予定外の展開
気絶魔法は掛かれば十分は意識を奪うことのできる魔法だった。魔法で治療すれば意識が戻るが、多人数を回復させるのは容易ではない。
治療用魔道具を持ってきてはいるだろうが、下っ端の回復の為に魔力を消費する事はないだろうと読んでいた。
しかし、倒れていた下っ端が起き上がり始める。
魔法の効きが甘かったのか?
魔力の精査術式を走らせてみると、俺の気絶魔法の後に、更に術式が起動した残滓が残っていた。
気付か覚醒の魔法を使ったみたいだ。気絶魔法で使用した魔力タンクの残りを有効利用されたのだろう。
つまり、相手にも魔術師がいる可能性が高い。
エンザを倒した俺の存在を見越して、魔術師まで準備していたのか。この5日という時間は、相手にもプラスに作用したようだ。
「まずいな……」
魔力量を考えれば、普通の魔術師に負けるとは思っていないが、俺が魔術師に手を取られると、他をフォローする事ができなくなる。
ゲニスケフの武力で状況を打開する方針だったが、ベルゴの下っ端が復活した事で足止めを食らう羽目になっていた。
中層兵に対処するために、魔力は使わず腕力だけで下っ端を蹴散らす必要がある。その辺の事を情報屋に伝えながら、俺は相手の魔術師を探し始めた。
砂色のマントを羽織り、戦場の端を走って相手陣の裏へと回り込む。ベルゴの下っ端を押し出した後、中層の装備をした30人ほどが戦況を見守っていた。
その後ろにはスチュアートをはじめとしたベルゴの上役が集まっている。こちらの手を打破した様子から、上役達は上機嫌だ。
その中で1人静かに戦況を見守っているのが、多分魔術師だろう。魔力感知で調べれば、防御用の魔法を張っているのが分かる。
少し魔力を練って防御結界を張り直してみると、そいつの顔がこちらを向く。黒いフードに白い仮面で顔を隠していた。小柄な体躯は、女だろうか。
スッとこちらに向けて駆け出した。その動きは戦うもののそれ。上半身のブレが少なく、こちらが攻撃したら即座に対応できるような走り方をしている。
右手には単筒を持っていて、そこから魔力を感じる。銃というよりは、術式の補助具なのだろう。魔法の気配が、単筒より発射される。
俺は先ほど張った防御結界でその一撃を受け止めた。互いの力量差を計るには、シンプルな魔術で打ち消し合いをするのが分かりやすい。
「まあ、本当にヤバそうならそんな試し方はしないけど」
魔力の動きから、そこまでの威力はないと判断したからの芸当だ。案の定、防御結界は破られることなく健在だ。
彼我の距離が20mほどになった所で、相手は立ち止まり空中に何かを投げる。魔力を少し吸われる感覚から、魔道具の一種だと分かった。
相手は再度、単筒を構えて魔術を発射。それに合わせてさっき投げた魔道具が反応し、共鳴を見せる。威力増幅系の魔道具だろう。
まだ魔力量的に俺を脅かすレベルの攻撃ではないが、あまり平然と受けても警戒心を強めるだけ。
ここはちゃんと防御して見せよう。
さっきの相手の攻撃は風の術式だった。衝撃波で昏倒を狙ったか、相手も様子見だったか。火の術式は防御結界の基本なので、最も研究が進んでいるので、他の属性を使ったのだろう。
俺の防御結界は、一応全属性対応なので、風魔法でも問題はない。
「ライトシールド」
術式の発動には言葉を発する必要はないが、起動時にワードを言うと周囲の魔力で強化される。大気に漂う魔力が言葉を聞いてくれるらしい。
空中に浮かんだ光る盾が、相手の術式を受け止める。今度も風系の攻撃だが、真空の刃を使った斬撃系だったらしい。
ライト系はそのまま光属性の魔法で、太陽光があると消費魔力を抑えられるので屋外で使い勝手がいい。
「!!」
魔力の気配を感じるままに、背後に飛び退くと地面から鋭く尖った角みたいなのが生えてきた。土槍だな、気づけば相手は地面に向けて単筒を構えていた。
