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都市部へと

 この星には外敵が存在しない。帝国領内で国境からも遠い星系なので、他国に侵入される心配がない。

 そして希少金属を算出するとはいっても、莫大な富を生み出すような素材でもない。他でも産出されるような金属だ。

 そのため、宇宙海賊がわざわざ襲撃するほどの価値もない。

 地表で見ても人を襲うような原生生物もおらず、一見すると平和そうな星だ。


 しかし内実はかなりの格差社会となっており、帝国本土とのやりとりを司る中央組織にあらゆる富が集中していて、末端の人々はかなり厳しい生活を強いられていた。


 俺にとって大きな問題は、惑星の外へと出る手段が中央に独占されていて、生半可な事では渡航の許可が下りない点だ。


 重力を振り切り、外宇宙を旅できる船というのは、それなりに大型のものになる。脱出艇も惑星への侵入はできても、再び飛び立つ力は持っていなかった。

 そうした宇宙船を手に入れるには、資金はもちろん中央組織へのコネが必要なのだ。


 俺の持っている共和国の最先端技術は、5年前の知識だが、辺境で流行に遅れがちなこの惑星の最先端よりも遥かに進んだ位置にある。

 これを使えばコネを作る事もできるかもしれないが、逆に目の敵にされる危険性もはらんでいた。


 こうした強権によって支配している地域というのは、中央組織に逆らえない実力差を植え付けたいはず。なので新たな技術が上下を覆すと判断されると排除に動こうとするかもしれない。

