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クラス対抗に向けて

 クラス対抗のメインは魔導騎士の対戦だが、他にも色々と競技はある。

 参謀科や諜報科などが主体となる暗号解読対決とか、整備科と偵察科で対戦するトラップ合戦など。

 個人的に興味があるのは、偵察科と航行科で競われるヨットレースだ。光の魔力を受けて走るヨットで、一定のコースを競争する。恒星を巡るルートが基本で、磁気嵐などを避けながらのレースは、過去の映像を見ても興味深い。


 魔術師クラスはクラス内でも様々な特技を内包するクラスなので、割とどこへでも参加が認められている。

 オールセンなどは整備科が行う様な競技ができるだろうし、他にも魔道具の代わりに魔法で対応できる航海系や戦闘系の競技もこなせるからだ。

 ただ、やはり専門職に対抗するのは厳しいので、個々の競技の勝率はさほど高くない。

 しかし、参加できる競技が多いのはメリットで、塵も積もれば山となる作戦で上位に食い込む事もあるらしい。


 そのうちクラス内でどの競技に参加するかの協議が行われるだろう。俺はこのままいけば魔導騎士の対戦にエントリーされるが、ヨットレースも捨てがたい。

 星系内を往復するだけなので、俺が目指す自由航行できる環境とはあまり関係はないが、光魔力をしっかりと帆で受けつつ、惑星でのスイングバイを利用して加速など、競技としての面白さがある。


 リアが参加すると面白そうなのは、かくれんぼだ。これは偵察科、諜報科の生徒が隠れているのを、警備科や歩兵科などが探していく競技だ。

 リアの風魔力を利用すると、結構面白いんじゃないかと思っている。風魔法には音を集める魔法や動体感知の魔法などもあるため、制御レベルの高いリアなら、極僅かな呼吸音なども捉える事ができそうだ。

 ただ本人にやる気がなさそうなのが一番のネックだな。


 などなどクラス対抗の話題で盛り上がりながら夕食を終えた。




 軍学校のある帝国本星だが、その環境はかなり地球に近い。この人類の母星もまた地球に近かったので、それに似た惑星をテラフォーミングして現在の環境を構築した結果だ。

 約24時間で自転を行い、約365日で恒星を一周する。前世と違うのは2月が30日まであって、8、10、12月が30日であり、9月が31日まであること。つまりは均等に割ってる形だ。

 4年に一度のうるう年は、11月が31日になることで消化された。


 地軸の傾きもほぼ23.4度となっており、中緯度では春夏秋冬の四季を持っていた。

 そのため10月も半ばを過ぎると冬が近づき気温がかなり下がってくる。

 校舎を囲む林の広葉樹も葉を落とし始めていた。そんな中でもリアは相変わらず風を制御して魔力を集めていた。


「寒くないのか?」

「寒いほうが集まる」


 気温が下がった方が気体の密度が上がるという事だろうか。魔法と物理、その兼ね合いは中々複雑で難しい。

 例えば気圧を上げると気温が上がる。気圧を上げる方法としては、風魔法でぶつける方法と、重力魔法で圧縮する方法があり、それによって火の魔力が生まれる事になる。

 逆に気圧を下げていけば、冷気から水の魔力が生まれるのだ。


 光を集めていけば熱量が上がって火の魔力が生まれ、火の魔力で上昇気流が起これば風が、雲ができて雨が降れば水の魔力へと変換される。

 エネルギー保存の法則の様に、魔力の中でも総魔力量が保存される法則があるのだろうか。

 その辺りは魔導士によって研究されてるのだろうが、明確な資料が無いことを見ると、結論は出ていないのだろう。


 などと取り留めのない事を考えるうちにリアの日課が終わり、鼻の頭を赤くしながらやってきた。


「ほれ」

「ん」


 水筒に入ったホットココアを注いで渡すと、素直に受け取って飲み始める。小動物を餌付けしてる気になるな。


「リアはクラス対抗で何に参加するんだ?」

「射撃」

「ほう」


 返答の内容より、即答された事に関心してしまった。どうせ無関心で何も考えてないと思っていたので、かなり意表を突かれた。

 しかし、射撃か。

 銃の魔道具、もちろんホーミング性能のない物で離れた的を射抜く競技た。軍学校らしい競技でもある。


 銃弾はまっすぐに弾を撃ち出すが、様々な要因で弾道が動く。それを読みきれるかが勝敗を分けるわけだが、リアは最も大きな要因である風を読むことに長けている。なるほど、納得の選択だ。




