表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/185

帝国の取り調べ

 度重なる拷問で時間感覚は麻痺していく。意識のある時間の大半は、例の苦痛を与えて思考を読み取る装置に掛けられ続けていた。

 俺が話そうとしても更なる痛みを与えて途絶えさせられ、まともな会話はできない。

 なので俺は自分の中で状況を整理するしかなかった。


 拷問官の言葉から、首都星の奪還は成ったのだろう。その際に研究所時代の知識を使って呪歌や次元回避の対処法を伝えた。

 その知識の源は何かを知りたい、もっと色々な事を知っているはずと、俺の頭の中を読み取りたいって事のようだ。


 ウルバーン星に突然現れた俺の素性もはっきりとはしない。常に監視は付けられていたのだろうが、俺の行動からじゃ共和圏の人間であるとは判断できないだろう。

 そうなると近くの国、王国からスパイとして送り込まれたのではないかと……思うか?


 呪歌の存在を明かさなければ、帝国本星の奪還など叶わなかっただろう。他の貴族領も次々に制圧されていたはず。それを帝国中枢の信頼を得るために教える?

 そんな馬鹿な話は拷問官や公爵も考えていないとは思う。

 しかし、帝国にはない技術。呪歌や次元回避は実在していて、それを知る者がいた。


 ならば聞き出そうとする事自体は不自然ではない。ただ有無を言わせぬ拷問にかけるというのはなぜだろうか。

 未知の技術を持つ魔術師。

 そう考えるとまともに話を聞き出せるとは思えないのかもしれない。


「素直に聞いてくれたら教えるんだが……」


 しかし彼らは人の言葉を信じない。心を読み取る機械に依存している。そしてその機械は半ば改造された俺の頭の中は覗けない。

 八方塞がりである。


 もちろん拷問官も思考をプロテクトしている方法を探ってはいるのだろうが、アプローチが間違っている。

 まずは痛みを与えてプロテクトが緩むのを狙った。しかし、読み取り阻害は生まれた時の改造手術による影響なので、いくら痛めつけようが読めるようにはならない。

 何らかの防御術式を使っているのではないかと、解析を行う者もいる様だが、そもそも特定の術式によって守っている訳ではなく、様々な術式が絡み合った結果、まともに読み取れない状況に陥っているだけなので、分析しても答えが出ないのだ。


 こうなると待っていてもらちが明かない。自分から動くしかないのだが、俺の現状は手足が拘束されていて、首に嵌められた魔力を遮断する魔道具で術式を使えない。

 頭部分だけで完結できる術式なら使用する事はできるが、魔力量もさして多くはない。


 俺が今どこにいて、敵が何人いるのかも不明。いや、魔力探知を広げれば把握はできるか?

