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ケルンの相手

「よし、やるぞ」

「もう少し、食休みさせてくれ……」


 鹿肉のソテーをメインにした夕食を終えたケルンは、早速とばかりにロッドを手に立ち上がった。

 もっと体を動かしたいというケルンに付き合うことは同意したが、食後すぐは辛い。


「ならこういうのはどうだ」

「ん?」


 周囲の土を盛り上げ、そこから術式で石を飛ばしていく。ケルンは飛んできた石をロッドで弾く。


「ふむ、どんどん来いや」

「まずは正面、3箇所からスタート」


 盛り上げた土からランダムに撃ち出される石をしっかりと弾いていく。3箇所程度ならまだまだ余裕だった。


「なので追加」

「おお、どんどん来いや」


 左右に2箇所追加。視野を広く取らねばならない分、難易度は跳ね上がったはずだ。それでも難なく避け、打ち返す。


「更に追加」

「お、おうっ」


 後方にも2箇所追加。これはもう視覚の範囲外なので、気配などで察知するしかない。止まって打ち返すよりも、動きながら対処する事を選び、打ち返すよりも、避けを選ぶ数が増えていく。

 それでもクリーンヒットがないのは流石だな。


「よし、見きった」


 ケルンはそう言いながら、ロッドをスイングして石を打ち返すと、それが盛り上がった土を砕いていく。


「ウォーミングアップには良いかもしれないけど、やっぱり手合わせするのに比べるとゲームレベルだな」


 ニヤリと笑いながらクイクイと手招きしてくる。あまり時間を稼げなかったか。


「折角だし、魔法を使ってくれよ」

「身体強化は使っているぞ」

「そうじゃなくて、もっと魔法を駆使して戦うんじゃねぇのか、魔術師ってのは?」

「それはそうだけど、ロッドの試合とは無縁の戦いになるぞ」


 ロッドはあくまで一対一の武術。相手の動きを読み、フェイントを混ぜて、打ち合う競技だ。さっきのイシツブテも、ロッドの動きを想定して動かしていたので、練習にはなっていると思う。

 ただ魔術師としての戦闘となると、それらの縛りからかけ離れたものになる。ロッドでチャンピオンを目指すには、逆に邪魔になりかねない。


「ロッドはあくまで一つの目標だからな。武人として戦場で活躍を目指すなら、魔術師との戦闘は糧になる。この惑星の生物相手もロッドの試合としてみれば、そこまで練習にはならないし」

「ふむ……まあ、体験しておくに越したことはないのかな」


 俺は仕方なく腰を上げる。




 魔術師というのは、脳裏に術式を描く事で魔法を実現する。詠唱も仕草も要らないので、近接戦を行いながらでも発動する事はできる。

 とはいえ、目の前で武器を打ち合いながら、別の思考を走らせなければならないので、複雑な術式は組めない。

 しかし、反復で術式を繰り返すうちに、反射的に術式を動かす事もできるようになるので、単にロッドを使うよりも多彩な攻撃が可能だ。


「そうだな、まずはシンプルな所から」


 俺はロッドに炎を纏わせて振るっていく。ファイヤーダンスみたいなイメージになるな。両先端が炎に包まれている。


「熱っ熱っ」


 ロッドを打ち合うと火の粉が舞い、避けても至近を通れば肌が焼ける。炎を相手にするのは割と厄介だ。

 しかし、ケルンはロッドの達人を目指す男。天性の才も持ち合わせている。つまり、武術家の才を開花させつつあった。


 まだ魔力の起動に時間は掛かるが、戦いながら気を巡らせて身体強化に至る。ロッドの試合では魔法禁止なので、勝手にでも発動したら困るので、制御できるように練習させている。

 そのために手合わせを重ねる必要もあった。


「おし、慣れてきたっ」

「じゃあ、次だな」


 身体強化で魔力を纏えるようになると、防御力も増す。炎が直撃しても、いきなり焼かれる様な事はなくなる。

 ロッドから炎が離れて動き出す。炎の鞭のようになった攻撃に、ケルンも避けきれなくなっていく。


「くそっ、変な、動きっ」

「物理法則では動いてないからね」

「物理ってなんだよっ、くそっ」


 この世界は魔法で動いているので、物理法則の研究もかなり大雑把だ。物が飛んで落下する軌跡は何となく経験則で学ぶが、重力加速度や空気抵抗といった具体的な計算式では表せない。

