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増殖する下っ端

 朝起きると下っ端ーズが増えていた。

 元々いた4人に加えて、更に4人。どうやら単細胞生物で分裂したみたいだ。


「違うっすよ。コイツラも強くなりたいって言ってきたんスよ」

「でも僕が教えられる領域にまだ基礎が足りてないんだよね。戦闘技術というのは、下積みが大事なんだ」

「そこをパパーッとお願いしたいッス」


 農作業でノウハウの大事さは分かったものの、答えを教えられる楽さを覚えてしまったらしい。


「戦術の基本は自分で考える力を付ける事なんだよ。誰かに教えてもらった戦法を使って、相手の反応が教えられたのと違った場合に、それに対処するのは思考力が必要なんだ」

「?」

「例えば前に4人で囲まず、3人で囲めば空振りしても味方に当たりにくいという話をしたよね」

「はい、思い切って攻撃できるようになったッス」

「でもそもそも囲ましてくれない相手もいるんだよ。その時にどうするか考えたか?」

「……どうすればいいんスか!?」


 まず自分達の方が人数が多いとは限らない。相手の背後を取りに行ったヤツが、相手に仲間がいれば逆に囲まれる危険がある。

 相手が壁を作って背後に回らせない様にする可能性もあれば、背後を取られないように距離を取ってくる場合だってある。


「そんな状況全てへの対処法を教えられて、全てを覚える自信はある?」

「……ないッス」

「だから大事なのは個々の対処法じゃなくて、どうすれば有利になるかを考える力を付けないとダメなんだ」


 スタルクはベルゴよりも数が少ない。同規模で争いになった時に、数的有利を取れる可能性は低いだろう。

 そんな中で局所的に数的有利を細かく作る事ができたら、相手を各個撃破していって全体を見ても優勢を取っていく。それが陣形というヤツだ。


「例えば横一列に並んだ状態で、一人だけ少し後ろに下がってへこみを作る。そこへ相手を引き込めれば、相手は三方から囲まれた状況になる訳だ」


 しかし、引き込めなかったら、へこんだ所の左右にいる人は、2人に攻められる危険が出てくるし、へこんだ所に3人入ってくると、左右の人に両サイドを抑えられ、正面の1人は自分の前だけに集中できる。

 数的な有利は取れなくなっていく。そうなると下がった分、逃げ場がなくなって、不利になる可能性も大きくなったりする。


「これが戦術の基本だ。自分で動いて、相手を動かす。それを読まれたら逆に不利になるリスクもある。更に1人が下がった理由を左右の人が理解してなかったら、勢いに押されて下がったと勘違いする可能性もあり、注意が逸れたことで、自分が不利になる場合も出てくる」

「うごご……」


 下っ端ーズは揃って頭を抱えてしまう。最初は有利を作れると思ったけど、そのせいで不利になると言われたらどうしたら良いのか分からなくなる。

 同じ動きなのに相手によって有利不利が変わる。

 じゃあ正解は何なのか。


「相手がいる以上、絶対の正解はないんだよ。その場での判断が必要になってくる。なんで自分がその位置にいるのか、仲間と連携を取れる距離はどのくらいか、仲間が動いた時に自分はどうしたらいいのか」

「うごーっ、頭を使うのは苦手ッス」

「だから型を決めて、考えるよりも先に動けるように反復練習するんだ」


 脱出艇のシミュレーターを利用して、様々な局面をリピートして教え込まれた部分だ。


「陣形を組むのはなぜなのか、それはどういう時にメリットがあるのか。単純にこの陣形ならここに立っていればいいという覚え方じゃなく、この位置にいる事で、何で有利になるのかを考えて、その有利を活かして攻撃できれば、同程度の相手に負けることはなくなるんだ」


