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ステーションを脱出

「海賊崩れって奴らかな」


 建物の屋上を渡っていくうちに付いてくる者は少なくなっていき、地上から追いかけていた者もいなくなっていった。

 諜報活動のエージェントって訳じゃなさそうだ。術式の使用も限られていたしな。俺が魔術師なのか魔道具を使っているのかすら分かってないんじゃないだろうか。


 俺は一応遠回りして傭兵ギルドへと入った。ギリガメルの奴はいるかもしれないが、ギルド内で暴れる訳にはいかないだろう。ある種の治外法権エリアだ。

 俺はいつもの受付を見つけて声をかける。


「例のブツを受け取りにきた」

「そう聞くと怪しいですね。直通エレベーターはウィネスさんの登録になっているので奥のエレベーターを使ってください」

「格納庫から外へ出られるよな」

「逆にステーション内を移動する方がNGですよ」

「了解だ」


 俺は以前に使ったエレベーターで魔導騎士が置かれた格納庫へと降りる。ここは特別な許可がないと入れないはずだから、ギリガメルと言えども付いてこれない。多少の光学迷彩や隠蔽術式じゃギルドの監視は潜れないだろう。


「外で待ち受けるとかできるか?」


 俺が傭兵ギルドに寄る事は予測が難しいはずだ。ただ常駐してる傭兵団員くらいはいてもおかしくない。

 俺がギルドを訪れたことを連絡して専用の出口からステーションを出ると察して先回り……うん、無理だな。どちらかというとこのポンコツでちゃんとフロンティアラインの開拓船にたどり着けるかの方が不安だ。


 そもそも俺がギルドから魔導騎士を受け取ってる事も簡単には分からんはずだしな。万が一ギルドの裏口を張っているとしてもヨロイが精々だろう。

 それよりも魔導騎士に意識を集中しよう。魔力炉がヘタっていて出力が安定していない。それを各所へ繋げる回路にも滞りが感じられる。何箇所も焼ききれているのだろう。魔導騎士という役割上、過負荷の魔力を流すこともあるからな。その分、メンテをしっかりする必要があるのだが、それを怠ったのか余裕がなかったか。


「思わぬ所で得た知識が役に立つ」


 不安定な魔力炉の出力を扱うのに、先日見たアイアンモールの爺さんの魔力炉の扱い方がフラッシュバックする。

 あの炉は出力を絞った時に安定しなかったから定期的に出力を上げて落ちきらないように調整していたが、こちらは元々の出力が低下してるためにエンストしそうになっている。


 手当ての方法としては足りなくなった時に魔力を補ってやると言う事。貨物船に比べたら補うのに必要な魔力量は知れている。俺自身の魔力で数秒支えてやればひとまずエンストは回避できるだろう。

 魔力炉のガタツキに比べたら手足の方はしっかりとしていた。後から新しい物に付け替えたパーツっぽい。そのために必要な魔力量が上がって、出力不足に陥りがちのようだ。


「素人仕事なのか、あり物で繋げるしかなかったか」


 どちらかというと後者だな。左右の手足で必要な出力に差がある。別のメーカー品をくっつけないといけない状況だったのだろう。おかげで連結部でのロスも大きい。時間を掛けて整備したいところだ。

 ひとまず脚部やスラスターへの魔力供給を安定させて、移動に重点を置いて起動させる。


 格納庫から出るには空気の漏出を防ぐ二重ハッチがあった。魔導騎士でも出られる大きさで、術式で管理させている。指先で回路を接続し、オープンの命令を飛ばすと、外側のハッチが閉まっている事が確認され、内部の気圧が格納庫と同じに調整されてから開く。

