クラス対抗初日
2週間があっという間に過ぎて、クラス対抗が開催される時期になった。ケルンとメリッサについては、ある程度仲良くなったまでは報告があったが、魔力量の強化まで至れたかは不明なままだ。
メリッサの表情はどん底から少し回復したように見えるが、単にケルンという友達ができたからかもしれない。
俺と会話する事はないままだった。
かくれんぼはクラス対抗後半のイベントだからもう数日の猶予はある……が、劇的に変わる事ももうないか。
他人を頼らず、自分で頑張るしかない。
クラス対抗は、5日間で行われる。初日は、ヨットレースのスタートと魔導騎士対戦の一回戦が予定されている。
ヨットレースは、航行科と偵察科、諜報科がメインで、魔術師クラスと整備科からも出場者がいた。
魔術師クラスは3人で挑戦しているらしいが、そこまで仲の良い生徒ではないので詳細は不明。
ひとまずは無事に出航していった。
魔導騎士対戦は、10クラスから描く3名ずつのエントリーとなっているトーナメント形式、。魔導騎士クラスと魔術師クラスの第一位が不戦勝扱いとなっている。
つまり、俺も一回戦は出なくて済んでいた。
改めて軍学校の10クラスだが。
・魔術師クラス
・魔導騎士クラス(ルイス)
・歩兵科(ケルン、マット)
・偵察科
・諜報科:潜入工作、スパイ
・軍務科:財務や兵站確保など
・整備科:研究開発を含む
・警備科:警察や消防など治安維持
・航行科
・参謀科:作戦立案、情報解析、領地経営
参謀科はキャリア組なイメージだ。上位貴族の嫡男などが集められるクラスで、領地の統治に関わるものや上がってくる情報の分析、軍に残る者が作戦立案に携わる可能性がある。
基本的にそれぞれが専門的な技術や知識を学んでいて、魔術師クラスだけが特殊で色々な科の要素を含んでいる形だ。
1回戦は14試合。各科の戦闘力にバラツキがあるので、決着は早くつくのが例年の流れだったが、今年は熱戦が多いようだ。
ルイスは魔導騎士クラスの3位に滑り込めたらしいが、整備科1位とかなり拮抗した勝負となっていた。
魔導騎士クラスは自分なりにチューニングした機体を持てるが、整備科ともなれば与えられた機体を自分に合わせて調整するのはお手の物。
剣技ではルイスに分があったが、滑らかな操縦では整備科に分がある。しかも隠し装備が色々と追加されているらしく、追加ブースターで腕が加速したり、地面へと散弾を発射したのが機雷化していて、ルイスの機体が近づくと爆発したりと、普段の対戦ではお目にかかれない搦め手に苦戦を強いられていく。
しかし、最後はきちんと訓練された動きで、ルイスが一撃を決めて勝利を収めていた。
後は軍務科が雇った他校の生徒であったり、上位貴族の嫡男として訓練を重ねている参謀科あたりは強い。
ケルンはやや相手に恵まれた形で初戦を突破していた。まだまだ動きがぎこちないので、制御が荒いのだろう。
オールセンとヘンドリックも順当に勝ちを収めている。
クラス対抗中は、外部からの招待客もいて、前世の運動会に近いイメージがある。招待客となるのは貴族の身内がほとんどで、平民の家族などはいないらしい。
まあ、貴族となれば国の重鎮であり、それが多数集まる場に、平民などが来るというのはかなりハードルが高い。
そしてセキュリティの面でも不特定多数を招き入れる事は避けたいだろう。
軍学校の生徒は15から22歳と高校から大学までを一貫教育としている形だ。ただ20歳を越えた辺りからは、インターンの様に実際の職場へ回される実地研修がメインになってくるらしい。
なのでクラス対抗が行われるのは5年生までらしい。
3年までは軍学校の敷地内で行われ、4年、5年となると、それぞれ別の惑星に会場が設置されてもっと大規模になるとの事だ。
それらの様子は校内に設置されたモニターなどで確認できる。
4年以降の魔導騎士戦は、個人戦から団体戦になっていた。陣地を奪い合う、より実戦に近い形式だな。