 そう思って探知を広げてみたが、部屋の外へは魔力が広がらない。何らかの結界に閉じ込められていると考えるべきか……。

 そうなると人数の把握はできない。情報を集める手段から模索しないとダメそうだ。




 食事は与えられていなかった。苦痛に慣れないように定期的に治癒魔法を掛けられているので、栄養不足などの疾患は治るからだ。

 腹は減るし喉は渇くが、死ぬことはない。正直、苦痛を与えられるよりも辛い。なので水分だけは水の術式で口内へと生成して潤している。


 手足の拘束は物理的な手錠や足かせだろう。魔法で破壊する事はできそうだが、それをやると魔力が心もとなくなる。

 拘束具の破壊に気づいた拷問官がやってきた時に対抗できずに、再び拘束されてより厳重な警戒態勢に置かれる事になりそうだ。

 なので、脱出を図るなら一度で成功する計画を立ててから実行するしかない。


 俺は椅子のある拷問室と今転がっている部屋、多分牢屋……を移動させられている。あまり距離はないとは思う。

 移動自体は人の手を使わず、念動系の術式で身体を浮かせて運ばれていた。わざわざ移動させる理由は何かあるのか。部屋を掃除してくれてる様子はなさそうだが。

 拷問室を他の誰かと共有してる可能性はあるのか。あの部屋には読み取り装置などもあって、牢屋に比べて被疑者をより正確に調べる事ができるのかもしれない。


 何にせよ、拷問中も移動中も人が近づいてくる事はないようだ。魔術師を相手にするなら、警戒するに越したことはないという事だろう。

 しかし、そうなると人質を取るなんて手段も使えそうにない。


 とりあえず光術式で視界を飛ばす魔法を使い、周囲の状況を確認する事にした。今まで使ってなかったのは思考力が落ちていて、考える余力がなかったからだ。

 狭い独房だな。ベッドというかゴザみたいな物が1枚。そこに寝かされている。3畳あるかないかの空間で、トイレも一応はあるらしい。

 まあ、ここに囚われるのが目隠しに拘束したまま放置される俺みたいなのばかりではないと言うことだろう。

 天井までは2mほど。長身の者なら頭をぶつける程度の高さ。入口は鉄格子などはなく、扉がついていた。監視カメラで監視されている。


 視界を扉の外へと移動させようとすると阻まれるのは、魔力探知を広げようとした時と同じ感触。結界に閉じ込められているって事だろう。

 だとすれば外の様子を観察できるのは、拷問室へ移動させられる時だな。

 俺は一度視界を切って、魔力の回復を優先させた。つまり寝る。




 扉に仕掛けていたトラップが発動し、俺の意識が覚醒した。すぐに視界を確保して、俺を移動させる様子を観察し始める。

 念動を使う魔道具らしきロボットが扉の外にいた。四輪で移動し、魔法を放つ腕が2本。身体は四角い箱で鈍い光沢の金属でできていた。頭はなく、伸ばした手で念動の術式を発動するみたいだ。

 コンテナなどを運ぶフォークリフトに近い様に思う。


 手を触れる事なく宙を漂い部屋の外へ。身体が牢屋の外へ出たことで視界が広がる。俺が出てきた部屋と同じ様な扉が10枚ほど続いていた。声などは聞こえてこないが、誰かいるのだろうか。例の阻害結界があるので、探知はできなかった。

 扉にプレートがついている。俺がいたのは3号部屋みたいだな。


 念動ロボットは扉が並ぶ通路を進み、両開きの扉を越えると、5m四方ほどの窓のない部屋にぽつんと椅子が据えられていた。ここが拷問室なのだろう。

 ロボットが俺の身体の向きを変えて、椅子へと座らせる。背もたれはなくクッションもない木でできた簡素な椅子。


「では質問を始める。貴様は王国の手先だな」

「ちがっ」


 相変わらず答えようとすると、電気が流されて痛みが走る。部屋には念動ロボットが1体だけ。窓も何もなく、カメラでこちらを観測、スピーカーで話しかけるという徹底的に人と会わせない仕組みらしい。

 魔術師に対する警戒の強さが伺える。まあ、実際、目の前に人が居たら攻撃できるもんなぁ。

 一方的に攻撃に晒され続けたら、いかに温厚な俺でもキレて殺しかねん。


「なぜ呪歌や次元回避を知っていた?」

「昔資料を読んっっ」


 何度繰り返されたか分からない質問。苦痛を与えて緩んだ意識から、心の声を読み取る技術。その精度を上げるには多くのサンプルが必要なのだろう。

 なぜそれが成功しないのかを、苦痛が足りないからだと考えているらしく、電流の量を変えたり、念動ロボットに内蔵されていた錐やら刃物、金槌などを振るわれて傷つけられた。

 そしてこちらの反応が乏しくなると治癒魔法で治し、更にダメージを与えてくる。


 相手は真剣なんだろうが、俺にとっては茶番でしかない。繰り返される痛みに思考がどんどんと鈍くなるが、それでも読み取り装置は仕事をしてくれない。不毛な時間が続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