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中層の介入

 情報屋に攻撃があった事と、他の狙撃手は逃げた事を伝える。俺をゲニスケフと思って攻撃してきたのは確かだろうが、魔法を使った事で違うと判断されただろう。


 情報端末で連絡を入れると、既にエンザが現場に現れて、ゲニスケフとの戦闘に入ったとの報告があった。

 第一段階としては成功だろう。

 ゲニスケフが負けるとは思えないが、狙撃してくる奴もいるくらいだから、エンザだけを相手にできる訳でもない。

 とにかくエンザを逃さずに仕留められるかが勝負だろう。


 俺の方はどう動くか。できればトラックとか移動手段を確保できるのが今後を考えると嬉しいんだが、魔力を追っていくなんて犬みたいは真似はできない。

 探知機みたいなのがあれば追跡もできたんだが、あの時にそこまで考えてなかったからな。


 ただトラックが通れる道というのも限られてはいる。大きめの道をたどれば、いずれはぶつかる気はした。

 ゲニスケフに扮する必要もなくなったので、魔力の偽装と幻影を解除。下町の雰囲気から、ベルゴとスタルクの大規模な戦闘が始まったのは感じられるので、ベルゴの下っ端の動きから手薄になってそうな箇所を狙って動いていく。




「やっぱり、中層とは繋がってるか」


 ベルゴの下っ端がたむろしていたであろう拠点の一つに侵入した俺は、キレイに梱包された食料品を見つける。下町の食料と違って、工場で生産された物だ。

 倉庫に山積みにされた段ボールを見れば、ゴミ捨て場から拾ってきた物では無いことは一目瞭然。下層支配の為の援助品って事だろう。


 味は携帯保存食って感じで、カロリーの友達の様な物がほとんどだな。主食というよりは、補助食品。あとはスープ缶みたいなのも転がってるか。

 毎日食べるもんでもなさそうだが、テーブルには食いかけも転がっている。恐らく食べてるうちに、メインストリートに出張ったスタルク勢に対抗するため集められたんだろう。


 通信機器は個人の情報端末を使っているのか残っていない。他にメモみたいなのもないな。この辺の奴らの役割は、下町の巡回ってところか。問題があれば、招集される下っ端。

 みかじめ料として色々な現物は集めているらしく、野菜やら服なんかが倉庫の一画に積まれていた。

 下町には流通通貨がないから、基本物々交換なんだよね。


「こんな末端じゃあ、全体規模とか分からんなぁ」


 特に持ち帰れるものもなかったので、拠点を後にする。




「すまん、坊主。エンザは仕留めたが、ヤバいのが出てきた。中層の警備兵みたいな武装してやがる」

「やっぱりか。早々に撤退してよ」

「おう、坊主も気を付けてな」


 武の要だったであろうエンザが俺に敗れたことで、エンザが倒された時の準備もしていたって事だろう。

 スタルクにはもう中層がバックにいると隠す必要もなくなったっていう判断か。ここらで中層を狙う奴らを一掃しときたいというのもあるかもしれない。


「逆に考えれば、ベルゴを倒せば中層も攻略できるって事なんだが……戦力差がなぁ」


 俺はバラック小屋に隠された通路を通り、試掘調査跡の拠点へと戻った。




「こりゃもう軍隊だね」


 情報端末によって撮影された武装した一団の様子を見て呟く。格好こそ下町に合わせたボロっちい服装だが、持っているのはアサルトライフルの様な連射式の魔術具。

 防御結界もない下町のチンピラを蹴散らすには過ぎた装備だ。

 その上で、動きにも隙がない。互いにカバーポジションを取り合って、クリアリングしながら着実に前進していた。


 先日与えた銃で反撃を試みた奴もいたが、相手の防御結界に弾かれている。


「ゲニスケフさんは?」

「本人はピンピンしてるが、ベルゴの背後に中層の連中が居ると分かって荒れてるぜ」


 いよいよベルゴと決着をつけられるかって所に、巨大なバックがついてるとなれば荒れもするか。


「しかし、中層の軍隊が出張ってくるって事は、ベルゴの幹部クラスは飾りなのかな?」

