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毛玉ウニ

 濃厚な卵黄の様な甘みと旨味が詰まっていて、少しの塩気と苦味。複雑な味わいではあるが、癖もあるし、ケルンは食べられるかね。

 ウニ料理ってあまりイメージは無いんだが、寿司にしろ丼にしろ、米がないと始まらない。

 多分、ペースト状にしてラスクとかに塗ってやれば、それなりに美味しくいただけると思うが、乾パンに塗るのはどうなのか。


 さっき収穫してきた葉野菜と組み合わせて食べてみるのもありかもしれない。野性味の強い苦味のある葉と濃厚クリーミーなウニ風味。

 葉でくるんで少し火を通してやれば、香ばしさも加わってなかなかの一品になった。


「ただ、メインディッシュというには、ボリュームが無いよな」


 という事で毛玉ウニの消化器官をぶつ切りにして、火を通していく。内臓系はしっかりと火を通さないと怖いからな。直火とりも遠赤外線で中までじっくりと焼き上げる感じで。

 脂肪分が多いのか、脂もしっかり出るので旨味は凝縮される。ただ歯ざわりがクニクニしてるので、慣れないと厳しいかもしれない。

 細かく隠し包丁を入れて噛み切り易くしておく。後はじっくり焼き上げ、味付けは塩のみ。


 味噌系統が合うんだろうけど、流石に持ってきてないしな。豆があれば錬成で作れなくもないが、発酵食品は魔法で作ると深みが出ないんだよな。なので宿舎には漬け置きの味噌樽が置いてあったりする。


 無いものは仕方ないので、塩のみだ。それをサンチュの様な葉野菜で包んで、ウニの葉巻きと並べてみる。


「今日のはそれぞれ癖のある一品だから、口に合わないと思ったら言ってくれ。トカゲ肉ならまだあるから、そっちを焼くよ」

「ふむ、何事も挑戦だからなっ」


 そう言いながら好奇心一杯の顔でウニ包みに齧りつく。葉の間からこぼれ落ちるウニの風味に、しばし黙って咀嚼を続ける。


「うむ、確かに不思議な味だな。だけど嫌いじゃないぞ。うん」


 口内に広がる味をゆっくりと堪能してケルンが頷く。貴族の割に好き嫌いのない奴だ。ケルンにとっては珍しさが最高の調味料なのかもしれない。

 続けて消化器官の葉包みを口に入れる。葉の間から脂の旨味が広がり、分かりやすく笑みが溢れる。

 ウニよりはこっちがケルンに合っていたようだ。


「噛み切れん」

「無理そうなら出してもいいぞ」

「それは勿体ない」


 といってゴクリと呑み込む。


「ふむ、喉越しも悪くない。噛む度に旨味が染み出てくるのもいいし、塊を呑み込む時に満足感があるな」

「あんまり丸呑みすると消化に悪いからな。しっかりと噛めよ」

「おう」


 それからもケルンはホルモンの方をせっせと食べていた。




 食後は拾ってきた枝と蔦で弓を作ってみることにした。木の弾性を利用して矢を飛ばせるように、蔦の弦を張る。

 弦を引くと木がしなって程よい硬さに仕上がった。矢の方は細い枝を削って、矢じりは石。羽根は原生林の中で拾った物を使ってみた。

 見様見真似での作成だが、思ったよりもしっかりとできたんじやなかろうか。


 早速、拠点の外で試射をしてみる。ギリギリと弓を引き絞り、矢を放つ。


「痛っ」


 離した弦が弓を持っていた左手に当たる。そして矢は鋭く落ちて地面に突き立った。飛距離3mだ。しかも石の矢じりは地面との激突で割れ飛んでしまっていた。


「だよなぁ。弓ってちゃんと修練積まないとまともに使えないぞ」

「なっ、お前、知ってて黙ってたのかよ」

「いやぁ、お前なら何とかしちまうのかと思っただけだぞ。弓矢が使えたら便利だしな」

「くそ、どうやったらちゃんと飛ぶように作れるんだ……」


 左手に弦が当たったのは、弓の曲がりが足りてなかったというのは分かる。矢がすぐに落ちたのは、羽根のせいなのだろう。風を切る抵抗が違って、矢の下側にブレーキが掛かって下を向いたはず。

