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海賊狩り

「海賊狩りはロマンだよな」


 部屋に戻ったところで、ルイスが話を継続してきた。就寝までにはまだ少し時間がある。俺とローガンの話を聞いて、割り込むチャンスを狙っていたらしい。


「帝国内で軍功をあげるなら、海賊狩りが一番可能性が高い」


 隣国からの定期的な侵略はあるものの、それでも大規模な侵攻は20年以上前。国境付近で小競り合いはあるものの敵船を撃破するような展開はそうそう起こらない。

 そのため、軍の主な仕事は国内の治安維持。つまりは海賊狩りが仕事となる。


 そもそも海賊とは、星系間輸送機を襲撃して、その積荷を奪ったり、船そのものを奪ったり、乗員を人質に身代金をせしめたりする連中だ。

 星系間を輸送する艦船はどうしても大型になり、その分空間転移で跳べる距離は短く、途中で魔力供給を受けながらとなるため、時間が掛かった。


 補給基地がしっかりとしていれば、襲撃される危険はないが、どうしても途中で自己補充しなければ採算が合わなくなってくる。

 宇宙空間での魔力補充は、主に恒星から光魔力を受ける事で行うことが多い。感覚的には太陽光発電に近い。

 吸魔能力のある帆を広げ、恒星からの光を受けて魔力タンクを満たしていくのだ。


 その間がどうしても無防備になってしまう。

 宇宙は広大なので、補充に使う恒星も無数にある。その中で海賊が待ち伏せする恒星に当たってしまうのは、不運ではあるが、海賊側も事前の航路で目星を付けて、かなり絞り込んで狙ってくるようだ。


 そしてある程度の被害が続くようになって、軍が派遣される訳だが、今度はその無数の恒星が障害となって軍にのしかかる。海賊の出る範囲を絞り込み、空間転移を阻害するジャマーで包囲網を作って殲滅するには、綿密な情報収集が必要となる。

 ジャマーを展開できる範囲は最大でも一つの星系。海賊のいる星系を絞り込んで、そこに海賊がいると確信した中で仕掛けなければならないのだ。


「海賊狩りの新たな方法の確立は軍でもトップレベルの重要任務。それを達成できれば、歴史に名を残せるぞ」


 ルイスとしたらその功績で実家の陞爵も狙えるという事だろう。


「それに帝国内の海賊は、海賊王国からの侵略行為だって話もあるしな」


 敵国内の流通を乱して、国力の低下を狙うというのは、昔からある手法ではある。隣国が主導して行っているとしても不思議ではない。

 逆に帝国側からも仕掛けてる可能性もあるな。


「早期に見つけて、撃滅するのは、軍としての責務だ」

「しかし、昔から海賊狩りは行われてきたし、改善策も練られてきた。まだ入学したばかりの私達が考える程度は、当然検討されているだろう」

「そうやって、思考停止するのが良くないんだ。昔の手法であっても時間が経ってから行えば、効果がでる可能性はある。考える事が無意味ではないだろう」


 忘れられた手法が効果的に決まる事もあれば、技術革新で新たな手法が生み出される事もある。突拍子もない考えが、意外と的を射ている場合もあるかもしれない。

 それに航行可能な海賊船を手に入れられれば、俺にとってもメリットはある。

 少ないコストで拿捕できれば、自家用船の入手も夢ではなくなるのだ。


「ま、考えるだけなら、デメリットもないし、僕も考えてみるよ」

「そうですね。思考の過程で得るものもあるかもしれませんね」

「そういう事だ。帝国の未来に安定を!」


 ルイスが貴族らしい締めをしてその晩は就寝した。




 海賊狩りを行う。

 相手は空間転移で逃げる事も可能な船。輸送艦などでもジャマーは展開できるが、その距離は軍用の物に比べると短い。足の早い海賊船は、あっさりと圏外に逃げて飛ぶ事ができるのだろう。


