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5日目

 5日目の朝。

 夜から朝にかけての見張りを行っていると、ケルンは自分で起きてきた。


「やっぱりもっと体を動かしておきたいな」

「そんなだから脳筋って言われるんだぞ」


 幼年学校の後半、スポーツバカからついには脳みそ筋肉、脳筋と呼ばれる様になっていたケルン。その語源は前世の記憶からぼそりと呟いてしまったのを、近くの生徒が拾ってしまい学校中に広めてしまったのだが、ケルンには秘密にしている。

 まあ、バレたところで気にする奴でもないが、あえて言う機会もなかったしな。


「そんなに褒めるなよ」

「いや、脳筋って褒め言葉じゃないからな!?」

「そうなのか?」


 キョトンとした顔でこちらを見てくる。脳筋という言葉に反応しないなと思っていたら、褒め言葉の一種と理解していたらしい。


「思考が単純で、考えるより先に動き出してしまうとかいう意味だからな」

「即断即決で即応能力に優れるって事だろ?」


 考えもせずに直感で行動するとか、何事も力技で解決するのが脳筋だと思う。臨機応変に対応できるのとは違うんだが、本人がそう考えているなら無理に否定する事もない……のか?


「前もって考えるのは、ユーゴに任せるから。現場の判断は任せろ」

「昨日はあの虫に対応できてなかったけどな」

「不意を突かれただけだ。反応できれば、対応できた」


 一度やられているのに自信満々なのは何故なのだろうか……。

 ただここで押し問答していても、食料は集まらない。朝食を簡素な野菜スープで終わらせて、さっさと食料調達に向かうことにした。




 葉野菜が生えていた草原へとやってきた。ケルンは相変わらず原生林の方でこの惑星の生き物との戦闘を狙っている。昨日の負けで警戒心は高まってるだろうから、油断でやられる事はないだろう。


 草原はというと、花などは咲いていないのて、葉の形からどんな植物かを予想するしかない。とはいえ、この惑星の植物。地球のそれらとどこまで共通点があるかも分からない。

 野草の天ぷらとか個人的にはアリだが、肉食系のケルンには物足りないだろうな。


 ギザギザの葉をした野草を摘む。タンポポの葉みたいだけど、食べられるかな。クローバーみたいなのはどうか、カイワレみたいに見えなくもない。

 根菜の類はないかと根から掘り出してみると、丸っこい人参の様なのがあった。オレンジ色のカブって感じ。硬そうだから、茹でてみてかな。


 土筆つくしかアスパラかという細長く伸びた芽も見つけた。このまま育てば葉が生えてくるんだろうか。成長すると筋張って来そうなので、若芽を摘んでいく。

 こうやって見回してみると、雑多な植物が色々と生えているのが分かるな。


 そしてそれらを食べて回る生物もちらほら見える。俺達が拠点から追い出したネズミ系のものや昨日とは違う種類の虫系。以前この草原で見た鹿系。弓でもあれば仕留められるか?