 もっと慎重に羽根をつけていく必要があるな。


 そして砕けた矢じり。そこらへんの石を拾って加工しただけだと、強度が足りなかったようだ。よく聞くのは黒曜石か。何か割ったら鋭く尖るってそれなりに硬いとか聞いた覚えがある。

 情報端末で調べてみると火山岩の一種らしい。この辺りにはなさそうだ。その他はやっぱり鉄なんかみたいだが、鉱石を探すところからとなると一朝一夕でできる物じゃなさそうだ。


「飛び道具があると便利かと思ったけど、簡単じゃないな」

「簡単な道具となると、槍とかがいいな。ある程度の長さがあって、投げられもする」

「槍か」


 木の枝は原生林に入ればあるが、やはり穂先になる様な物が無いとイマイチな気がする。ナイフをくくりつけるという手はあるが、失うと今後の生活に響くしな。

 投げることを前提に考えたら竹槍みたいな切ったそのままを使える様なのが良いか。


「ん?」


 そういえば、最近ものすごく硬い物があったな。アレを加工すれば鋭い穂先を作れるんじゃないだろうか。しかもそれなりの量があるし、使い捨ててももったいなくはない。

 明日拾いに行こう。




「という事で、今日は入り口を閉めて寝ようかと思う」

「確かに夜中の半分を起きてるのは辛いよな」


 昨日、風の術式を一晩動かしてみて、寝ている間もちゃんと維持されている事を確認したので、拠点の入り口を土壁で塞いで眠る事にした。


「ま、何か来るようなら目も覚めるさ」

「しっかり寝て欲しいが、期待もしてる」


 ケルンの気配察知は頼もしい。授業中に居眠りしていても、教師の視線を感じて目を覚ませるくらいに敏感なのだ。

 当時は無駄能力と思っていたが、こうしたサバイバル状況では俄然いきてくる。


「じゃあ、寝よう。流石に眠い」

「おう、おやすみ」


 緊張状態で3日間、交互に見張りをしながらの睡眠しかとれていなかった俺達は、すぐに熟睡した。




 情報端末のアラームで目が覚める。時間通りの起床で、意識もかなりスッキリした。ケルンは既に起きているらしく、テントの寝袋にその姿はなかった。

 テントを出ると、そこで腕立てをするケルンの姿がある。


「おはよう」

「おう、やっぱり眠れるって凄いことなんだな」

「まあ、サバイバル状況で安心して眠れるのは貴重だな」

「今日はどうするんだ?」

「僕は投げ槍を作ってみようかと思ってる」

「俺はまた狩りでいいのか?」

「ああ、周辺の地図を埋めていきたい」


 情報端末に移動した範囲が記録されるので、オートマッピングしている様な状態だ。この岩山を中心に、どんな物があるか、どんな獣がいるかをしっかりと把握していきたい。


「了解。でもその前に朝飯な」

「ああ、わかってる」


 昨日採ってきた葉野菜を煮込んだスープだ。毛玉ウニの身を溶いて風味を足してある。




 ケルンを見送り、俺は毛玉ウニの残骸が残る場所へと移動する。昨日の今日では当然消える事はない。夜の間に獣がどうにかする可能性もないではなかったが、食べられる中身は拠点へ持って帰ったので、残っているのは毛と殻だけ。それは夜行性の獣もいらなかったらしい。


 なので俺は早速、毛玉ウニの殻を調べていく。やはりかなりの硬さを持っている。その上、ある程度の弾性もあり、多少曲げても割れる様な事はなかった。

 まあ、勢いよく転がるこいつが、多少曲がったくらいで砕ける殻なら、長生きはできないだろう。


 とにかく、十分な強度を持つこの殻を使って、槍の穂先を作る事にした。ナイフでも傷つける事は難しいので、昨日と同じくウォーターカッターで切り出し、先端を鋭く削っていく。

 近くの木に投げてみたが、見事に突き刺さってくれた。

 これなら武器としても十分に使えるだろう。


 後は枝などから槍の柄を作り、先端にウニ殻の穂先をくくりつけて、投げ槍の完成だ。まあ正確に飛ばそうとするなら、もっとバランスに注意する必要はあるだろうが、2、30mくらいなら多少歪んでいたとしても当てられるだろう。


「後はケルンにチェックしてもらうかな」

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