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原生林の探索

 ロッドは身長を少し長い程度の棒状の武器で、棒の両端が金属でコーティングされており、主に振り回して遠心力を加えて打撃する武器だ。

 対して槍というのは、片方の先端に刃物の穂先があり、突いたり切ったりする武器。

 同じ様な形状ではあるが、戦い方は結構変わってくる。


 ケルンに合流した俺は、毛玉ウニの外皮で作った槍をケルンに渡した。彼はビュンビュンと風切り音をさせながら振り回して具合を確かめる。


「手に馴染む。流石ユーゴの仕事だ」

「まあ、ロッドの調整とかもしてるからな」


 ロッドも使い込むのであれば、既製品よりも自分なりにアレンジをした方がより使いやすくなる。

 特に幼年学校の間などは、身長がどんどん伸びるので、ロッドの長さや重さを細かく調整する必要が出てくる。ケルンのロッドの調整作業を俺は引き受け、小遣いをもらっていた。

 ケルンは伯爵家の息子なだけあって、周りの子供に比べて裕福な部類。

 たかっても良いかと判断していた。おかげで帝国貨の貯蓄もそれなりに増えている。


 ここ3年くらいは引き受けていたので、どういったバランスが好みかを把握している。グリップの太さや、柄と先端部分の重量バランス、金属部分の長さ、太さ。果てはグリップに巻くバンテージの厚みなど、細かな部分まで合わせていた。


 槍を手にしたケルンの動きは素人とは思えない。突き、切り、払いの流れを、ロッドとは違った軌道で放っている。


「槍の訓練もしていたのか」

「いや、振るのは初めてだ。映像なんかは見たこともあるがな」


 見ただけで再現できるとか、これが天性の才能という奴か。飛び道具が防御結界によって無効化されるこの世界で、最終的にモノを言うのは接近戦での実力。

 ケルンはいずれ武人として名を上げる可能性は高かった。


「よし、何とか使えるだろ。後は実戦あるのみだな」

「即席武器だから、過信はするなよ」

「そこは信頼してるさ」




 原生林の中は、木の根が露出している部分もあり、下草、落ち葉で地面が見えない箇所もある。そこに隠れているキノコや苔などを踏むと思いっきり滑るので、慎重に足を運ぶ。


「そんなにへっぴり腰にならんでも」

「転びたくないんだよ」

「そうやって足元だけに注意を向けてる方が、突発的なアクシデントに対応できずに転ぶぞ」

「そんな事言われても……うぉっ」


 眼の前を何か黒い物がぎった。それに驚いて身を起こすと、バランスを崩してそのまま尻もちをついてしまう。


「わざわざ実践してくれなくていいよ」

「俺じゃねぇ。何か居るぞ」


 ケルンがロッドを構えて周囲を警戒するのが分かる。しかし、俺に近づいてくるまでケルンが気配を察知できなかった。少しケルンの能力を過信しすぎていたか。

 視覚強化を施して周囲を確認すると、高速で飛び回る何かを感じた。


「木から木へと飛び回ってる。そんなに大きくはないが……30cmほどだと思う」

「くそっ、俺には見えねぇ」


 ケルンにも視覚強化を掛けてみた。


「おっ、これか」


 その瞬間、影を捉えたのかその場で飛び上がり、ロッドを振るう。ガツッという音がして、黒い影が木へと叩きつけられた。

 何というか俺が言うのもなんだが、チートスペックなヤツだ。


 そう思いながら俺は木にぶつかった物へと近づいていく。黒光りするそれは、甲虫のようだった。ただ足が8本あり、地球の昆虫とは違う。

 少し離れた所から観察していると、足はまだピクピクと動いている。


「まだ生きてるか」

「そうみたいだな」


 ロッドで殴られた衝撃で一時的に動けなくなっているだけのようだ。早めに止めを刺すべきか。


「折角だし、コイツを使おう」


 ケルンが毛玉ウニの槍を取り出して構える。甲虫はひっくり返り、腹を見せているので刺すのは簡単だ。

 ただ断末魔の叫びをあげられるとは思っていなかった。


 ジイイイイィィィィ!