「どうですかねぇ。俺達としてはあくまでベルゴとやりあってたつもりなんですが。後ろがあるなんて思いもしなかったぜ」


 やはりこの情報屋の情報はザルである。穴が多すぎて、実用に向かない。コミュ力が高いのは認めるところなので、交渉人ネゴシエーターの職があれば重宝されたかもな。


「おう、ユーゴ。どうなってんだ、こりゃあ」

「それはこっちのセリフなんだけど。そっちの情報屋が情報に疎いのが問題なんだと」

「仕方ねぇでしょう。こっちは細々と人伝に情報集めるしかねぇんで。偵察兵とか雇ってくれるなら歓迎ですぜ」


 情報屋のおっさんは、やっぱりおっさん体型で、潜入とかは向いてなさそうだもんな。侵入工作できる要員を用意できてないのが問題だ。


「偵察兵なんざどこにいんだよ。それこそ中層の手の者くらいしかいねぇだろうがよ」

「いないなら育てるべきだね。何年反抗勢力やってきてたんです?」

「そんな余裕はなかったんでさぁ」


 あまりにも行き当たりばったりな運営方針に頭を抱えつつ、今更どうしようもないと割り切るしかない。


「被害はどんなもんです?」

「負傷者はそれなりだな。ボスが殿しんがりで粘ってくれたんで、何とか逃げ切れましたよ」


 魔力を身体強化に使えるゲニスケフは、銃に対してもある程度の耐性を持てる。それはこの前の戦闘後に伝えていた。

 とはいえボスであるゲニスケフが殿を務めるというのは組織としてどうなんだとも思うけど。


「で、戦闘できそうなのは?」

「ざっと30人ってとこですかねぇ」

「思ったより少ないな。相手の軍装備持ってるヤツだけでもそれくらいいるんじゃ」

「何、ザコばかりだ。蹴散らしゃいい」

「いや、相手に軍の装備があるなら、銃より大きな武器もありえる。武術家でもバズーカクラスの攻撃を受ければ耐えられないよ」

「そんなもん、気合で耐えられる!」


 いや、無理だから。それにゲニスケフ以外の人間がついていけないとなれば、どうしたって手が足りない。


「とりあえず、銃に対抗するための防御結界の魔道具を準備していかないとね」


 相手が下町のチンピラであれば、銃を持つだけで有利になれたが、中層の軍相手だと防御結界で止められる。

 そうなれば近接での白兵戦に持ち込むしかない。そのためにはこちらも防御結界を展開して、銃を無効化する必要があった。


「開拓船に置いてある生産用魔道具で、防御結界を30用意しましょう。銃よりはシンプルに作れるので、10日ってところです」

「そんなに待てるかねぇ?」

「魔法陣を刻める技士がいれば作業を分担する事もできるんだけど……」


 生産用魔道具は、3Dプリンターの様に基盤に魔法陣を刻みつけていた。なのでそれを手作業で基盤に刻める人がいれば、作成数を上げられる。


「魔道具を作れるヤツなんていねぇよ」

「魔道具じゃなくても、鉄板なんかに文字というか、模様を刻める人がいれば」


 生産用魔道具では、精密な魔法陣を細かく描くが、多少歪んで魔法陣が大きくなっても魔法陣を起動することはできる。

 ただ消費魔力は上がるので、効率は落ちてしまうが。


 戦闘で言えば、最初の攻撃を防いでしまえば、銃から白兵戦に移行するので、至近距離で銃を使われない限りバレないとは思う。

 この世界の銃は弾丸というよりは、爆発する術を撃ち出すので、至近距離で撃つと自分も範囲に巻き込まれる可能性があるので、普通はやらない。


「そんな事を専門にしてる奴はいないが、陶器なんかに絵付けしてる奴はいるけど、彫刻なんてやってる奴は知らんな」


 日々の生活が厳しい下町だと、装飾にこだわる奴はほとんどいないらしい。本来は図面通りに溝を彫り、そこに魔力伝導率の高い粉末を流し込む事で、魔法陣として機能する。

 ただ数回の使用だけなら、粉末を塗料代わりに使って魔法陣を描けば、使えなくはない……かな?


「いつ攻めてくるかも分からないし、やれそうな事は試すしかないか」

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