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作戦開始

 まずはメインストリートの近くにあるバラック小屋に、魔力を遮断する結界を整える。試掘場跡の拠点から、地下で繋がった場所なので移動はしやすいだろう。

 下町の魔力感知の精度がどれだけあるのか不明だが、囮が目立って行動すればそちらに注意は向くはずだ。


 ただ疑問があるとすれば、魔道具もあまり普及していない下町で、なぜ魔力感知に力を入れているのかって辺りだな。

 そもそもそうしたセンサー類は中層以上じゃないと簡単に入手できないだろう。それが下町全域を觀測できるほど設置されているとすると……ベルゴは上とのパイプがある可能性がある。


「中層が下町に反乱させないための出先機関がベルゴ……とか?」


 下町の武力を自分達の子飼いで占めておけば、反乱の芽を摘むことができる。中層から援助があるとすれば、銃器類や防御結界すら提供されている可能性はあるな。


「ということなんだけど、どう思う?」

「そりゃ考え過ぎ……と言いたい所だが、辻褄は合いそうだな」

「こっちが銃を取り出すと、相手も銃を使って、防御結界で身を守る可能性はある。倉庫でやりあった相手は、魔道具のスタンロッドを使ってきてたけど、あれも統一規格で作られた既製品に感じた」


 中層からのゴミ捨て場から拾った物で作ったとしたら、その出来上がりはマチマチになる。しかし、あの時に対した奴らはちゃんとした武器として、それらを扱っていた。


「きな臭くなってくるじゃねぇか」

「どの道、相手の意図が下町の武力を統括する事なら、スタルクがどんどん追い詰められるのは避けられない。仕掛けるなら早くしないとね」

「分かった、その辺の事も伝えておく」


 ベルゴが恐れているのは、ゲニスケフの様に魔力を扱える者がどんどん出てくる事だろう。ゲニスケフが魔力の扱い方を部下達に教える様になれば、魔道具に頼る人間より強くなる可能性も出てくる。


 まあ、実際はそんな魔力を持つ人間なんて、早々出てくるものじゃないけど、1人いたら複数出てくるのを危険視するのも分かる。

 実はベルゴの方も焦っている可能性はあった。


「そこに俺という存在が加わった事で、一気に加速した感はあるよね」


 実際、ゲニスケフは自分の力を魔力由来のものだとは認知していなかった。教えようとしても、体を鍛えろとか見当違いの方法だった気がする。

 そこに魔力の使い方を知る俺が加われば、一気に魔力持ちが増えて脅威度が増す事になるだろう。


 ただ魔術師が廃れていったのにも理由がある。個人が圧倒的な力を持つというのは、為政者にとって都合が悪いのだ。

 自分より力を持つものがいつまで配下でいてくれるのかと、ビクビクする羽目になる。

 恵まれた才能だけで、世の中をひっくり返されるのは怖い。


 なので画一的な規格で統一する魔道具が普及する事になるのだ。誰でも簡単に使えて、はみ出す事もない。それが社会全体で見れば利益になる。


 それに反発する者が、俺を生み出した研究所の魔導師達ということだ。人間の可能性を貶めている勢力に対抗したい。

 そうした正義を振りかざし、倫理観を無視して死者の魂まで利用するんだから、人間というのは恐ろしい。


「1人の人間ができる事なんて限界があってしかるべしと、力を与えられた者は思うんだけどな」


 望むのは個人としての平穏。追われることもなく、気の合う人達と不足なく生活できれば、世界に覇を唱えるなんて事はしないんだが、持たざる者は持ってる人を恐れるんだよな。


「テレパシーで皆が繋がって想いを共有できれば、争いなんてなくなるのにっとまでは思わないけどね」


 全体で意識を共有するとか、どんなディストピアだよ。個は個として尊重する社会の方がいい。でもそうすると利益がぶつかって争いも起きる。

 人間という生き物自体を欠陥品とするAIが出てくるのも頷ける。


「そんな物語を書くのも人間な訳だけど」


 などととりとめのない事を考えながら、俺はやれる事をこなして、個人の欲望を満たす。アイネを復活させる為に頑張るだけだ。

 ゲニスケフの魔力を偽装して、バラック小屋の一つから、先日ベルゴと戦った倉庫を目指す事にした。




 倉庫にたどり着く前に姿にも幻影魔法を掛けて、ゲニスケフになりきる。ボスが1人で出歩く訳が無いと思いきや、あのゲニスケフはあまりに戦えないので、単身で歩き回る様になってるんだとか。