 世の中、便利になってもらっては困るという面倒な連中もいるものだ。


「何にせよ、生活基盤を作らないといけないよな」


 俺の外見はまだ10歳。教育レベルが意図的に抑え気味のこの惑星においても、まだ学校に通っている子供が多い年齢だ。

 とはいえ公的機関である学校に入り込むには、身分証明ができない状況で厳しい。

 帝国籍を取得できるのがベストだが、誰かの身分に成り代わるような技術もそれを与えてくれるコネもなかった。


 となるとできるのは身分を問われない下町、スラムといった所に紛れ込んで、アンダーグラウンドな有力者に取り入るという形になるか。

 ここはウルバーン星の首都にあたる都市だが、その外縁部にある下町地域はかなりボロっちい。バラック小屋の様な薄い金属の屋根をした一階建ての家が並んでいる。

 治安もさほど良いようには見えなかった。


 脱出艇と元採掘場との行き来に使って、かなり傷ついたホバーバイクだが、それでもここを走るバイクよりはまともに見える。

 服も俺が着ている農作業で汚れたツナギよりも擦り切れた服を着ている者が目立った。


「かなり品質を落としたつもりだったが、それでもまだ浮く……か」


 下町を走らせている中で、ある種の人々の視線が向いているのを感じる。ほどなくそれは前方に止められた車によるバリケードという形で現れた。


「おう、坊主。いいもん乗ってんじゃねえか」


 俺がホバーバイクを車の手前で止めると、車の影からガタイのいい、40くらいの男が出てきた。背後にも人が出てくる気配がある。完全に包囲されていた。


「年代物ではあるけど、メンテナンスはしっかりとしてるからね」

「ほう、どれどれ。おっちゃんが確かめてやるよ」

「この辺のに慣れてるなら気をつけてね。スロットル間違うと吹っ飛ぶよ」

「ナマ言ってんじゃねぇ、さっさとよこせ」


 俺は肩を竦めながらホバーバイクから離れる。


「ヘヘッ、殊勝な心掛けだ」


 男は喜び勇んでホバーバイクへと飛び乗る。そのままスロットルに魔力を注ごうとして、逆に余分に吸われる形で魔法陣が起動、一気に後部が加速する。

 前は停止したまま、後方のみが加速すれば、ウィリーの様に車体が棹立つ。


「うぉっ」


 そのまま後頭部から地面に叩きつけられる男。


「だから言ったのに……」

「てめぇ、何しやがった」


 後方を包囲していた奴らが一気に距離を詰めてくる。


「スロットル間違ってひっくり返っただけでしょ。状態のいいバイクに乗ったことなかったんじゃない?」

「てめぇが変な小細工をしたんだろうがっ」

「そんな事ないって。いきなりあんなに吹かしたらひっくり返るもんだって」

「アニキの運転が下手だと言いてぇのか、あぁん?」

「実際、そうとしか言えないでしょ」


 俺がため息交じりにそう言うと、周囲の男達が気色ばむ。


「舐めた態度しやがって、教育が必要そうだな」

「あのねぇ、こんなガキがあんたらみたいなの相手に平気そうにしてるんだ。おかしいと思わない?」

「世間知らずってだけだろうがっ」


 そう叫びながら男達が殴りかかってくる。脳筋ここに極まれりだな。まあ、その方が実力を示せて、上の方に繋がりやすくなるかね。

 俺はつらつらとこれからの皮算用をしながら、男達をいなしていく。前世ではケンカもまともにしたことはなかったが、この世界に呼ばれた時に刷り込まれた知識で基本的な戦い方は知っている。


 それをアイネとの訓練でしっかりと体に覚えさせていた。本当にアイネに頭があがらないな。

 メイドの(たしな)みという護身術には、結局最後まで敵わなかった。やり残した事が多いな。早くアイネに会いたい。


 他愛もない思考を巡らせつつも、染み付いた動きに淀みはない。小さな体躯を利用して、前かがみに襲ってくる男の足を払う。

 柔道の出足払いの要領で、踏み込んで着地する瞬間に外へと力を加えれば、面白いように踏み外し重心が下る。

 下がった顎へと掌底を突き上げると、子供の身長でも頭を揺さぶることができた。軽い脳震盪を起こした男は、前かがみになったまま、地面へと顔面から着地した。


 ケンカ慣れしてそうな男達は、目の前で起こった昏倒劇に、即座に対応してくる。同じ様に掴みかかろうとはせずに、リーチの差を活かすべくローキックで攻めてきた。

 体格差を考えたら下手に受けるのはまずい。ブロックできたとしても、そのまま強引に振り抜かれたら、小さい体は吹っ飛ぶだろう。


 なのであえて一歩前へと距離を詰め、自分から蹴ってくる足へと向かっていく。遠心力とスピードが乗る足先よりも、膝付近でぶつかる方が、蹴りとしての威力は落ちる。

 ローキックしにきた足の膝を小脇に抱え込むと、そのまま体全体で巻き込むように回転。ミシッという膝の軋む音に、男が絶叫する。


「ギャアッ」

「おい、無理して踏ん張るなよっ」


 比較的実戦でも使いやすいプロレス技の一つ、ドラゴンスクリュー。相手の足を抱えて膝を固定しつつ体で巻き込むことで、関節を極めながら投げる技だ。

 レスラーなら下手に踏ん張らずに自分から飛んで膝への負担を減らすのだが、この男はその対処法を知らなかったらしい。

 投げ飛ばされまいと思いっきり踏ん張った結果、ビキリと膝から嫌な音が響き、あり得ない角度で膝が折れた。


「むう、プロレス技でも受け手が上手くないとヤバいか」


 まあ、格闘技の関節技なんて受け方を知らないと、骨や腱をやっちまうか。とりあえず二人を継戦不能。残りは3人、流石に警戒したのか一定距離を取って構えている。


「そろそろ話し合いに移っていいかな? 僕は争いに来たんじゃないんだ」


 俺の言葉に対して、男達は逆に憤りを見せる。


「舐めてんじゃねぇ」

「やっちまえっ」


 襲いかかってくる男達は、きっちり三方から囲むように近づいてくるが、個々の動きに連携と呼べるほどの繋がりはない。

 俺が一人に近づいても他二人が距離を詰める事もなければ、正面の男が距離を稼ぐこともなかった。


 結果として一対一を3回繰り返したようになる。ケンカ殺法といえば聞こえはいいが、単にケンカ慣れした素人。しっかりと考え込まれ、歴史を重ねた武術ではないので、訓練を受けた者には通じない。

 まあ、言って俺も真っ当に訓練を積んだのは5年ほどなんだけど。ただ魔法で身体強化も可能なこの世界だと、修練の差はより顕著に現れた。


 ほどなく3人を片付ける事に成功した。

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