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捜索系技術の鍛錬

 まずは借りた魔道具のテストを行う。基本的にバッテリー駆動で、スイッチを入れたら一定時間作用する。

 鏡の前に立って、光学迷彩の魔道具を起動してみると、自分の姿が鏡の中から消えた。光の魔力を利用した視覚への欺瞞ぎまん効果だが、ぱっと見では完全に消えた様に見える。

 自分の手を見てみるが、そこにも何も見えなかった。手を動かしていると、少し輪郭を感じる事はあるようだが、そこにあると認識していなければ見落とすレベル。


 この辺は光学迷彩を施す術式もあるので、効果は分かっていた。また術の破り方も開発されている。

 俺は木箱を重ねた上に魔道具を置いて、木箱を隠した状態にした。この状態で魔力感知をしてみると、わずかながら魔法の発動を感知する事ができる。

 オールセンが貸してくれたのは、学生でも手に入る下げ渡し品で、軍で使用される最新の物ではない。しかし、多少オールセンが手を加えて、魔力隠蔽が強化されていた。


「5mも離れるとかなり厳しいな」


 魔力感知の精度は距離によって変わる。近ければ気づきやすいし、離れれば感じなくなっていく。

 校舎周辺の林で行われるかくれんぼは、それなりの広さがあるので、虱潰しにしているとかなり時間を使う事になる。

 また探索側の生徒達もそれぞれに魔道具を使って探査を行うはずなので、それらの発動を感知させられる可能性もあった。


 なので対光学迷彩用の術式を使うことになるだろう。まずはそれをテストしてみる。

 自分を中心に、魔力の波が広がっていくと、光学迷彩の魔道具で隠された木箱に触れて、その輪郭がかなり激しく揺らいで見える。術を解くというよりは、その術に干渉して正常なステルスを行えない様にする感じだな。

 自分を中心に100mの範囲を調べられるので、相手が見えていれば発見しやすくなるだろう。


「これだけ分かりやすかったら、隠れる側も使用を躊躇しそうだな」


 看破術式に対抗したモデルが開発されているかもしれないが、それを用意できたとすれば相手の勝ちと思うしかない。オールセンの魔道具でも揺らぎを止められてないからな。学生でそれを用意できる時点で優秀さを認めざるをえない。


「さて次は……」


 自分の周囲に草を生やして隠れるタイプの魔道具だ。先程の木箱の上に置いて、リモートで起動してみる。

 木箱を覆うように低木の葉が茂っていき、一つの木の様に見える様になった。


 この魔道具のメリットは、姿が整った後は魔力を消費しない点だな。近づいていっても全く魔力を感じない。

 デメリットは周囲に溶け込めているか自分では判断ができない点だな。動くこともできないので、じっと待ち受ける事しかできない。


「周囲が低木なら風に合わせて多少は動けるか?」


 ギリースーツみたいなものだし、遠ければ多少動いても見つからないかもしれない。ただ一方から見えなくても、他から見ると丸わかり……みたいな可能性もあるので、基本ずっと隠れる前提の魔道具だろう。


 この魔道具の見分け方は、風景に不自然さがないかの観察眼が最も大事になる。葉の密度が薄ければ、隙間から中身が見える可能性もあるし、逆に葉が密集しすぎていても違和感がでる。

 周囲の木々との差に気付けるかどうかが問われるな。


 他の魔道具も確認していく。人避けの音を発する魔道具は、魔道具自体は魔力を抑えて発動されているが空気自体が振動しているので、リアの魔力観察で培った探知能力だとすぐに判別する事ができた。


