オールセンの対戦
3日目。魔導騎士の対戦数も減ってくるので、他の競技も始まっている。かくれんぼは5日目なので、決勝の日になる。勝っていったら時間が被らないか調べないとな。
ちなみにオールセンが参加する整備の競技は今日になっている。そのためかは分からないが、第1試合がオールセン対魔導騎士1位の生徒となっていた。
魔導騎士1位ともなれば、その動きは整備科1位と変わらないほどスムーズ。きっちりとチューニングされている。
一方のオールセンは機体自体はいじらずに自分の手足に魔道具の具足を付けて、そちらで機体に合わせるという変則的なチューニングをしていた。
これは魔術師クラスが使う魔導騎士が借り物で、授業の度に調整なんてさせてもらえないので、苦肉の策としてオールセンが作り上げた物だ。
その分、ほんの少しだがオールセン機の方が動きが悪い。しかし、それを補うのが格闘ゲームを彷彿とさせるコンボシステム。
俺相手でも勝ちきれないので、魔導騎士1位相手だと厳しいかもしれないが、初見殺しができるかもしれない。
『はじめっ』
オールセン機が前に出て、剣を構えると、1位も片手剣を構える。盾は使わない派なのか、左手は何も持っていない。
それを見てかは分からないが、オールセンも左手に持っていた盾を捨てた。そのままスラスターで接近していく。正面から打ち掛かると見せて、右にステップ、盾のない相手の左側から攻撃を繰り出す。
1位はそれに対して剣で応戦しようと旋回したが、次の瞬間すすっと後ろに下がった。その眼前をさっきオールセンが捨てた盾が通り過ぎた。
「昨日の今日で……」
整備科が見せた10枚のプレートを操る事で戦うスタイルを、オールセンは盾に仕込んでいたようだ。
仕込みを積んだ盾を捨てたと思わせておいて、自分の背後を飛んで追随するようにしておき、相手の手前で自分はステップ、追いかけてきた盾による攻撃を行ったらしい。
本来なら目前で横に動いたオールセン機に意識が集中させられ、盾の動きは追えないはずなのだが、それを避けて見せた。やはり1位は伊達ではないようだ。
しかし、オールセンの攻撃は盾だけではない。一度下がった1位に近づくように踏み込んで、連続攻撃を繰り出していく。
更には一度通り過ぎた盾が相手の背後へと動いて牽制を行っている。一対一のはずなのに挟み撃ちになっている様な状況。さすがオールセン、勝ちにこだわりを見せてくれる。
ただ魔導騎士クラスの者は多対一の戦い方も学んでいるようだ。背後に目があるように、盾が接近すればするりと避けて、オールセンの攻撃にも対応している。
背後モニターを表示して後方からの接近を見ることはできるが、それをしっかりと空間認識して避けるというのは、かなりの訓練を積まないとできないだろう。
そしてオールセンの攻撃が決められたパターンの組み合わせだと言うことにも気づき始めている。
それは例えば右足を半歩前に踏み出した時は、左下からの逆袈裟に剣を振り切る動作だとか、半歩踏み出した足を右にズラした場合は、逆袈裟と見せて、ワンテンポ遅らせた左脚での蹴りが来るだとか、そうした最初の動作を見切ると次からの動きが分かるという点。
オールセンの攻撃は効率よく組み立てられているので、鋭い攻撃を連続的に繰り出してもバランスを崩すことがない。
それは重心の動きをしっかりとトレースして、無駄なく動かせるからだ。
ただ逆を言えば教科書的な動きで、次を読みやすい。初見であれば、速さについていけなければ、早々にオールセンの勝ちとなるが、さすがは魔導騎士1位。戦闘中にそれを気づいて、確認する動きを入れ始めていた。
踏み出した足へ、軽く足を当てる。本来ならバランスを崩すほどの威力ではない。しかし、決められたバランスの中で動いているオールセン機は、そこに干渉された事を検知して、無理に動作を続けずに、体勢を立て直す。
格闘ゲームでいう動作キャンセルが発動するのだ。