 いや、魔法を解禁してるんだから、狙撃したら仕留められるか。


 ケルンも狩りをしているはずだが、空間収納に入れておけば食べきれない量になったとしても、邪魔になることはない。

 何より、トカゲやネズミなどよりも、しっかりとした肉だ。ケルンほどではないが、俺も成長期としてタンパク質の補給は大事。

 いや、単に食べたいってだけだな。


 俺は光の術式を起動して、太陽光を集めて照射する。鏡とレンズの合せ技で、少ない魔力で獣を撃ち抜く熱線を生み出す。

 まさに光速で飛来する熱線を鹿系生物は避ける事などできなかった。頭部を撃ち抜かれてドサリと倒れる。それを見て、周囲の鹿系生物は跳ねるように逃げ散っていった。


 俺は仕留めた獲物に近づき、血抜きを行う。水の術式で毛細血管に至るまで血流を操作して、綺麗に血抜きしてやれば、臭みを大幅に抜き去る事ができる。

 抜き取って集めた血はまた料理の材料にも使えるしな。更に魔法を使えば、周囲に臭いが広がり、より危険な肉食獣を呼び寄せるのも防げる。

 この世界に来て一番便利さを感じる部分だな。


 まあこの世界の調理人は、魔導具で一気に仕上げまでやるので、こうした血抜きとかの苦労もかけずに、素材から完成品を錬成するような料理が主流なんだが。

 調理人が想像する完成品を忠実に再現する魔導具は、ある意味究極の調理法なのだが、新たな味の発見には繋がらない。


 それが当たり前の世界では、それが普通なんだろうけど、前世の記憶を持つ俺にとっては味気ない。やはり、組み合わせの妙というか、複雑に混ざり合う事で生まれる味というのは格別なのだ。


「これ一匹でも1週間は食べられそうだな」


 そんなに毎日同じ肉を続ける気もないが、鹿一頭は、2人で食べ切れる量でもない。もう食材調達に出なくても生きられるという保証は、心に余裕を生んでくれるだろう。

 俺は鹿肉を処理した所で、食材の確保に一段落つけた。


「さて、ケルンの方は……と」


 ケルンに付けているマーカーからおおよその位置を掴む。そちらへと視線を向けるが原生林の中まで見通せるはずもない。

 俺はそちらへ向かって移動を開始した。




 原生林に入った所で、空気の変化の様なものを感じた。これは獣などが発する気配ではなさそうだ。即座に魔力感知で周囲を走査する。

 すると魔導具が発動している雰囲気を感じた。

 これは原住民とかではない。帝国の人間が、この惑星に降りている。あまりの高難易度に教員が降りてきたとかならいいのだが、気配を消そうとしている雰囲気から、それはないだろう。


「ケルンに連絡を入れるか」


 通話できる状況か分からないので、ひとまずメールを入れておく。相手側が連絡を取れる状況なら折返しがあるだろう。

 連絡を待つ間に、俺は気配の主を探る。

 数は4人だと思われた。

 魔導具の術式は光と風。光学迷彩を張りつつ、臭いなども出さないように制限しているようだ。原生林を分け入るのに重宝する装備だな。


 距離は500mほど。木々が立ち並んでいるので視認できる距離ではない。魔導具からの魔力を隠蔽する術式を感じないので、俺達に用事があるというよりは、原生林を目的に降りてきた連中という事になりそうだ。


『どうした?』


 ケルンから連絡が入った。


「変な奴らがこの惑星に降りてきたみたいだ」


 俺が感知した内容をケルンへと伝える。


『なるほどな。生物が大きく移動する気配を感じたのはそのせいか。目的とかは?』

「まだ分からない。一定速度で動いているから、生物を探すというよりは、目的地を目指している雰囲気かな」

『で、俺はどうしたらいい?』


 ケルンがこちらに指示を仰ぐ。


「触らぬ神に祟りなし……無理に、接触する必要はないと思う」

『なるほど。じゃあ、離れる方向に移動する』

「ああ、俺もある程度観察したら離れるよ」


 相手の装備はそれなりに高度な術式が使われている。ただ正規の組織であれば、この惑星が課外学習に使われている事が分かるだろうから、わざわざ俺達の近くに着陸する事はないだろう。

 もしくは、緊急事態なら俺達の方に連絡が入るはず。


 この惑星自体は帝国の所有になっているはずだが、管理の甘い辺境の星。秘密裏に着陸しようとすれば、さほど難しくはないかもしれない。

 ただ教員の乗る監視船もあるはずなので、その目をかい潜っての着陸は結構なリスクだ。それを強行してくるとなると、あまり関わり合いにならない方が良い相手と思われた。


「これは上へ報告した方がいい案件か」


 俺は情報端末を使って、監視船へ連絡を入れる。本来はサバイバルが難しくなり、救助を呼ぶための回線だが、不測の事態が起こった際の連絡手段でもある。

 しかし、それが通じなかった。

 ジャミングされている?

 いよいよきな臭くなってきた。

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