複数の科がチームを組んで、相手の陣営と戦い、本陣を制圧するのが基本ルール。
参謀科、歩兵科、そして魔術師クラスの3陣営を主軸に、各科が分散して割り当てられている。
偵察、諜報、航行の3クラスが索敵、軍務、整備、警備が後方担当で魔導騎士は、傭兵として各陣営に分配されているらしい。
何にせよ、総合的な対戦となるので、1日では決着せずに、1週間規模での戦闘となる。
初日は各陣営が拠点を構築するのに費やされていた。
「観戦しているだけで面白そうだけど、まだ先の話だし、まずは自分が勝ち上がる準備をしないとな」
魔導騎士の対戦はトーナメント形式なので、相手は予め決まっている。シードの2人は山の対極に配されているので、双方勝ち上がっても対決するのは決勝だ。
そして2回戦での俺の相手は、整備科2位と偵察科1位の勝者であった。
対戦の様子は録画されていて、後から確認する事ができる。相手の手の内を知れてしまうのは、シード選手により優利な立場を与えているのだが、元々シード選手は有力貴族が多いから、早々に負けるのを回避したかったのかもしれない。
実際、俺やオールセンといったイレギュラーがなければ、ヘンドリックが魔術師クラスのトップだっただろうからな。
もちろん、俺としても早々に負ける訳にはいかないので、特権は使わせてもらう。
ただ結果的にはあまり活用というほどでもなかった。
整備科の生徒のスムーズな機動に対して、偵察科の生徒の魔導騎士は、ぎこちない動きしかできていなかった。
偵察科の1位でこの動き、偵察科ではほとんど魔導騎士を扱っていない証拠である。情報を集めるという点において、魔導騎士は戦闘機に比べてそこまで高速で移動できるわけではないので、偵察任務に使われる事がない。
威力偵察と呼ばれる様な攻撃を伴う任務では、偵察科ではなく魔導騎士クラスの卒業生があてがわれるのだ。
偵察科に望まれる能力は、敵の戦力を把握するための効果的な情報収集。高速な飛空艇で敵の分布や装備の外観などを調査し、また伏兵として配置されているモノがないかといった予測と確認が大きい。
なので魔導騎士の対戦では散々な成績となるのが恒例となっていた。
その意味では整備科もそれほどの戦闘力はなさそうなのだが、自分に合わせてチューニングができる事と、自分で考えた独自兵装をテストできると張り切る生徒が多いので、クラス内での対戦も多く、実力が磨かれている。
結果として整備科の生徒は独自兵装を見せることなく、相手の周りを旋回するだけで、動きについていけない偵察科の生徒を撃破していた。
ちなみに撃破判定は頭部の破砕、切断などで判定されている。コックピットへの直接攻撃などは危険性が高いので認められていない。
過去に整備科が頭部を体に埋め込んで狙いにくく改造した事があったが、そのために全身をボロボロにされるまで判定が出ずにパイロットは酷くシェイクされた。
そのため、頭部は見えやすい位置に設定されている。
「スラスターによる旋回性能だけみても、しっかりとチューニングされているのは分かるな」
魔導騎士の移動は足を動かして走る以外に、風魔法によって機体を押して動かすスラスター制御があった。
ここに土魔法の重力軽減などを乗せて、更に高機動を生み出す事もできるが、制御が格段に難しくなる。
整備科の機体は、踵と肩にスラスターを持ち、動体に重力軽減を掛けて調整を行っていた。上半身をひねり、肩関節を回して軌道を変えつつ、踵の推力で前進している。この連動が上手くできてなければ、即転倒。下手すると機体が捻れて大破しかねない。
手の内を隠しながらだろうが、接近する縦の動きから、視界の外へと回り込む横移動への切り替えもスムーズで、バランスを失う事はなかった。
攻撃は手にした剣で普通に行っていたが、ルイスとやった1位の様に他の武装もあるとみるべきだろう。
「ま、なるようにしかならないな」