 頭を抱える下っ端ーズに対して、ケンカレベルでも使える陣形であったり、本格的な抗争となった時に、どう動けばいいのか。

 俺がシミュレーターを使う時に参考にした資料を各自の端末に送っていく。


「覚えるんじゃなく、考えて判断した結果が、陣形と同じになるように訓練すればいいよ」

「分かんないけど、分かったッス」

「とりあえず8人に増えた事だし、4対4で有利に戦う方法を考えてみればいいと思うよ」

「わ、わかったッス」


 ひとまず自分達で考えてみろと誘導して、俺に絡んでこない環境を整えた。

 しばらくは4対4で模擬戦を繰り返させて、相手の動きを見ること、どう動くかを考えさせる事を課して、俺は自分の用事に取り掛かる事にした。




 が、そうはいかなかった。

 情報端末に呼び出しがある。名前を見ても記憶の中に埋もれていた。


「スタンザ? スタンザ……あー、スタンザ」


 ベルゴのスタンザか。ホバーバイクを預けた相手だな。奪って終わりかと思っていたが、ちゃんと連絡をしてくるとは。


「はい、ユーゴです」

『おう、坊主。バイクの調査結果が出たからこっちに来いや』

「は、はぁ、えーっと、どこに?」


 バラック小屋が並ぶ下町の中でも、表通りとされる場所の酒場の一つのようだ。そこはベルゴが押さえている店ということだろう。


「わかりました。向かいます」


 通話を終えて、情報屋へと連絡を入れる。ベルゴの狙いはバイクの出どころ調査といったところか。


『ワシの目を付けておくから、万一の場合は助けに入ってやる』

「いや、正直、足手まといが増えるより、僕だけの方が楽なんですが」

『言いよるな。まあ、中層から脱出して見せる訳だから、そうだな。どうしてもダメだとなった時は、そっちから連絡を入れろ』

「ああ、そうなった時はお願いするよ」


 俺で対処できない状況を打破してくれるとは期待できないので、自衛はしっかりとやらないとな。

 まあ、武装は持ってないので、術式を展開できるような準備となるわけだが、初歩の即座に発動できる様な奴は、反射で展開できるようにアイネに仕込まれている。


 問題は魔力に干渉するようなジャマーが設置されている場合だな。銃のたぐいも魔法によって起動するため、それらを阻害する技術というのも発展している。

 そうなると敵味方ともに銃器は使えなくなるので、肉弾戦での戦闘になるのだ。


 ナイフなどの刃物は身体検査で奪われる可能性があるので、武器に思われない範囲で整えておくのが大事だろう。

 普段着にしている農作業用のツナギは、長袖長ズボンなので、そでなどに工具を忍ばせている。

 名状しがたいバールのようなモノだな。


 膝などはバイクで転倒してもいいようにパッドでガードしてあるのだが、この辺の硬度も防御だけでなく、攻撃でも有用だ。

 後は靴だな。足の甲に鉄板が仕込まれたいわゆる安全ブーツ。つま先までしっかりと覆われていて、蹴りの威力をあげてくれる。


「その分、重いのが難点だけどな」


 普段は身体強化を掛ける事で負担は減っているのだが、ジャマーがそこまで影響してくる様だとまさに足を引っ張られる可能性も出てくる。

 5歳からみっちりと鍛えられたとは言え、今でも10才児だ。大人とは比べるべくもなく、筋力も体重も劣っている。


 魔法が使えない状況で襲われるようなら、逃げの一手にならざるをえない。その際に使える煙幕などがあると便利だ。

 化学反応で煙を生じさせるクラッカーをポケットに入れておく。飴玉の包みみたいなのにくるんでいるので、取り上げられることはないと信じたい。


「こんなもんかな。まあ、平和な話し合いで終わるなら、それに越したことはないんだけど」


 ベルゴ側からしたら、外からやってきた子供という認識のはずだから、取れるもんさえ取れれば用済みで解放されるのが一番ベターな結末かな。

 どういうアプローチをしてくるかが分からない点に不安もあるが、憶測だけで予断を持つほうが危険なので、臨機応変に考えていこう。

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