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ベルゴの勧誘

「ぼ、僕は自由でいたいかなって……」

「旅に出るにしても、その年齢じゃ行く先々で侮られるだろう。せめて後5年はしないと、まともな付き合いはできねぇよ」


 それまで養ってやる、もしくは匿ってやるといったあたりか。そのメリットとして、乗り物のメンテナンスなどができる者を確保できると。


「俺は気前がいいからよ。すこーし、スタルクの奴らと過ごしてたのは、目をつぶってやるよ」


 やはりな。変身を使って騙すように接触してきた時点で、俺がスタルクと接触していたのを掴んでいたんだろう。その上でどう反応するかを見ていたと。


「あっちにいるより、こっちについた方が利口だぜ」

「どうでしょう。交渉しようと言うのに、顔も見せない人に言われても信用できないっていうか」

「ああ、そうだったな。忘れてたぜ」


 そう言ってあっさりと変身を解く。ゴリラっぽいガタイのいい男から、スレンダーな狐っぽい男へと姿が変わる。

 少し上物のスーツを着ている事から、組織の中でも上位に位置する者だと分かる。


「改めまして、俺はベルゴのスチュアートだ。若頭をやってる」

「僕はユーゴです。旅人の息子ですかね」

「過去はあんまり詮索する気もねぇよ。その年齢に見合わない能力を買ってやる。スタンザなんぞより重宝してやるのは確実だ」


 評価してくれているのは確かなんだろうが、いちいち上から目線なのが気に入らないんだよな。情報屋のおっさんは、仲間って感じで接してきたのに対して、このスチュアートはあくまで部下にしてやるって感じだ。

 その自信というか余裕を持って、相手を支配しようというのは、無駄な争いを生まないって意味で平和的なのかもしれない。


 相手が力に屈する相手ならだけど。

 その心境が透けて見えたのか、スチュアートは更に笑みを浮かべて両手を広げる。

 それに合わせて、倉庫の影に隠れていた部下達が姿を現した。


「隠れているのは気づいてたんだろうが、実際に囲まれてみての感想はどうかね?」

「思ってたよりは粒が揃ってそうですね」


 スタンザなどの街中で勢力を示す為のゴロツキ連中ではなく、本当に戦闘をするための兵隊って感じの統制がとれた連中が揃っている。


「俺が優しく声をかけてる間に、真っ当な答えをするのをオススメするが?」

「見る目がないですね」

「仕方ねえな。井の中の蛙は大海を知らねぇとまともに考えられねぇか」


 スチュアートの声に周囲の男達が間合いを詰め始める。動いてくるのは5人で、倉庫の入口に2人、後はスチュアートとその側の作業服の男。

 力量的に作業服のヤツが一番ヤバそうだ。


 近づいてきた5人は手に警棒ロッドを取り出して構える。魔道具っぽいから、電撃系のスタンロッドと言うところか。

 俺が1人に近づこうと進むと、そいつは接近をやめて迎え撃つ様に構える。その間に、周囲のヤツが寄ってきた。ちゃんと連携する姿勢が見える。


 それでいて対応するのは1人のようで、近くの2人は逃げ場を殺す様に位置取りしている。更に後方からは包囲を完成させようと退路を塞ぐように近づいてきていた。

 この世界は魔法という明確な索敵技術がある分、地球で言う気配で探るというのが精度高くやれる。相手の魔力を探知系術式で捉えておけば、距離感などを間違う事もない。


 まあ、本当の魔術師を相手にしたら、その魔力も偽装されて余計に混乱する事になるんだろうけど。

 少なくともこの場にいるベルゴの連中には、そこまでの技量は感じなかった。


「まずは小手調べかな」

「シッ」


 正面にいた男へ、すすっと間合いを詰めると、対応して警棒で殴ってくる。それを腕で受け止めた。


「馬鹿がっ」

「どっちがかな?」


 やはり警棒は魔法が仕組んであって、殴ると同時に電撃を放つように設定されていた。それを受け止めれば、一瞬で勝負がついたのだろう。

 しかし俺は袖にバールのようなモノを仕込んでいた。金属製の工具は、熱や電流などを通さないように、絶縁処理を施してある。大人を昏倒させる電流量があったとしても、きちんと受ければ問題ない。