この世界の魔法はもう呪文詠唱を必要としない次元に達しているので、魔術師同士の戦いは無言で術式を起動し合う傍目に分かりにくい戦いになりがちだ。
それでも対戦している相手には、魔力の動きなんかで何をしてくるかが分かる。それに即応できるかが、勝敗を分けるのだ。
この相手は補助具を使っている分、発動まで魔力の種類が分かりにくいのが難点だった。ただ今までの攻撃で分かった事もある。
開拓船に蓄えられた魔力もそうだったが、砂漠の近くでは、風と土の魔力が強い。それを利用して攻撃してきている。使い方もシンプルな術式な事を考えれば、個人の魔力量も術式の技量もそこまで高くはなさそうだ。
「ということで、こっちのターン」
「!?」
砂漠の近くは風で砂が舞いがちなので、大気中に風や土の魔力が強い。そして、光も遮られがちではある。
それでも乾燥した空気の中は、水の術式などに比べれば光はかなり扱いやすい。俺は光の術式でレーザーを発射。相手の防御結界へと叩きつける。
レーザーの特徴は、一点に集中することで威力が増していく事だ。防御結界に光の魔力が蓄えられていき、結界の術式に干渉。穴をこじ開けていく。
ただ光の特性として、鏡に弱い。攻撃が光と分かれば、鏡を用意して反射させる事ができた。相手は土魔法で鏡を作り出し、攻撃を逸らした。
が、その間に俺は光の屈折を利用した光学迷彩を使って、姿を見えなくさせていた。
標的を見失った相手に対して、こちらは近づいていく。光学迷彩の弱点は、正面に対しては透明を維持しやすいが、横から見ると歪みがバレやすい点だ。
今回は魔術師が1人なので、やりやすかった。
相手の補助具に手を添えて動かす。その瞬間、光学迷彩は解けて、相手の至近に姿を現した。何らかの術式を準備していたのだろうが、魔力が拡散したのを感じる。
単筒の軌道を逸らし、懐に飛び込んだ事で相手は無防備だ。この距離なら防御結界の内側、しかも物理攻撃を避ける手段はない。
「ぐふっ」
鳩尾に拳を打ち込み、相手の息を奪う。握力の緩んだ手から、補助具を弾き飛ばして、更に足を刈ってマウントポジションへと移行。
仮面を剥ぎ取るとそこには美少女……ではなく、しわくちゃの老人の顔があった。
「き、貴様っ、何者だっ」
「うう〜ん、ここで女の子と対面してロマンスが始まるとかじゃないのか」
「何を言っとる!?」
軽やかな動きは身体強化のおかげだろうな。小柄で細身なのは、御老体だからか。一応、女性ではあるらしい。
「ひとまず、無力化させてもらうね」
対魔術師用の首輪をはめる。魔力を遮断して術式を起動できなくする魔道具だ。特定の鍵でないと、かなりの時間をかけて解析しないことには外せない代物だ。この星の技術力なら年単位かかるかもしれない。
そこへ銃による攻撃魔法が飛んてきた。中層の兵とベルゴの上役達だ。それらは防御結界で止められている。
「魔術師相手に銃とか、戦い方を分かってないね」
「ふん、辺境の星の兵士が魔術師と戦う機会なぞ、早々ないわ」
「ということは、お婆さんはこの星の人じゃないんだ」
「まあのぅ。もう現役は退いておったが、年金の足しになるかと出向いて来たのが運の尽きじゃな」
この世界の魔術師は、かなり貴重な存在だ。魔道具で戦う事が主流になり、個人の魔力よりも魔力タンクを利用して戦えば威力も出せるので、兵士としての魔術師は必要とされないためだ。
あえて複雑な術式を使用する魔術師は、戦闘職というより、研究員が多い。
それでも魔力タンクを持てば、魔道具で戦う者より威力を出せるし、攻撃の手段も多様なので強いことも確かではある。
そんな人でも退役すると年金を気にしながら生活しなきゃならないとは、世知辛い世の中であった。




