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対戦の評価

「魔術師クラスでなければ、剣術で挑めたのにっ」


 悔しがるヘンドリックにひらひらと手を振りながら、俺は対戦を終えた疲労感を抱えながら運動場を後にした。

 魔導騎士の操作は魔力の制御。それを体の感覚と合わせながら並列で行うのはかなり疲れる。

 本職の魔導騎士クラスなら、自分にあったチューニングもできるので、魔力の制御への意識をかなり減らせるが、借り物で戦わねばならない俺が、満足に動かそうと思えばかなりの集中を必要とした。


「その点、オールセンは上手くやったな」


 彼は自分の魔力を魔導騎士に合わせる魔道具を作る事で、どの機体でも同じ様に扱える形に落とし込んでいた。あれなら少ない魔力で、制御に自信がないオールセンでも、普通の生徒に負けない動きができた。

 まあ、オールセンの場合は、近距離戦闘の経験もないから俺やヘンドリックには敵わないだろうけど。魔術師クラスであれば、大きな弱点とはならないはずだ。




 そのオールセンは、電波と魔力の関係を研究するのに没頭していた。電波が電流に変換される際に、風の魔力も発生させる。それを利用して、遠隔での魔法起動ができないかなど、既存の魔力感知では検知できない魔道具を作ろうとしていた。

 こいつが軍部の技術屋になったら、帝国の技術力は周辺諸国から頭一つ抜け出すかもしれない。





「派手にやったらしいな」


 食堂での夕食、ルイスがやや嬉しそうに絡んできた。どうやらヘンドリックとの対戦を聞きつけたらしい。

 情報端末をセットして、そこに対戦の様子を映し出していた。


「そんなの撮ってた人がいたんですか?」

「魔術師クラスのトップの対戦だ。割と目を付けられてるぞ」


 な、なんだってー。

 人数的にクラスの人間しか見てないと思ったんだが、どうやら撮影スタッフを紛れ込ませて、中継されていたらしい。


「例年、魔術師クラスにはエース格が出るからな。俺達魔導騎士クラスとちがって、連携より個を優先させるから目立つだけだが」


 少し含みのある説明をするルイス。魔導騎士の操作に魔力量は影響しないとされているが、それはスペック通りに動かす場合の事。魔術師であれば、プラスアルファの魔力を入れて瞬間的に力を引き出す事もできる。

 そうすると一対一の対戦では派手に見えるのだろう。ただ、ヘンドリックの様に白兵戦の基礎ができていたら、派手なだけでは終わらない。


「いい動きだ」


 普段は口数の少ないマットも感想を述べているように、きちんとチューニングされたヘンドリックの動きはスムーズだ。


「プロの整備士がメンテしてれば、この程度は当たり前だろ」

「押されてますね、タマイさん」

「いいトコのボンボンだと思ってたから、ちょっと油断してました」

「ロキシャール家だったか。あそこは基本、内政で目立った家のはずなんだが、コイツは俺達寄りのようだ」


 俺が剣術に苦戦しているシーンでは、ヘンドリックが評価されている。


「負け惜しみの術式展開」

「実戦経験がありそうですね、タマイさん」

「闘士のケルンとは幼年学校からの付き合いですから」

「ああ、アイツも魔導騎士に乗れたら面白いのに」

「武術家の修行が進めば、乗れるようになると思いますよ」

「ふむ、それは楽しみだ」


 剣術での相手に見切りを付けた俺が、目くらまし合戦へと持ち込んで、逆転勝利したのだがその結末はあまりウケが良くなかった。


「今後伸びそうなのはロキシャールの方だな」

「タマイさんの機体は借り物でしょう。それをあれだけ使えるのは凄いですよ。これが専用機になればもっと凄いんじゃないですか?」

「現状でも動きに無駄はない。専用機になっても劇的に動きが良くなる訳じゃないさ。それよりロキシャールは、まだ実戦に不慣れなだけ。ちゃんと対戦のノウハウを吸収していけば、伸び代は大きい」


