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ギリガメル傭兵団の横槍

「いやぁ、困るんだよねぇ。個人で稼ぐならまだしも、世の中を変えようとされると」


 計器類について装備屋の親父に話をつけた帰り道だった。追跡者がいるなと思って足早に港へと帰るフリをして、最短ルートである路地へと入ると行く手を遮る様にいかつい男達が数人で道を塞いでいた。

 そして後方から掛けられてきた声は以前に聞いた声だ。俺はゆっくりと振り返る。


 そこにいたのはギリガメル傭兵団に誘ってきたスカウトの男。パイロットスーツに革ジャン、大きめのサングラスもあの時と変わらない。

 ただ口元に浮かべる笑みは、親しげな様子から嗜虐的な雰囲気に変わっていた。ここから逃がすつもりはないと語っているようだ。


「ちまちま狩るより一気に大金になる方法をとっただけなんだがな」

「それでお前は満足でも、困る人間もいるって事をちゃんと考えろって言ってんだよ」

「人死にが減って困ることがあるのかよ」


 俺の返答に男はやれやれといった感じで首を振る。


「軟弱な傭兵が増えても困るんだよ」

「自分達が利益を独占するためにか?」

「若造には分からんだろうが、この星系が王国を支えてるんだ。その辺、教えてやるからちょっとコレ付けろや」


 そう言って投げ渡して来たのは首輪だ。細かな術式を見ないと判断はできないが、言うことを聞かせるための代物であるのは間違いない。

 精神的に束縛するのか、電流を流すなどして苦しみを与えての支配かは分からん。


「そう言われてホイホイと犬になると思われてんのか?」

「もちろん思ってねぇよ……やれ」


 背後の男3人が近づいてくる。魔力を薄く張って気配を掴むことで振り向く事なく対応。1人目は背後から襲った事でやや大振りに振るわれた拳をいなして足を引っ掛けて転ばす。

 2人目は警棒を持って殴りつけて来たので、後ろ足で腕を蹴り上げ、警棒を自分にぶつける様に誘導してやる。もちろん、威力としては大した事ないが、案の定スタンロッドだったらしく、痺れて崩れ落ちた。

 この世界だと電流とは限らんので、防御結界があるとはいえ食らうのは得策ではないしな。直接触れないように対処した。


 3人目はあっさりとやられた2人の様子に3mほどの距離で足を止めた。そこへ足元にあったゴミを蹴り飛ばす。へこんだスチール缶で思ったり重かったが、重力術式を仕込んだ靴でくっつけて放り投げる様に足を振り、タイミングを合わせて切り離す。

 思った以上の勢いで飛んでくる缶に男は避けるよりもブロックする事を選んだ。腕をクロスさせて受け止める。しかし、そこに仕込んだ麻痺術式に捕らわれて崩れ落ちた。


 その間、視線は目の前のスカウトの男から動かしていない。男はパチパチと拍手してきた。


「やっぱ、帝国の軍人だな。単なるゴロツキじゃあ話にならんという訳だ」

「違うと言っても信じないんだろうな」

「あの動きは帝国式の格闘術だろ。咄嗟の行動で足はつくもんだぜ」


 そうなのか。俺としてはアイネに教わった体術のつもりなんだが、確かに軍学校にいた時に違和感はなかった。元々は帝国の格闘術だったのだろう。


「まあ、王国側も帝国に海賊を送り込んでんだ、帝国がスパイを送り込んで内政を揺さぶるってのも卑怯とは言えねぇ」


 つまりこの星系でコボルトを狩るというのは国策って事なのか。俺が指名手配を受けた身だと知らないって事は帝国の情報には疎いらしい。

 国の方針で危険なコボルト狩りを続けさせていた。そこから予想される国策となると。


「戦える傭兵の育成か」

「答え合わせか? 御名答だな。歪な環境を残しているのは、反射に優れた兵士の選別だ。それが王国の兵士になっていく。素晴らしい徴兵機関だろ?」

「ふるい落とされる者がいなければな」


 ペラペラとしゃべっているのは俺をここで仕留める算段があると言うことだ。手薄になった背後の路地に補充の人間が配置されていく。背後に逃げたら路地を出た所で一斉に攻撃してくるだろう。