 軍のジャマーは中継機を幾つか設置して、さらに多くの艦から照射する事で広範囲へと展開する。そのためには、準備の時間が必要だ。

 海賊船一隻を仕留めるのに、大々的な作戦を打っていては、予算がいくらあっても足りなくなるので、どうしても必要な抑止力を見せる意味での定期的な討伐にとどまっているのが現状だ。


 もっと低コストで短期間に討伐できるシステムを構築できれば、私掠船による撹乱を抑える事ができるだろう。


 宇宙空間での国境線は広大で、すべてを警備するなんてことは不可能。入ってくる船を締め出すなんて事はできない。

 本来なら主要星系に監視所があり、入国審査を受けた船だけが、帝国内に入ってくる。またそうした船でなければ、帝国内で商売はできないし、巡視艇に見つかれば通報、拿捕される事になる。


 しかし、そうした監視所から離れた場所から入国し、巡視艇に見つかれば即座に逃げ出す様な船を追跡するのは困難だ。

 一度見つけて、その魔力炉の固有波長を解析しておけば、索敵に引っかかる範囲を広げる事はできるが、それでも星系外の外宇宙までは探せない。


「第一関門は、魔力炉の固有周波数をできるだけ登録しやすくして、第二にそれらを検知できるシステムを作り出す……か」 


 でも現在も海賊狩りをする際には、星系を絞って罠に掛けることはできてるから、海賊船の捕捉自体はちゃんとできてるのか?

 となると、次は逃さないようにしっかりと無力化する方法か。


 海賊船は継ぎ接ぎの型落ち船が多いらしいが、加速力に重点を置いたセッティングがされている事が多い。

 そのため、同じ大きさ以上の船では追いつく事ができない。戦闘機クラスのサイズなら加速で負ける事はないが、火力に劣るため無理に追撃すると墜とされる危険が高い。

 キラービーの話でも4機中3機は撃墜されたらしいし。


 じゃあ海賊船と同クラスで機動力重視の船を用意するのが順当だろうな。継ぎ接ぎの海賊船よりもちゃんとそれ用に設計された高速艇を作れば、海賊船に負ける事もないだろう。


「問題は生産コストと配備数になってくるか」


 対海賊用の船で装甲を削って機動性重視となった船は、普通の戦場だと流れ弾でも落ちかねない軽装甲。火力も最低限となると、使い所がない。

 本当に海賊駆除専用の機体を用意する事になる。そうなると量産はできないのでコストは割高になり、あまり数を作れないと海賊の出現ごとに現場に持っていかないといけなくなる。


「それを生産する余力があるならば、既に作られているか」


 対海賊に特化した機体を用意できないとなれば、既存の兵器の運用でカバーしたい。戦闘機は航続距離が短いのと火力不足。

 魔導騎士は戦闘機よりは火力があるが、機動力に劣る。


「変形機構を付けた魔導騎士とか、前世のアニメならあったが、実際に作ろうとすると可変機構の分、機体が重くなって余計に機動力が落ちるだけだな」


 戦闘機に魔導騎士を運ばせるというのも同様に、戦闘機の機動力が落ちて海賊船に追いつけなくなるだけだろう。

 もっと別のアプローチが必要なのだろう。


「まあ、軍の経験豊富な上層部が有効な手段を打ち出せない事を学生が一朝一夕でどうにかできるはずもないな」


 色々な方法を考えるうちに、ブレイクスルーがあるかもしれない。諦めずに考え続けて何らかの方法を見つけよう。その結果、海賊船を軽微な損傷で手に入れる事ができれば、わざわざ軍に入る必要もなくなるしな。

 海賊狩りはあくまでも船を手に入れるための一つの手段に過ぎない。そこに固執する必要もなかった。


「そういえば海賊狩りの話は、ローガンが上げた前例の一つだったか。他の例にはどんなものがあるんだろうか」


 貿易系の企業に親が勤めるというだけあって、幅広い知識を持つローガンは今までにない視点をくれそうだ。

 また時間を作って話を聞いてみよう。

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