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3日目の食材集め

 3日目の朝を迎える。見張り番だった俺は、ケルンを起こす。彼は寝起きが良く、俺がテントを覗き込み、声をかけるとパチっと目を開け、挨拶を返してきた。


「狩猟の朝だ! イメトレは夢で完璧だ」

「どんな生き物がいるかすら分からんのに、イメトレできるとは凄いな」

「おう、任せとけ」


 適当に流しつつ朝飯。昨日使った野ネズミの骨で出汁をとったスープだ。具材は芋と残りの肉。やはり野菜不足が気になってくる。

 野菜は林というより、開けた草原などに生えているのだろう。陽の光が生育に大事なはずだ。木に蔦を絡める山芋系は林の中でも見かけるんだがな。あとキノコ類か。


 キノコは色々と怖い。魔法で毒素を治癒できるとはいえ、マジックマッシュルームみたいは幻覚作用とかもあれば、時間を掛けて蝕む様な奴もある。

 ファンタジー小説で出てくるような、人に寄生して宿主を動かす的なキノコも、この広い宇宙ではいてもおかしくはない……かも知れない。

 寄生系はある程度育たないと発覚しづらく、それを単純に除去すると、色々な箇所に影響を及ぼす可能性も出てくる。

 治癒魔法が万能といっても、どこまで修復されるか分からないしな。そもそも生物の除去が、治癒に入るかも不明か。

 とりあえず、キノコ類に関してはこのサバイバル学習では手を出さないように気をつけている。


「じゃあ、俺が獣を探すから、お前は野菜を探すって事だな」

「あまり別れるのは得策じゃないんだがな」

「時間は限られているんだし、仕方ない」


 ケルンは肩を竦めて首を振ると、一転やる気に満ちた顔でロッドを振り回しながら拠点を出ていった。

 無茶をしないか不安だったが、時間が限られているのも事実。魔法を解禁し、術式でマーカーを付けておいたから、探そうと思えばいつでも見つけられるようにしておいた。

 何事もなければ、情報端末で通話もできる。


「なら俺も俺のやるべき事を済まそう」


 原生林の中へと踏み入れるケルンと別れ、俺は日当たりの良い岩山周辺を歩くことにした。

 岩自体に苔などが生え、そこを土代わりに草木が生えている場所もあった。水源は豊富にあるらしい。

 水の魔力の流れを確認すれば、植物の群生地も発見は容易だ。


 岩山を回り込んでいくと、草原が広がっていた。その中には草食らしい動物も見かける。鹿系統だろうか。角を生やした脚の細い獣が、こちらに気づいて顔を上げている。

 俺はそれを気にせず草原へと足を踏み入れた。膝丈くらいの草が広がっている。細長い葉は、イネ科っぽい、エノコログサだろうか。まあ、厳密に言えばこの惑星で生まれたナニカなのだろうけど。


 菜の花系の植物があれば、色々と食べれそうなんだけど。キャベツや大根も菜の花系の植物だったはず。

 ただ黄色い花が咲いてないと分かりにくいな。葉っぱもそれっぽいのはあるが、キャベツみたいに進化したのは見かけない。

 この広い葉だけを刈っておくかな。湯通しして食べてみよう。


 他にもよもぎっぽいのや、せりっぽいのも集めておく。原生種なので苦味が強いだろうけど、ビタミンも補給しないと免疫力が落ちたりして、体力を失う恐れもある。

 果実系が見当たらないので、甘味を作るのは難しいだろう。肉の味で誤魔化しつつ、野菜を食べさせていかないとな。


 前世で管理栄養士の資格も取らされたので、食のバランス感覚というのはかなり鍛えられている。問題は地球以外の食べ物だという事だが。ただ食用の植物となれば、ある程度類推できる。色や形が違っていても、風味や生育環境からどの系統の植物として使えるかが分かってくるものだ。


「本当は栄養価を調べて適した食材を組み合わせるのがいいんだけど」


 この世界では栄養素という概念もあまりない。体調不良は魔法で直す世界。偏った食生活を送っていたとしても、サプリメントで補う感覚で魔法でバランスをとれてしまう。

 肥満などで引き起こされる成人病の類も魔法で治ってしまうものだから、偏食に走る者も少なくないのだ。


 その結果、香辛料の効いた肉料理などがもてはやされ、和食の様な素材の味を活かした料理などは発達していない。そのために味覚も鍛えられていないので、ジャンキーな味で満足してしまうのだ。