 クラス対抗での成績は、学業の評価にも加味される。それぞれの学科に合わせた競技をやるから当然だな。

 俺は魔導騎士での対戦を予定しているが、一つに絞る必要もない。

 気になっているヨットレースは、光の魔力を効率的に運用するという面で、魔術師クラスでの評価もある。

 しかし、ヨットでの航海はかなり時間を要する競技なので、魔導騎士の対戦と被ってしまう。泣く泣く参加を見送る事にした。


 他に参加できそうな競技を見てみると、身体を使った競技系は魔法使用は禁じられるのでダメ。ロッドなども身体強化なしだとケルンに全くついていけないしな。

 知能系、暗号解読などの素の頭脳を駆使するのも無理だろう。


「となるとリアに向いてそうだと思った捜索系競技かな?」


 魔道具も駆使して隠れる偵察科や諜報科の生徒を見つける競技。リアを観察する事で微妙な魔力を検知する技術は磨かれている。

 ステルス処理されて魔力を感じにくくされている魔道具も見つけられるかもしれない。


「今度、それらの魔道具の作動を検知できるか試してみるか……オールセンなら持ってるかな?」




 思い立ったら吉日。学期末のクラス対抗まではそれほど余裕もない。早速、オールセンへと相談してみた。


「ボ、ボクは、整備の競技に、さ、参加、する」


 クラス対抗の話を振ると、オールセンも魔導騎士での対戦以外の競技を狙っているとの事だった。

 壊れた魔道具を修理する競技。整備科がメインとなる競技だが、偵察科や諜報科などの敵地へ潜入する科の他、戦地での急な修理を必要とする歩兵科などの参加も多い。

 出される課題も、専門的な技術が必要というよりは、工夫して臨時に使える様にできるかというモノが出るらしい。


 例えば、パンク修理。換えのタイヤがない場合に、工夫して目的地まで走破する速さを競うなどだ。

 パンクの穴を塞いで凌ぐか、タイヤの代替品を作るか。走破する地形によっては、ソリを履かせるなどの対処法もある。

 機転と技術を問われる競技だ。


「こ、これ」


 オールセンが魔道具を幾つか渡してくれた。潜伏に使用される魔道具だ。研究するために入手していたらしい。

 ちなみにオールセンは幼年学校の頃から魔道具を作成してそれなりに稼いでいたらしい。それを新たな魔道具の購入に充てるので、貯金はほとんどないらしいが。


 魔道具を確認していくと、光学迷彩を施す魔道具や、音を消す魔道具、岩に擬態する魔道具など、隠れることを主としたものだ。

 変わったところでは、人払いの魔道具かな。人が聞こえるか聞こえないかギリギリの音を鳴らして、不快感を与えて近づかないようにするという。前世でもモスキート音と呼ばれていたものと同様だ。


 魔道具なのだからもっと精神的に作用しても良さそうだが、精神操作系の魔法は厳密に管理されている。学生のイベントで使うのはリスキーなのだろう。

 他にもデコイを生み出し捜査を撹乱するとか、足跡を付けるドローンの様な魔道具もあるらしい。


「そうか……魔法で隠れると考えていたが、痕跡を偽装する魔道具もあるんだな」


 隠れるのに魔力を利用しているだろうから、それを感知できれば見つけられると思ったが、ちゃんと捜索する技術も求められそうだ。

 一応、野生動物を捕まえられるようにと砂漠で特訓していたが、その経験を活かせるだろうか。

 かくれんぼに使われるのは、校舎周辺の林。見通しが悪く、隠れる場所も多いし、地面だけでなく樹上に隠れるケースもあるだろう。


「もう少し捜索技術に関する知識を仕入れておくか」

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