 対して男は警棒が当たった事で、動きを止めていた。すっと懐に滑り込む動きに対応しきれなかった。警棒を振った手を取り、腰に乗せるようにして跳ね上げれば、簡単に宙を舞う。

 ゴスンという音と共に地面へと叩きつけられた。ただ感触からして、何らかの防具は着込んでいるみたいだな。防刃と耐衝撃ってあたりか、意識を刈り取るまでにはいかなかった。


「てめぇっ」


 左右で囲んでいた男達がこちらとの距離を詰めてくる。ほぼ同時に繰り出される警棒は、タイミングがしっかり取れていて連携できている。

 ただ訓練と違うのは、俺がまだ子供だって点だな。大人よりも30cmは低い身長なので、打点が微妙に狂っている。

 攻撃というのは腕が伸び切ってしまうと力が逃げてしまう。そこを軌道を逸らすように叩いて、軸足にぶつかっていく。


「くおっらっ」


 前方に傾いた体の足元を掬われた形の男だったが、手にした警棒は触れるだけで威力を持つ電撃棒。バランスを崩しては前転しながらも腕を伸ばして、俺へと振るってきた。

 背中の辺りに軽く触れる様な衝撃。そこから電流が走った。

 バチッという電気の弾ける音と共に、俺は前方へと飛ばされる。思ったよりはやるね。俺は地面に手をつきながら体勢を立て直すと、足から着地する。


「ふべっ」


 無理な体勢から一撃を繰り出した男は、受け身もままならぬまま、頭から地面へと落ちていた。

 一連の攻防にスチュアートは目を見開いているようだが、隣の作業服はすっと目を細めるだけで動揺は見えない。やっぱり、プロっぽいぞ。なんでそんなのが下町にいる。


「油断してんなよっ」


 声とともに殴りかかってくる姿が目に入る。しかし、それは囮だ。声で注意を引きながら、本命の背後からの攻撃をサポートしている。魔力感知がなかったら、まともに食らっていたかもしれない。

 突くように伸ばされた背後からの警棒を、半歩ズレる事で避けながら突き出された腕を掴む。


「なっ」


 正面から声を出して殴りかかって来たヤツを、その捕まえた腕で牽制。勢いが緩んだ所へ右手で握ったバールの一撃を入れる。釘抜きの先端はそれなりに鋭いので、まともに入るとヤバイよね。

 純粋な打撃で言えば逆方向の曲がった部分で殴る方が強いんだけど、鋭い先端が刺さるというのは恐怖だ。


「でも刺さらないかぁ」

「ためらいがねぇなっ」


 防刃の防具を中に着込んでいるらしい男はバールの一撃に踏ん張って耐え、蹴りを繰り出してきた。足を刈り取るような鋭いローキックだ。子供であっても打点は変わらないので威力が高い。

 まあいいか。


「ぐぉっ」


 身体強化を施した足できっちりと受けてやる。鋼鉄並みの強度になった足を本気で蹴りにきたらどうなるか。骨をやったかな。


「てめぇっ」


 背後から警棒で突いてきた男が、拳で俺を殴ってくるのも、身体強化で受けてやる。ぷにぷにほっぺですら、魔力で固めれば鋼鉄製に早変わりだ。

 ゴガンと衝撃を持って振るわれた拳は、その勢いをそのまま拳へと跳ね返す。


「ぐああっ」

「ほいよっ」


 拳に返った痛みに呻く男の掴んだままの腕を捻って折っておく。立ってるのはあと1人か。

 地面に投げた奴はまだ動けないだろう。自分から落ちた奴はそこまでのダメージはないはず。足をやったヤツと、両手を潰したのは戦力外でいいな。


「いやはや、格が違いすぎねぇか、坊主」

「どうでしょう?」


 まだ動けそうなヤツを手で制しながら、作業服の男が近づいてきた。俺が魔法を使ってるのに気づいてそうなんだよな。

 その歩みからしてちゃんと訓練を受けたというか、武術家のソレ。手練れであるのは間違いなかった。

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