 何事も魔力の為せる技として理解する。


 ただそれは大雑把という訳でもない。物が動くと魔力も動く。その流れは魔力感知で見通せる様になっていく。放たれた矢がどこに命中するかを正確に予測する事もできるようになる。途中で風の魔力を受けて、軌道が歪もうがそれを踏まえた上で判断できるようになっていく。


「炎を目で追うんじゃなくて、魔力で感じるんだよ」

「くそっ、目をつぶればいいのか!? ぶへっ」


 魔力で感知できてないのに、目をつぶれば当然避けきるなんてできっこない。見事に直撃をくらって吹っ飛んだ。


「見えてると惑っちゃうなら、見えない方が楽かね?」


 炎を消して、風の塊へと切り替える。よく見れば空気の揺らぎの様なモノを見ることもできるのだが、夜だし速く動くので目で追いかけるのは無理だろう。


「考えるな、感じろ」

「元々考えて動いてねーよ」


 これだから脳筋は。空気を固めた玉は、直撃すると金属バットで殴られる程度の衝撃はある。魔力をまとった状態なら多少は緩和されるが、それでも無傷とはいかない。

 ただ風の玉は、空気の動きも伴うので、ケルンには気配を感じやすいようだった。炎の鞭よりも感じられて避けられる割合は多い。


 ロッドを高速で動かしながら、ぶつかってくる風の玉を叩き落とそうとしてくる。しかし、ロッドと違って、こちらの意思で軌道を変えられるので、正確に叩くのは難しい。

 空振ってボディブローの様な一撃を食らう。


「まだまだこんなのは魔術師の戦いじゃないぞ。精々、魔導具を使い始めた兵士の動きだ」


 かつてアイネにしごかれたのを思い出しながら言葉でも攻める。


「本気の攻撃なら何度死んでたかな?」

「ふごっ」


 ロッドだけでは無理と判断したのか、拳や蹴りも交えて風の玉を叩こうとするが、それを避けつつ胴へとぶつける。


「う、鹿が出るっ」

「それはもったいないか」


 ボディブローを腹から太ももへと軌道修正。バチンという音と共に下半身を弾かれる。咄嗟に自ら飛んで衝撃を受け流しつつ、軽やかに立ち上がる動きはさすがだ。

 でもここらが限界かな。


「それじゃ、最後。正面から大きめのが行くから、受けるか避けるかしてみてね」

「うしっ」


 直径1mほどの風の玉を生み出し、ケルンに向かって放つ。本来ならその大きさを圧縮して小さくすればするほど威力が増すのだが、今のケルンにはこの大きさのままで十分だろう。

 渦巻く気流は僅かな灯りでも十分に視認できるだろうが、その渦の中心を捉えるにはきちんと魔力で感知する必要がある。


 最も少ない力で霧散させるなら、渦の中心にロッドを突き込み、自らの魔力を放つ事だが、ケルンにはまだ無理かもしれない。

 そんなこちらの予測に対して、ケルンはあっさりとロッドを捨てて、玉に抱きつくように捕まえた。


「うおおぉぉぉぉぉっ」

「おいおい」


 風の玉を両腕で締め上げて絶叫する。何という力技。魔力を帯びた腕で締め上げれば、確かに押さえ込む事はできるだろうが、その腕にはかなりの魔力的負荷がかかる。ピシピシと腕が見えない風の刃で切られて出血するが、力を緩める気配はない。

 そのままギュウギュウと腕を絞り、渦を力で押しつぶしていく。


「うらぁっ」


 最後の気合と共に押さえられた風の玉は、風船の様に弾けて霧散した。それとともにケルンは力尽きて仰向けに倒れていく。


「受けたぞーっ」


 満足気な叫びが夜空に消えていった。

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