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凄腕薬師に弟子入りします 2 〜アンナ視点〜

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弟弟子から紹介されたのは、予想外に優秀な子供だった。


(これは、ラッキーかも)


シュバルツは、この子供が学ぶ意欲のある子だと言っていたし、自分の出したテストにもクリアしてみせた。


テストとして出した薬草の種類や効能は、大して難しい問題ではなかったので、その時点では期待していなかったが、心臓の薬を、コカトリスの心臓以外の材料と、効能を舐めただけで当ててみせたのには少しだけ驚いた。


それに、アンナの呼び方を、きちんと使い分けなければならないことに気が付いた点も評価ポイントだ。

まだまだ幼いのに、年齢の割に敏い子のようだ。


シュバルツは何も言っていなかったけれど、もしかしたらシュバルツの仕事の内容もある程度把握しているのかもしれない。

シュバルツがアンナのことを「国の偉い人も悪い人も依頼するくらい優秀」と言った時に、特に反応しなかったから。

普通は、悪い人から依頼されるなんて……と思っても不思議ではない。

アンナも、悪い人から依頼されることについて、それを断るとも言わなかったのだから、この子は真っ当な仕事だけでなく裏の仕事も請け負っていると、おそらくきちんと理解している。


それは、シュバルツから彼の職業を説明されたからなのか。

いや、裏の仕事をメインにしている人間は、聞かれたとしても大っぴらに話したりはしないものだ。

それは、その職業に誇りを持っていないからではなく、安易に話していい内容ではないからだ。


拾った孤児、とシュバルツは言っていたが、彼がいつ頃この子を拾って、どれくらいの期間一緒にいたのかは分からない。

ただ、先頃起こった戦争にはおそらくみっちり駆り出されただろうから、その後だと思われる。

だとしたら、本当に短期間一緒にいただけだろう。

一月も経っていないに違いない。


孤児になった理由や、孤児の間の生活は分からない。

シュバルツが、虐待されていた、と言うくらいだし、ガリガリの身体や顔色を見れば、まともな生活を送れていなかったことは想像に難くない。

この国では1日おきに教会が炊き出しを行っているから、孤児であっても、骨と皮ばかりの身体になることは、滅多に無い。

虐待されていたという事実も鑑みるに、奴隷の子か、もしくは、犯罪者の子か。

7歳という年齢から考えると、貧民街にいる纏め役が指示した毎日の売上が達成できずに、虐待されていたことも考えられる。

ただ、この子─リーアは、とても整った顔をしている。それこそ、将来有望なほど。

だとしたら、とっくに奴隷になっていてもおかしくはない。

奴隷になれば、少女たちは高値で客に売りつける為に、ある程度は食糧を与えるし、身体に残るような傷はつけない。

やはり、考えても分からなかった。


(まあ、いいわ。シュバルツが拾ってからの短期間で、ある程度の薬師の基本とも言える知識を身につけるだけの才能があるって事だもの)


それにしても、シュバルツは随分とリーアに過保護なようだ。

コイツが、誰かを愛称で呼ぶなんて初めて見たし、リーアがホームシックにならないように定期的に会いに来るとか、そもそも、アンナに借りを作るような真似をするなんて驚きだ。


(そう言えば、性教育も頼まれたわね)


別に教えることは吝かではないが、3年後でも、リーアはまだようやく10歳だ。

それまでに教える必要があるのだろうか。


(そんな趣味はないはずだけど、成長が待てない程にこの子に入れこんでいるのかしらね)