 痕跡を偽装するタイプの魔道具、足跡を付けるラジコンみたいなのとか、囮として動く魔道具など、魔道具として動いているものは、魔力感知で見つける事はできる。

 ただ足跡には魔力が残らないので逃亡者がつけた足跡か、ラジコン製かは自分で判断しなければならない。

 囮についても使用者が持つリモコンも囮に似た魔力を発する様にできていて、どちらが使用者かを判断するのは魔力感知では難しかった。


「さすが歴史を重ねてきた魔道具だ」


 帝国内でも他国との競争にも晒されてきただろう開発の歴史は、単純に見破れる物は淘汰されてきただろう。


「中々大変そうだ」




 それから俺は図書館で捜索に関する技術を調べていく。基本的には前世でもあった人の動いた痕跡などを調べる、下草が踏まれてないかとか、小枝が折れてないかを見ていく方法や、熱源探知方式、音波探知方式などの魔道具で捜索する方法などがある。


「でもこの辺で競っても、日頃から訓練している警備科や歩兵科には勝てないだろうな」


 魔術師らしいやり方を見つけないと、専門のトレーニングを積んでいる生徒にはかないっこない。


 ではどうやって魔法を絡めていくか。魔道具に魔術師が勝っている部分を追究すべきだろう。

 魔術師のメリットは、汎用性の高さだ。専用の魔道具を用意するとかさばるし、多くの物を併用は難しい。魔術師の場合は脳裏にある術式の数だけ方法を試す事ができる。

 そして速さ。魔道具を起動するには、魔術師が術式を発動するよりも時間がかかる。その幅は物によりけりだが、同じ術を使う場合は魔術師の方にアドバンテージがあった。


「これらを複合してより早く見つけるための方法を模索しよう」


 ひとまず俺は既存の魔道具による捜索方法で、自分の知ってる術式で行える物をピックアップしていった。




 そして魔法をピックアップした後、それに習熟していく必要がある。感知系の魔法は、攻撃魔法に比べると消費魔力が少ないが、効果時間を長くする必要があるので並列使用が難しい。

 また走査した結果から必要な情報を抜き出すにも技術がいった。例えば一人の行動を追跡しようと思った時に、周囲にいる人の中からその者を特定しなければならない。


 林の中での捜査を考えれば、他の競争者達と隠れている者を見分ける技術だ。カサカサという葉が鳴る音を検知して、それが風によるものなのか、探す側のものか、逃げている側のものか。それをより分ける能力が求められる。


 なので日常的に探知系魔法を発動して、得られる情報に慣れるトレーニングを開始した。個々の持つ魔力の差や、立てる音の差などより分ける技術。それになれてきたら、徐々に範囲を広げていく。

 範囲を広げると一気に情報量が増える上に、個々の情報は薄れていく。その中でより分ける作業を、授業やら会話やらと並行して行える様に、日常化させていった。




 12月に入り、いよいよクラス対抗が近づいてきて、クラス内で各競技への参加者を決める会が催される。

 魔導騎士での対戦は、当初の予想通り俺とオールセン、ヘンドリックの3人となった。ヘンドリックは、クラス内順位もかなり上げてきて10番手となっている。


 その他の競技は個々に選択して記入したものを黒板に掲示していく形だ。魔術師クラスは幅が広いためにそれぞれが立候補して競技に参加する。

 前世でこの手のイベントでは参加したがらない勢がいくらか出たものだが、軍学校で二学期以降も残った生徒でそうした怠惰な態度の者はいなかった。


 リアが狙撃に立候補している点で少しざわめきが出ていたが、実力を知る者は納得顔だ。リアもクラス内順位の上位者であるので、対戦は避けられず、何度か防衛に成功している。その対戦を見た者は彼女の実力を分かっていた。


 そしてかくれんぼの捜索者側として、俺と共に名を連ねていたのは、メリッサであった。メノン男爵家令嬢で、ヘンドリックと初日に目立っていた生徒。

 しかし、その後の展開は大きく分かれた。実家の財力の差で、魔導騎士に秀でたところを見せられたヘンドリックと違い、メリッサはクラス下位から抜け出せないままに今に至っている。


「よりにもよってファーストが同じ競技ですの……」


 自信を失った彼女はぼそりと呟いていた。

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