 狙撃とかガスとか搦め手も魔力で守られたゲニスケフには効きにくいから、基本的に放置なんだそうだ。


「ベルゴの手駒で最高戦力がエンザって訳でもないんだろうけど」


 若頭クラスが使えるって事は、グループ内の地位はそこまででもないのか、そうした出世欲はないのか。

 あの手の戦闘狂は前線で戦えるのが報酬みたいな所あるから何ともいえないか。


 倉庫の中を確認してみるが、当然のようにトラックは移動させられていて、目ぼしい乗り物は残っていない。

 それでも工具類や修理用のパーツ全てを運び出す事はできなかったようで、幾つか部品が残っていたので確認しておく。


「やっぱりほとんどのパーツはガラクタに近いな。技術レベルが低くて、ゴミ捨て場から拾ってきた感じだ」


 耐熱の魔法陣が描かれたシートとか、空冷用の扇風機ファンなど、日用品レベルの物が転がっている。

 ただ一部には中層の既製品らしい掃除機とか、魔動ドライバーなんかが転がっていた。たまたま綺麗なままゴミ捨て場に処理されたのか、中層からの流れ品なのかまでは判別できない。


 そんな感じで倉庫を一周してそろそろ出ようかと思った時、魔力を感知した。左手を掲げて魔力障壁を起動。そこへ火の魔術弾が炸裂する。

 狙撃兵が狙っていたか。外に出る前の一番、警戒が緩むタイミングを狙ってくるのは、本職プロっぽい。


 射線を追って視線を向けると、倉庫の窓を通して、その先のバラック小屋の屋根にライフルを構える男がいた。

 目出し帽で顔を隠した男は、更に追撃を放ってくるが、当たってやる義理もない。射線から逃れつつ、接近を試みる。


 と、別方向からも魔力を感知。飛び退いて銃弾を避けた。ただどちらもゲニスケフを仕留めるには足りない火力。足止めを狙っての攻撃か。

 こんな攻撃ばかりで主戦場から離されるのは、確かにストレスだろうな。反撃しようにも距離があり過ぎて、ゲニスケフにはどうしようもない。


「まあ、俺には反撃手段があるけど」


 再度射撃してくる相手に対して、術式を起動。火の魔法弾で反撃してやる。それに相手が目を見開くのが見えたが、逃げるのは間に合わないだろう。

 屋根が爆発してバラック小屋が崩れる。


 他方向からの射撃も止まったので、バラック小屋へと向かう。バラック小屋が崩れる事で衝撃が緩和されたのか、息はあるようだ。


「チッ」


 そして俺が近づくのを待っていたかのように火の魔道具が動き出すのを感じて、距離を取りつつ障壁を展開。男を中心に爆発が広がって、辺りを飲み込んだ。


「本物のプロだな。しかし、下町の者を相手にするレベルじゃない。従順な中層でも使い所があるか不明なんだが……」


 上層が出張るにはまだ早いと思うんだが、一体どこの差し金だ?

 それともあの潜入で感じた以上に、中層にも地下組織があって、上層部への反乱を企ててるのがいるんだろうか。

 あの狙撃ライフルは明らかに真っ当な装備。最後の爆発も、証拠隠滅込みでしっかりと威力が計算された代物だった。

 中層の警備兵が持つような物よりも上物のはずだ。


「思っていた以上に、下町と上層が繋がってるのか?」


 上層連中は上納品さえ回収できれば、下の生活には不干渉かと考えていたが、管理されていたのだろうか。

 開拓船の修理を始めたら、どこからともなく特殊部隊が襲ってくるとか面倒だぞ。


 惑星から逃げ出せる者がいなかったというのは、色々な方面から締め付けてきた結果だったのかもしれないな。

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