一つのことだろう。
隠れ家については、基本はたとえそれが皇帝であっても、雇い主であっても、人には明かさないのだという。
だから、イクスの隠れ家をいくつか教えてもらえるリーアは、特別だと言っていた。
「特別」という言葉を思い出して、口元がニンマリしてしまう。
「リー。嬉しそうな顔して、どうしたの?そんなに、露店の料理が楽しみ?」
「そうだけど、そうじゃない」
赤くなっているだろう頬を隠すように俯いて、リーアは答えた。
本当の事なんて言えない。
イクスの「特別」がうれしいなんて、恥ずかしくて言えない。
「うーん?ま、いいか。何か気になった食べ物はあった?」
「えっとね、そこの串焼き屋さんと、あとは──」
露店であれこれ買って、街の外れにあるイクスの隠れ家についた時には、外はだいぶ暗くなりはじめていた。
「あー、やっぱりちょっと埃っぽいな。リー、ちょっと清め魔法で埃片付けて空気入れ替えるから、この丸の中にいてくれる?」
隠れ家の玄関のすぐ外に、イクスがササッと描いた魔法陣がある。リーアは大人しくその中に入った。
たぶん、防御魔法陣だと思う。
ドアを開けたままだったから、イクスの様子がよく見える。
イクスは、深呼吸するみたいに一旦両手を軽く広げると、それから指をパチンと鳴らして魔法を発動させた。もちろん、無詠唱だ。
「おまたせ、リー」
「今のは、範囲指定したあとで清め魔法を発現させたの?」
「そうだよー。よくわかったね、えらいえらい」
イクスに褒められるのは、やっぱりうれしい。
口元をもにゅもにゅさせながら、リーアはイクスの隠れ家の中に入った。
とりあえず、ローブを脱いで、顔と手を洗ってうがいを済ませたあと、テーブルにつく。
と言っても、ここにはやはり椅子は一脚しかなかったから、久しぶりにリーアはイクスの膝の上での食事だ。
「もし答えたくなかったら答えなくていいけど、イクスさんは、やっぱり誰かから魔法や武術を教わったの?」
「あー、うん。長い話になるから今は簡単に説明するけど、闇ギルドで活躍しそうな人間を育てるための施設があってね、そこで、それぞれの適性にあったことを教わったんだよー」
その「施設」というのに、イクスが何歳からいたのか、とか、何歳までいたのか、とか、具体的に何を教わったのか、とか、聞きたいことはいっぱいあったけど、確かに話が長くなりそうだから、聞くのはやめた。
「そっか。イクスさん、今日、湯浴みする?」
「そうだね、埃っぽくなってるし」
こんなに長距離を移動したのは、リーアの記憶では初めてのことで、街道を歩いたり、辻馬車に乗ったり、確かに少し埃っぽくなってる気がする。
「お風呂どこ?お湯張っておく」
「リーがやってくれるの?うれしいなぁ。そこのドアを開けて、左側のドアだよ。右側はトイレだからね」
井戸はない、と言うので、リーアは適温のお湯を魔法で出して、お湯を張った。
「あ、出来た?それじゃ、リーが先に入っていいよ」
様子を見に来たイクスに言われて、ありがたく湯浴みをする。
風呂から出たリーアと入れ違いにイクスも湯浴みを済ませて、二人で一つしかないベッドに潜り込んだ。
こうして一緒に寝るのは久しぶりな気がして、ドキドキしていたはずなのに、疲れが出たのか、リーアはいくばくもたたないうちに眠りの中へ入っていった。