その立て直す時間中は攻撃ができない。
そこに気づくことができれば、今のところはオールセンを攻略できてしまう。
1位はオールセン機が踏み出した足を軽く剣で叩き、そこで動作キャンセルが発生する時間で間合いを詰め、次の動作を繰り出してくるのに軽く接触させて動きを止めさせ、更に踏み込んでバランスを崩す。
仕組みを知らなければ、なぜオールセンが攻撃をためらってしまったのか分からないだろう。しかし、俺の目にはオールセンが攻略されてしまったのがよく分かった。
姿勢制御をキャンセルさせて、更に混乱へと落とし、転倒へと追い込んで、その足で頭部を踏み抜き、魔導騎士1位の勝利が確定した。
今までの猛攻から急に攻撃をためらい、ぎこちない動作で下がろうとして、転倒した所を踏み抜かれる稚拙な動き。観客からすると不自然な決着であった。
「ぼ、ボクの本番、は、整備きょ、競技だし……」
そう悔しそうに言い残して去っていったオールセンは、もっと強いシステムを構築する事だろう。
次の試合は、ケルンと参謀科1位の対戦だった。参謀科はヘンドリック同様に自分の機体を持ち込んでいるようだ。
対するケルンは試合前にメリッサと手を繋いでいた。二人で向き合い、右手の上に相手の左手を乗せて、目をつぶっている。
俺の魔力感知には、2人の間で魔力が流れているのが感じられた。
メリッサが先導するように魔力の波を立てて、それをケルンが抑える様に制御する。僅かな変動に反応して制御を試みる、そんなトレーニングの様だ。
魔力感知と制御を連動して行う様は、以前のケルンより格段に進歩している事を感じさせた。
「ふむ、あの感覚派のケルンにアレを教え込むとは……」
メリッサの意外な才能に驚いた。ワガママお嬢様の割に、他人にモノを教えられるとは。
そんな驚きとは別に、2人の様子を見つけた生徒達にざわめきが起き始める。
ケルンは脳筋とはいえ、傍目には結構な美男子で、鍛えられた体は同年代の中でもがっしりとしていて見栄えがいい。
一方のメリッサも勝ち気でワガママな性格に難のある女子ではあるが、見た目は可憐で容姿にも気を配っている。
そんな2人が見つめ合って手を握り合う姿は、やっかみを買うに十分な状況だった。周囲のざわめきはブーイングへと変わり、参謀科1位の勝利を願う声が支配しはじめた。
その変化に魔力を乱したケルンを、メリッサは容赦なく引っ叩いた。なるほど、体で覚えさせる調教の様なやり方をしてきたのか。
ケルンの両頬を掴み、じっくりと瞳を覗き込む様にしながらまくしたてる声は聞こえないが、魔力制御に関する指導を行っているのだろう。
やがてケルンの顔が引き締まったのを確認したメリッサは、その背中をバシンと叩いて気合を入れて送り出した。
熱血指導者の様な雰囲気だな。
ただ周囲の反応は戸惑いだった。イチャツイてる様にも見えるし、応援した様にも見える。ただ平手打ちを容赦なく叩き込んだのも事実で、反応に困るようだ。
観客のブーイングから再度、ざわめきに戻る間に、両者の魔導騎士への搭乗が完了していた。
ケルンも一応、上位貴族、伯爵家の子息なので実家に魔導騎士を持ってはいただろう。しかし、当時は己の肉体一つで戦うロッドを極める事に集中していたので、魔導騎士なんて見向きもしていなかった。
そのため、今苦労している訳で、当然自分用にチューニングされた機体も持っていない。
その機体は練習用に貸し出される汎用機だ。
手にしているのは当然ロッド。棒の両端に石突の付いた打撃武器。生身での操作はお手の物だが、魔導騎士ではそこまでキレイには扱えていない。
対する参謀科は外見からして専用機。上位貴族の嫡男らしい豪勢な雰囲気のある機体だ。手にしているのは両手持ちの大剣。その刀身にも意匠が施されている。
これは単に見栄えを良くするものではなく、何らかの付与術式がされているだろう。
正直、現在のケルンでは分が悪いな。