 もちろん、正面もこの男だけではなく隠蔽術式を使って複数の気配が待ち受けている。俺が襲いかかったら不意打ちできる配置だ。


「王国の現状は弱者に気をかける余裕はねぇ。帝国と違って宇宙生物を駆逐できる戦力が常に必要だからな。それを維持するくらいなら、他国を攻め落とす方が安くつく」


 そう言う男には義憤の色がある。多くの人間を救うために少数を切り捨てる、苦渋の決断をしているといった感じだ。支配者の勝手な理屈だがな。


「帝国でぬくぬく生きてる奴には分からんだろうがな」

「まあ知らないな。俺は俺で生きているだけだ」


 ひとまず話の方向性は分かった。これ以上付き合う義務もない。俺は壁を蹴って頭上へと逃亡を開始した。




 路地を形成するビルの高さは7mほど。重力術式のブーツがあれば、登るのは容易い。それは相手も分かっている。術式によって捕獲用のネットが張り巡らされていた。

 それは魔力感知で分かっていたので、術式を放って解除して抜ける。包囲された状況で厄介なのは手練れの人員、強さも分からないのに戦うよりも人員が手薄な頭上からの脱出を選んだ。


 ビルの屋上を跳び走りながら考えをまとめる。

 ギリガメル傭兵団は王国による民兵のスカウト機関だったという事だろう。コボルト狩りには飛び出してから即応できる反射神経と、攻撃を命中させる射撃技術が必要だ。

 それらに秀でた人材というのは兵士として一流になるだろう。それを育成、選別するという意味では理にかなっているかもしれない。


 ただそこに生活する人にとっては命懸けの仕事が据え置かれるという事でもある。住人とすれば安全に狩りができればそれに越したことはないと考えるだろう。

 傭兵ギルドは王国の傘下ではなく、帝国や共和圏にも跨がる国際機関なので、王国の国策は知らされず、俺から伝えられた技術があれば無用な死人が減ると公開に踏み切った。


 王国としては安全に狩れるようになると兵士の選別機関として使えなくなるので、まずは情報源を洗った。恨まれるなんて思ってなかったので、特に隠蔽工作もしていない。国の機関が調べたら俺が情報源だというのはすぐにたどり着いただろう。

 そして俺の素性を調べていくと、身の回りの物は帝国産の製品が多い。本当のスパイならその辺も隠すだろうと思うが、帝国からの傭兵ならそこまでおかしい事でもない。あえて身元を伏せてないとか判断されたか。


 共和圏で貰った偽造の傭兵ギルドカードから足がついたとも思いたくないが、何らかの細工が見つかれば帝国のエージェントと勘違いする可能性もある。

 俺としては帝国の回し者と思われるのは癪だが、そう判断できる材料はそれなりにあるだろう。


「ひとまず逃げ込むなら傭兵ギルドしかないか」


 後はアイネに連絡して船の確保だな。今はアイアンモールの貨物船で訓練や整備を行っているはずだからフロンティアラインの船は無人のはず。アイネならセキュリティを突破して制圧も可能だと想いたい。

 問題はアイネに船は操縦できないって事だな。俺が合流するしかない。

 貨物船からステーションから少し離れた位置で停泊しているフロンティアラインの船までは、魔導騎士で移動するとしてテッドとリリアはあの狭いコックピットに入れるかどうか。

 その辺はアイネのアドリブに期待しよう。


 アイネに向けてメールで連絡を送る。


『ギリガメルが王国の組織で目を付けられた。フロンティアラインの船を奪って星系を離れる』


 情報端末を使わなくても術式を構築できれば考えただけで送れるのは便利だな。まあ術式を利用できる魔術師に限られるだろうが。

 俺は追跡をまきながら傭兵ギルドを目指した。

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