アンナは別に、双方合意の上であれば、多少女性側が若すぎても、肉体関係になることに嫌悪感はない。

ただ、女性側に負担がかかりすぎるので、推奨まではしていないけれど。

出来れば、きちんと成長するまで待ったほうがいい、とは思っている。

特に、男性側が成人していると、女性は身体的に負担が大きく、無理をさせる結果、身体が壊れることもあり得る。

まぁ、流石にその辺りのことはシュバルツも理解しているだろうが。


自分の家まで帰る道すがら、リーアに色々尋ねてみたが、どうやらリーアはかなりあの男に依存しているみたいだ。

懐くとか、懐かないとかではない。

家族のように─兄や父親のように─思っているのかといえば、それも違う。

では、男性として意識しているのかと言えば、そこまでではないようだ。

シュバルツの前で平気で素っ裸になってしまって何度か注意された、と言っていたから。


ただ……刷り込みのような状態ではあるようだ。

恩があるから、とかではなく、シュバルツの指し示す道を、何の疑問も持たずに歩こうとしている。

シュバルツの言うことはすべて正で、それに従うことに喜びを感じている。

本当は、シュバルツの側を離れたくなどなかっただろう。

それでも。シュバルツがそうしろと言ったから従っているのだ。

7歳なら、泣いてグズるかと思ったが、しっかり別れを告げて、ほんの一瞬だけシュバルツを振り返ったけれど、その後はしっかり前を向いていた。


そのシュバルツが、気配を消して跡をつけているなんて、思いもしないだろう。

わざわざシュバルツが気配を消しているのなら、アンナからそれをリーアに伝えることはない。





自宅について部屋を決め、荷解きと休憩の後、一緒に夕食を作った。

どうやら、あの過保護な男は、リーアにナイフすら渡さず、火からも遠ざけていたらしい。

これでは、自分で料理ができなくなってしまう。


アンナは、リーアでも持ちやすいナイフを与え、切りやすい食材を切る所から教えた。

初級魔法は使えるようなので、火加減の調節も任せてみると、リーアはちゃんと熟した。

味見をさせて、調味料の種類や必要な量も覚えさせた。


(本当に、飲み込みの早い子)


実践で覚えさせた方がいい、というシュバルツの言葉通りにしてみたが、確かに理屈より身体で覚えるタイプのようだ。


食事をしながら、リーアの胸元で揺れる、シュバルツから与えられたと言う首飾りを見る。

リーアは気づいていないようだけれど、この首飾りには、いくつかの魔法が付与されている。


緊急時に最大の防御魔法が発動されるもの。

シュバルツに居場所を教えるもの。

そして……シュバルツ以外の男が必要以上に近寄れないもの。


(こんなに束縛して、リーアは恋なんて出来るのかしらね)


まだまだ当分は子供だけれど、女の子は早熟だ。

修行中に、他の誰かに初恋をすることもあるだろう。

それなのにこれでは、リーアに自由はない。


(本当に、困った子)


姉弟弟子の中で、1番優秀だったのはシュバルツだ。

一緒に学んだ期間はとても短いけれど、影としても優秀だったし、学問も武術も抜きん出ていた。

そして何より、人を殺すことに一切の躊躇いがなかった。


そう。まるで、生きるために動物を狩るように、息をするように人を殺せた。


アンナは、隠密になるには存在感がありすぎ、気配を殺すことも苦手で、武術も向いていなかった。

だから、アンナが師匠から教えられたのは、閨での暗殺術と、薬師としての知識だ。


新しい毒を作り出すのも、正体不明の毒を作り出すのも楽しかった。

何日間も苦しんでから死ぬような毒も作ったし、眠るように安らかに逝ける毒も作った。

本来の薬師としての薬作りは、毒消しを作るついでに覚えたようなものだ。

そうは言っても、この世にあるほぼすべての薬は作れる。


それでも。



「アンナさんは、すごい薬師なんだって聞きました。どんな薬でもつくれるんですか?」



夕食を食べながら、リーアが質問してくる。



「作れない薬もあるわ。まず、不老長寿の薬。

人の時間の流れを止める薬は作れないわね。

それから、エリクサー」


「エリクサー?」


「どんな怪我や病気も治してしまう薬。魔力を回復させたり、体力を回復させることはできても、それ自体をなかったことにはできないの。病んだ内臓を正常に近づけることや、進行を遅らせることは出来るし、傷口からの感染症を防ぐ事や、出血を止める事はできる。でもね、どんな薬師でも、治癒魔法師でも、欠損した身体の部位は元には戻せないし、出血した血を体に戻すことは出来ないの。新しく血を生み出すことは出来てもね。手遅れになった病を治すことも出来ないの。病気の初期段階なら、薬や治癒魔法で治すことは可能だけれど、それも、患者本人の生活態度が重要になってくるわ」


「ばんのうやくはないんですね」



薬師の中での禁忌。

不老長寿の薬の作成と、エリクサーの作成。

それは、神の領域だし、少なくともこれまでも、そして現段階でも、作成は不可能だと言われている。


そのことを教えると、リーアは真面目な顔で頷いた。

不満があるわけではなく、どこまで薬師や治癒魔法師が治せるのか、と言う事を知っておきたかっただけのようだ。

もし、エリクサーを作りたい、などと言い出したら、明日の朝早くにでも追い出していたところだ。



「明日は早いわよ。今日はもう寝なさい」



自室に行きがてら、リーアを部屋に送っていった。


窓の外に目を向ける。

今は、アンナの張った結界に異常はない。

つまり、シュバルツは侵入していないということだ。

昼間は堂々と侵入していたものだから、呆れてしまった。


(リーアにとっては、初めての一人部屋ね。ちゃんと眠れるといいのだけど)


安眠効果のあるサシェでも置いてやればよかったかと今になって気づいたが、まあ、明日からの様子を見てからでいいだろう。

今夜はもう遅いし、明日の朝は早い。


アンナは夜着に着替えて、布団に潜り込んだ。


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