 前世の記憶のある俺としては、その方が物足りないのだが、貴族などは豊かな食事イコール香辛料ドバドバなので、社交界などに引っ張り出された時は食べる物に苦労した。


 一方でケルンは俺と食事する機会が多かった分、俺の好みをそのまま受け入れているようだ。幼年学校の頃、食堂での食事に馴染めなかった俺が自分で持ち込んだ弁当のおかずを横から奪っていくので、仕方なくケルンの分も用意する様になっていた。


『家の食事が大雑把なのが良く分かった』


 ざっくり言ってしまえば、カレー粉を掛けると全てがカレー味……みたいな食文化なのだ。中毒性もあり、インドなどでは当たり前なのだが、日本人としてはそれだけだと飽きる。


 などと取り留めのない事を思い出しながら、食材を採取し、数日分の量を確保できたのでケルンへと連絡を入れる。


『おう、こっちもでかいの仕留めた。運ぶのが大変だから、こっち来てくれ』


 どうやらケルンも食材を確保したそうだ。マーカーの位置を頼りにそちらへと向かう。




 ケルンの背後には毛むくじゃらの塊が鎮座していた。焦げ茶色の塊は、どこが頭で、どこが胴体かも判別できない。


「何を狩ったんだ?」

「わかんねぇ。転がって来たのを打ち返しているうちに動きが止まった」


 毛玉状態で転がりながら攻撃してくる獣だったらしい。表面を撫でるとその毛はかなり硬く、ハリネズミほどではないが、柔らかい肌などには刺さりそうな毛だ。

 どこが頭かと手を入れてみるが、毛の根元を探っていっても継ぎ目が分からない。アルマジロやハリネズミの様に丸まっているのかと思ったが、そうではないらしい。


「もうこのまま割いてみるか」


 体の継ぎ目が剛毛で分かりにくい状態なので、ナイフを差し入れてみる事にする。すると表皮もかなり硬い。これを刃物で倒そうとすると、かなりの切れ味を必要としただろう。

 ケルンの武器がロッドで、衝撃が中に伝わった為に倒せたらしい。それでも毛でかなり軽減されていたはずだけど。何回打ち返していたのやら。


「結構、面白かったぞ。途中からまっすぐ転がってくるだけじゃなく、跳ねたり曲がったりしながら襲って来たから」


 直径2mは有りそうな毛の玉を、ロッドで打ち返すにはかなりの膂力を必要としたはずだ。真芯で捉えたとしても、軌道を逸らすだけで手が痺れる事だろう。


 そして解体に差し込んだナイフが一向に進まない。辺りの毛を先に刈り、裸の表皮へと勢いよく叩きつけたが、全く刺さろうとしない。


「もういいや」


 痺れた手を振りながら、俺は少し距離を取る。水の術式を起動して、ウォーターカッターを使用する。薄く細く絞った水流を、かなりの速度で発射した。魔法に必要な魔力は動かす物の量と速度に比例するらしい。

 重いものを速く動かすには莫大な魔力を必要とするので、運動エネルギーの法則が働いているのかもしれない。


 なので極力薄く絞る事で、魔力消費を押さえつつ、速度を増してやれば、大抵の物は切断できる。まあ、防御術式で魔力自体に干渉されると一気に弱体化するので、対人では使えないが。


 そうしてこじ開けてみると、中身はあまりなかった。中央部分に腱で支えられた部分が直径30cmほどの塊。その周囲には浮袋的な緩衝材などで埋まっているので、殆どが空気だ。

 核となる30cmの塊は、内臓っぽいか。表面は筋繊維で覆われていて弾力がある。ナイフで裂いてみると、内側にヒダがあってどうやら消化器官のようだ。その構造から俺は、一つの生き物を連想した。


 となると身は……と、浮袋をかき分けていくと、オレンジの塊が幾つか転がっていた。いきなり食すには勇気がいるが、ナイフの先端で削り取り、口に運ぶ。

 直ぐに治療できるように、脳裏には術式を展開していたが、俺の味覚は懐かしい味を伝えてきた。


「磯臭くないけどウニだな」

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