 ヘンドリックの評価はかなり高いみたいだな。幼い頃から鍛えられてきた部分に感じるモノがありそうだ。


「タマイは器用貧乏」

「ええ、そうでしょうよ。僕の目指すのはそこなので」


 マットが図星をついてくるので、どうしてもすねた様な反応になってしまった。

 でも俺が目指す偵察スカウトという役職に求められるのは卓越した戦闘力よりも、状況に合わせて様々な任務をこなす器用さだ。強いに越したことはないが、しっかりと逃げられれば情報は持ち帰れる。

 そうしたしたたかさを見せる方が、成績に繋がるはずだ。決してヘンドリックに劣っている訳じゃない。


「ま、戦いたくないのはタマイの方だよ。何してくるかわからんからな」

「それでフォローしているつもりですか?」

「本心だとも」


 フッと笑いながら肩を竦めるルイスの評価は分かりにくい。やはり貴族として本心を見せない教育をされているのだろう。

 まあ、無理して砕けた口調で話しているので、そこが影響している面もあるが。


「ま、クラス対抗戦を楽しみにしてる」

「冬季休暇前だっけ?」


 クラス間の競争を促す催しが行われる予定だった。学科によって直接対決できるものは限られてくるが、その中で魔導騎士での対戦は比較的多くの学科が参加できる競技だ。

 魔導騎士クラスが圧倒的に優利なので、片手だったり、ウェイトを付けたり、相手によってハンデを付けて行われる。

 ただ魔術師クラスは過去の成績も加味されて、ノーハンデで戦う事になるはずだ。

 確か上位3人が選ばれるはずだが、現時点では俺とオールセン、ヘンドリックとなるたろう。


「まだ分からないけどな」


 あと2ヶ月ほどあるので、その間に順位が動く可能性もある。


「それは俺もだな。クラス内順位を維持しないと」


 ルイスは現在、クラス2位らしい。魔導騎士クラスはクラス内順位がそのまま出場権となるので、クラス対抗に向けてより対戦が活発になっていくらしい。


「そういえば軍務科だとどうなるんだ?」

「傭兵を雇う形ですね」


 財務管理なども行う軍務科では、直接戦闘をする人間はいない。なので外部から傭兵を雇って代理にするらしい。


「現役の軍人などを雇えば、勝率は上がりますが、その分経費がかかるためポイントが低くなりす。なので費用を抑えつつ、強い者を探す手腕が求められるのです」


 学生から選べば安く費用は安く抑えられるが、基本的にクラス上位はそのクラスの代表となる。そこに及ばない人材を雇っても勝機は薄い。

 そのため学外から招聘するのが基本だが、その情報を集める段階から経費は掛かるので、軍務科の勝率はそこまで高くなかった。


「夏の選抜で漏れた中に逸材が埋もれていた場合が、一番勝率が良いのですが」


 二学期のふるいで転校させられた生徒の中で、魔導騎士の適性があった者を見つけられれば、雇う費用も情報収集に掛かる経費も抑えられるらしい。

 一学期のうちに伝手を作っておいて、転校生から情報を吸い上げ、その学校の上級生を雇うパターンが多いらしい。


「それだけでも候補者は膨大な数になりそうだな」

「ええ。それに整備兵なども別途必要なので。まあ、この辺は整備科の生徒でも問題ないですが」


 整備科の上位成績者がパイロットになるケースは少ないので、そういう者を雇うらしい。


「マットの方はどんな感じ?」

「まだまだだ」


 歩兵科は自分の身体で戦うのが基本なので、魔導騎士の操縦には重点を置いていない。銃器を扱うのと魔導騎士の操縦は全くの別物だからだ。

 個人の戦闘能力という面では学内でもトップクラスだが、それを操縦に活かせない。

 例外となるのは、ケルンの様な武術家だろうが、それでも学生のうちは身体強化で手一杯の生徒が多く、魔導騎士での戦闘に体技を活かせるレベルの者は少ない。


 そして歩兵科はその特性から貴族が少ないというのもある。ケルンはかなりの例外で、基本的に地べたを這いずり回るイメージの歩兵科は貴族に人気のない学科だった。

 なので実家で予め触れていたという人も少ないらしい。


 マット自身も魔導騎士については向いてないと感じているらしい。過去にはパワードスーツを着込んで魔導騎士と戦う猛者もいたようだが、出力の違いから勝負にならなかった。

 歩兵科では魔導騎士に多少なりと適性のある者を探している段階だという。

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