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故国への道

今いる国からダッタイトへ帰るには、いくつかの国を経由しなければならない。

おそらくだけど、ダッタイトにいる師匠の元へたどり着くまでは、数ヶ月かかるだろう。


戦争でしばらく留まることになってしまったこの国は、聖王国から一番に攻められたということもあり、かなり戦争の被害を受けていた。


街によっては民家や商店が焼かれていたり、道も穴が空いていたり、削れていたりと、惨憺たる有様だ。


それでも、終戦から時間が経ち、かなり復興し始めているし、人々の顔にも笑顔が戻りつつある。

特に商人は、あるだけの商品をかき集めて、明るい笑顔でたくましく商売を再開していた。


宿は、戦時中に軍兵たちの宿泊場所になっていたところも多く、なかなか、元々の宿泊施設としては再開できないようだ。


とはいえ、イクスとリーアは、別に宿に泊まらなくても、東部地方にはイクスの隠れ家がいくつもあるので、特には困らない。

多少、街から離れはするが、そんなもの、誤差のうちにも入らない。


瞳の色は変えたので、宿に泊まっても、戦時中につけられた二つ名と結び付けられることはないと思うけれど、夜のことを考えるとリーアとしては、声が漏れる可能性もあり、いくらイクスが防音魔法をかけてくれても、やはり気恥ずかしく、宿に泊まるよりはイクスの隠れ家で二人きりで過ごすほうがいいと思っている。

二人きりなら、どれだけ熱い夜を過ごしても、周りを気にする必要はないから。


正直、「そういう雰囲気」になったとき、イクスはまったく容赦してくれない。

リーアが泣きだしてもやめてくれない。

むしろ、なんだか喜んでいるような気さえする。




それはともかく。




そんなこんなで、イクスとリーアは、たまに闇ギルドの依頼を受けつつ、各地にあるイクスの隠れ家を拠点に、少しずつ故国へ向かっている。


巷では、まだまだ食糧が切り詰められていたけれど、イクスとリーアは、森の中で魔獣を狩って食料にしているので、さして不便はない。

ただ、野菜は別だ。

森の中でとれる木の実や、野草はもちろん食べるが、それだけではどうしても栄養が足りない。

かといって、街や村では畑が焼かれたところも多く、全体的に野菜不足だ。

今は、ボックスの中に保存してある生野菜でなんとかしのいでいるが、それも、旅の途中で尽きる可能性が高い。


まぁ、もしも食糧が足りなくなったら、無理して故国まで旅をしなくても、パパっと転移してしまえばいいのだけれど。

師匠の家は、薬草園だけでなく、野菜畑もちゃんとあるし、森の中だから、戦争で荒れているということもないだろう。

そもそも、噂によれば、ダッタイト皇国は、それほど戦争の被害を受けていないらしい。

というのも、戦火が近づいてきたときに、皇帝が、魔術師を集めて、国境付近に配置し、一斉に結界を張ったからだ。

大国であるダッタイトならではの対策である。

もちろん、ずっと同じ魔術師たちが結界を張り続けることには無理があり、時には結界を解除したり、あるいは交代制で結界を張っていたらしい。


ちなみに、皇帝自身は、近衛騎士や隠密騎士たちにしっかり護衛させていたというのだから、ちゃっかりしている、とリーアは思う。

まあ確かに、いくら皇太子がいるとはいえ、万が一にでも皇帝の身に何か起こったら大変なことになるわけだから、当然の措置といえばそうなのだけれど。


そういうわけで、ダッタイト皇国は、連合国軍に加わってはいるものの、出兵にはさほど力を入れず国軍だけに任せ、冒険者や魔術師たちには、防衛に力を入れさせた。


だから、師匠の身の安全はさほど心配していない。

師匠は薬師だから、リーアたちのいる前線にも師匠の回復薬が届いていたことからもわかるように、主には回復薬の作成に力を入れていたはずで、戦場からは遠く離れていたはずなのだ。


(でもきっと、私達のこと心配してくれてるよね)


リーアは未だ遠く離れている師匠に思いを馳せる。


故国に近づくにつれて、戦争の爪痕は少なくなっていった。

各国内の聖王教信者によるゲリラ活動はあったものの、すべての信者が武力に訴えたわけでもなく、むしろ、聖王国から離れれば離れるほど、穏やかな光景が広がるようになり、戦争についての話も、あまり聞かなくなっていった。


それなのに。



「『死神』も『女神』もまだ見つかっていないらしいな」


「元が冒険者だって話だけど、ここで名前が売れれば、更にランクがあがるから、いい話だと思うんだけどな」



酒場で聞こえてくるのは、イクスとリーアの二つ名だ。

前線近くならともかく、こんな離れた場所でまで己の恥ずかしい二つ名を聞くことになるなんて。

そもそも、イクスもリーアも、一番関わる闇ギルドでは、とっくに名前が売れていて、もうこれ以上はお腹いっぱいなのだ。

仕事があるのはありがたいが、増えすぎるのも困る。


どちらからともなく、ふうっとため息をついて、顔を見合わせて笑った。



「もしかして、師匠の耳にも入ってるかなぁ」


「んー。アンナもギルドとは関わりが深いから、戦場に出ていなくても、耳にしてる可能性は高いだろうねー」


「うあー、恥ずかしい」



いま二人がいるのは、クラインベリー王国だ。

ここまできても二つ名が知られているのなら、これはもう、ダッタイトでも知られていると考えたほうがいい。


師匠の家まで、あと少し。

次回、完結です

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