 刺された腹を震わせて、セミの様な鳴き声を上げる。ただサイズが30cmとセミの何倍もあるため、その声量も半端ない。


「うるせぇっ」


 自分の叫び声すら聞こえない中、光の術式を起動して頭付近を吹き飛ばした。やがて腹の振動が落ち着き、鳴き声が止む。


「カナブンかと思ったらセミだったとは」

「鳴きバッタじゃないのか?」

「何だそれは」


 よくよく考えれば、俺の基礎知識は前世に引っ張られがちだが、ケルンもケルンで育った惑星の知識などがベースなのだ。

 例にする生き物も違ってくる。

 そんなたわいない会話をしていたのは、少し緊張感が緩んでいたのだろう。このうるさい甲虫が何の為に鳴いたのかを考えていなかった。


「ぐほっ」

「なっ」


 いきなりケルンが吹っ飛んだ。続けて俺に迫る影に何とか気づき、ロッドでブロックできたのは偶々だ。

 ただ一匹を防いだところで、危機は脱せない。周囲には無音で飛び交う黒い影が多数確認できたのだ。


「やべっ」


 とっさに土壁を築いて周囲に立てるが、ゴスゴスという音が連続して響いたかと思ったら、簡単に砕かれた。即席とはいえ、俺の魔力で築いた壁を数秒で崩すとは、思った以上の攻撃力だ。

 ケルンは大丈夫か?

 しかし、彼に駆け寄るにも現状を何とかしないと無理だ。


 虫に効く魔法……脳裏のライブラリーを参照している間も、次々に甲虫が体当たりしてくる。動きが直線的なので、見えていれば避けられた。ただ数は多いので、避け続けるのは難しい。

 検索にヒットした術式をすぐさま起動した。


 ボフンと周囲に煙幕が炊かれる。蜂などを駆除する際に煙で燻すのと同じだ。気門へと煙の粒子を送り込み、短時間でも呼吸不全を起こさせる。

 そして煙で視界を奪うことでこちらを捉えにくくさせつつ、ケルンへと駆け寄ると、うずくまっていたが、意識はあった。


「腹を……」

「回復する」


 衝撃を吸収するインナーのおかげか、目立った負傷具合ではないが、治癒術式を掛けておく。


「油断した」

「あの鳴き声は仲間を呼ぶためのものだったみたいだな」

「倒すには数が多すぎるか」

「大人しく逃げるほうがいいと思う」

「分かった」


 煙幕の下を潜るように、姿勢を低くして移動する。後ろへと光の術式で閃光を放ち、最後の目眩ましとしながら逃げ切った。




「いやー、ヤバかったな」

「生態が分からないから、対処しようがなかったね」


 結局、甲虫だったのか、セミだったのか、集団での攻勢は蜂っぽくもあった。ドタバタしたので、最初に仕留めた一匹も置いてきてしまっている。

 トカゲにノミっぽい影、タカアシガニ、ネズミに毛玉ウニ。色々な生き物が生息している惑星だ。


「今日の食材をまだ確保してないぞ」

「野菜は昨日採ったのがまだある」

「肉は?」

「トカゲ肉が少々残ってるな」

「腹一杯食いたいなぁ」

「ま、安全第一だよ」


 まだ2時を過ぎたくらいで日は高いが、1日が20時間の惑星なので直に日が陰ってくるだろう。暗くなるのも問題だが、夜行性の生物の方が凶暴なヤツが、多い印象もある。

 無理をしないのが得策だろう。


「よし、じゃあ手合わせしようぜ。どうにも中途半端だったからさ」

「仕方ないな」


 ロッドでの手合わせを行うことにした。もちろん、俺は身体強化ありでだ。これで動き自体は俺の方が速くなるが、こちらの打ち込みをケルンは的確に弾く。

 鋭く返される一撃を何とか避ける。幼年学校から何度も手合わせしているので、ある程度は決まった動きもある。その中で変化をつけながら、新たな流れを作りながら打ち合う。


 時間にすれば10分程度の手合わせだが、緊張感もあってかなり疲れた。

 夕食はトカゲ肉のスライスを焼いたものと乾パンで簡単に済ませる。明日はちゃんと食材を探していかないとな。

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