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自給自足の生活へ

 墜落した星は希少金属を産出する鉱山の星。主要な都市は数えるほどしかなく、採掘場近辺に簡易の宿舎が建てられる程度。総人口は五千万くらいだろうか。

 その9割は都市部で生活しており、採掘場の他、宇宙や新たな採掘ポイントの探索に出ているかという感じ。

 共和国製の情報端末でも、周波数さえ合わせればそのまま使えるのはありがたかった。


 落下した地点は砂漠地帯の真ん中で、周囲に都市はなく、採掘場も廃棄された場所がある程度。墜落の様子も観測した人がいるか微妙なラインなので、今は考えない事にする。

 落下した痕跡は墜落した地点と、そこから転がった跡が残っているが、周囲の砂が舞えば粗方隠れてくれるだろう。


 生活面では、最後に変化させたウニ形態が、朝露を集めるサボテンのトゲの様な役割を果たしてくれるようで、ある程度の水を確保できている。

 それに個人の魔力から水生成を行えば、生きていく分には問題ない。


 食料としては保存食が幾つか残ってはいるが、現地採取も必要だろう。ただ砂漠に生息するのは、トカゲやサソリといった肉食系の生き物がほとんど。

 サボテン類もほとんど生えていない。

 砂よけの結界を張って土壌を用意し、栽培を始めないといけないだろう。


「基本セットはあったけど、これで何とかなるのか?」

「ある程度の魔力を提供いただければ、私の方で管理できます」


 アイネが受け持ってくれるので、丸投げすることにした。

 ちなみに俺の魔力量は、平均的な人よりはそれなりに多い。マッドな研究とはいえ、辺境で研究所を構えられる二人の魔導士の血を受け継いだ俺の素体は、一般人より優秀な遺伝子を持っていた。


 そこに霊の憑依で赤子の頃から訓練を開始できたアドバンテージもあって、エリート教育を受けた人々ほどには優秀なのだ。

 ただ他の魔法のある世界から転生してきた子供達にはかなり劣っていたのだが。


「彼らは無事に逃げられたかなぁ」


 元英雄や亡国の姫とか言ってたから、庶民の俺なんかよりも有事への適応力は高いだろうから、そんなに心配はしていないけど。

 俺は俺で何とか生き延びて、再会できる日を楽しみにしておこう。


 食材の調達については、近くの採掘場跡も候補の一つだ。もう使われていないとはいえ、人が住んでいた場所。ある程度は建物も残っているだろうし、防砂設備などもあるかもしれない。

 そこに畑などが作れたら、収穫量が上がるだろう。

 水場などもあるといいなぁとか考えている。魔法で水を生み出せるといっても、魔力とて無限ではない。他の用途に使いたい面もある。

 なので井戸などがあったら、栽培に流用したいところだ。


「近い内に確認しないとな」




「という感じでございます」

「寝泊まりする部屋としての機能は問題なさそうだな」


 個人部屋の諸々の機能を確認してくれてアイネに礼を言いながら、今後の方針について確認していく。


「この惑星の都市部へはしばらく行かない。ここが帝国領である以上、共和国出身とバレると面倒そうだ」


 辺境惑星というのはある種の情報制限や偏向教育が行われている可能性がある。共和制そのものをディスって、絶対的存在である皇帝に治めてもらっている自分達は幸せ者だと。

 他星系とのやり取りが鉱石を搬出する一部の人間に限られていて、星での生活自体に破綻がなければ、帝国領の他の地域はもちろん、他国の事など知ろうとは思わないだろう。


 そして、上からの指示で共和国人は悪と刷り込まれていたら、バレた時にどうなるかは自明。君子危うきに近寄らず。都市部へはしばらく向かわない。


 なので自給自足の生活を目指す。

 そのためには脱出艇近辺を畑にして、野菜類の栽培。あとは動物性タンパクとしてトカゲなんかを狩る……か?

 この世界の魔法科学によって、トカゲをそのまま食べる必要はない。錬金術を使って、トカゲを生贄にニワトリを召喚してやればいい。

 ただ砂漠に住むトカゲというのは、さほど大きくはないので、ニワトリを呼び出すにはそれなりの数は必要だろうけど。


「その辺りはお任せください」

「うん、正直分からないから任せる。食材が揃ってきたら、俺が料理をするよ」

「それこそメイドたる私の役目だと思うのですが?」

「半分趣味みたいなものだから、娯楽として料理したいんだよ」


 俺は前世で食料品関係の仕事をしていた。その根本は、それなりに料理好きだったのもある。外食も好きだが、自炊も毎日でなければ悪いものじゃない程度にはこなせた。

 まだ5歳児で、研究所に居るときは黙ってても食事が出てきたので料理をする機会はなかった。丸5年もやれてないというのは、そろそろ寂しい気分だったのだ。


「承知しました。なるべく早く食材を揃えます」

「その堅苦しい口調も必要ないよ。もっと砕けて話してくれて」

「すみません、話し方については生まれつきですので、変更が難しいのです」


 額の結晶によりインストールされた人格のためか、色々と制約はあるらしい。無理だと言うなら仕方ないな。


「その他の衣類とか生活用品、日用品については、素材を集めて生産していく感じだな」

「そうですね」


 個人部屋に設置された魔法で動く道具には、そうした生産系の物も設置されていた。元々の研究所でも、衣類などはそうやって自作でまかなっていたのだ。

 この辺、前世の記憶がある子供達がそれぞれの文化に合わせて過ごせるように配慮した……というよりは、面倒だから勝手にしろという形だろうが、俺にとってはありがたかった。


「簡単そうなのは食器類か。砂からガラスを錬成して、食器にするのはさほど難しくない」


 墜落の衝撃でほとんど駄目になってる食器類から生産作業に入ることにした。




 そんな感じで脱出艇を中心にした自給自足生活が始まる。やはり電力を使わず、人の持つ魔力で色々とできる魔法科学というのは便利だ。

 アイネはそれほどの魔力を持たないので、魔法で動く機器を使う程度なら問題ないが、生産系の機械となると厳しいらしい。その辺は俺が魔力を注いで起動させ、アイネが操作して行うなどで補う。


 風の結界で防砂処理をして、水魔法で栽培する野菜類も問題ない。動物についてもアイネが捕獲したトカゲなどから、ニワトリなどを召喚し、卵や肉類を使えるようになっていった。


 近くの元採掘場の調査も順当に行え、そこにある施設を少し手直しして、より畑の範囲を広げたり、防衛設備の強化も行えた。

 そして何より、帝国製の情報端末など、今後のカモフラージュに必要な機器類も回収できたので、ある程度成長したら都市部へも行けそうな下準備を進めている。


 またこの星の経済状況や文明レベル、治安レベルなども情報端末頼りだがそれなりに集まってきていた。

 何だかんだで研究所の設備、技術というのは共和国の最先端だったらしく、この星の様々な機器は、やや劣るスペックとなっていた。

 なのでその辺の改良技術を駆使すれば、廃材から売れるものを作ったりしながら、生計を立てる事もできるだろう。


「ここにきて知識チートができようとは」

「博士達はああ見えて凄い人達です」


 人を人と思わないような、倫理観が欠如していただけだな。その分、敵も増えるし、狙われやすかったのかもしれないが。


 こうして成長に合わせて技術を蓄え、いよいよ旅立ちを迎えようとしていた。

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