 中へと入ると背後でハッチがしまり、内部の空気が抜かれてから前方のハッチが開いた。


 軽く床を蹴るようにして体を前に進めて宇宙空間へと飛び出す。スラスター強度が分からないので徐々に出力を上げながら感覚を掴む。


「思っていたよりはズレがない……っ!?」


 と思った矢先に、一定レベルを越えた途端に加速力が増した。どうやら高速機動を組み込まれた機体らしい。直線的にしか動けないが、アイネに渡した機体よりも加速力があるようだ。

 突撃槍ランスを持って突っ込む様な使い方を想定した作りらしい。スラスターの多くが後方に集中しているので、近距離での格闘戦では小回りが利かず戦いにくいだろう。


「でも今は助かる……か」


 俺はフロンティアラインの船を目指した。




 ステーションから少し離れた係留所にフロンティアラインの開拓船は停泊していた。既にアイネが船に入り、制圧したとの連絡があった。格納庫へと着艦して奥へと進む。開拓船で荒事に対する事もあるので、その格納庫は魔導騎士用ハンガーデッキも備えていた。

 魔導騎士をロックしてからハッチを開いて外へ出ると、そこにあるはずのない物をじっと見る。俺達の宇宙船が格納庫に収まっていた。

 アイネには操縦ができない……本当はできたのか。魔導騎士は魔力操作の応用で動かせるが、宇宙船はフットペダルやスロットルレバーなど物理的な操縦桿で操作が必要なので、何がどの機能なのかが分からないと動かすことはできない。

 以前にはっきりと操縦はできないと言われてるし、そういう事で嘘を言う人でもない。

 つまりその答えは……。


「なんでソイツがいるんです?」

「連れて行くことにしました」


 アイネの傍らにはフロンティアラインのパイロットがいた。何を考えてるのか分からなかったが、そんな男が同行するというのはどういう事だ?


「なぜです?」

「船の事を分かっているようなので使えます」

「そりゃまあそうですが」


 フロンティアラインの開拓船については確かに分かっているだろうが、それだけで連れて行く理由になるのか。


「じ、自分は……」


 パイロットが口を開こうとした瞬間、開拓船内にアラートが鳴った。パイロットは情報端末を取り出して何かを確認する。


「高速で接近する影、歩兵運搬船が来ます」

「ギリガメルの連中か?」

「識別信号は出してない、です」

「なら犯罪集団として対処だな。船は動かせるか?」

「機関出力を上げないと駄目です」


 まあ大型船が即座に動けないのは仕方ない。


「発進準備を進めろ。後、機銃の場所をテッドに教えて、リリアにレーダーを見させろ」

「は、はい」


 何だかんだと言って傭兵団か。指示を出せば動いてくれそうだ。アイネを見ると既に魔導騎士へ向かって走っている。俺は宇宙船で出るか少し迷ったが、ギルドから貰った魔導騎士を動かすことにした。


「歩兵運搬船の情報を回せ」


 船の情報回線に繋いでパイロットへと依頼する。


『は、はい』


 魔導騎士のコックピットからも回線を繋ぎ、識別コードやレーダーの情報を共有できるように設定を行う。


『ユーゴ兄、情報送るよ』

「おう、助かる」


 開拓船のコックピットに到着したらしいリリアから歩兵運搬船の情報が送られてきた。この星系でヨロイ運搬に使われれ船で、30人をまとめて運べるらしい。マシンガン系の銃座が1つと武装面はさほど脅威ではない。


『交戦空域まで後10分』

「早いな。こっちも出るぞ。アイネ様にも出るように伝えてくれ」

『アイネ様も後2分で出れるよ。兄ちゃんは右舷の銃座にいる』

「了解だ」


 俺はハンガーのロックを外して格納庫を出る。相手はヨロイだからそこまで脅威ではないが、開拓船に取りつかれたら厄介だ。早いうちに接敵する必要があるだろう。


「問題はこの機体でどこまでやれるかだな」


 ある程度撹乱すればアイネが仕留めてくれると思うが、サボってると思われると後で文句言われるだろう。俺は歩兵輸送船へと加速を開始した。

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