合同狩りの成果
コックピットに行くと爺さんが歓迎してくれた。機関出力が安定して速度も出しやすくなったと喜んでいる。
「あくまで応急処置だから無理はさせないようにな」
「はん、どれだけこの船を扱ってきたと思っとる。限界くらい見極めれるわい」
まだアナログメーターなので、アバウトな針の動きで読まないといけないが不安定な様子はなさそうだ。
「こんなもん、ガっと入れてフッと抜いたら後はササッとやれば問題ねぇ」
「分かる言葉で言ってくれ」
「てめぇが理解しろ」
これはナッシュも苦労するはずだと理解させられた。多少は経験を積んできた俺でも混乱しそうだ。
それでも機関部に無理をさせずに加速をスムーズに行い、最速でステーションを目指している。
本来ならある程度は等速運動で距離を稼ぐのだが、今回はコボルトの買取が下がる懸念があるので最速を目指している。
なので加速から直接減速して速度を稼いでいく。コボルトをかなり積み込んでいるので、船の重量がかなり上がってる。それを最高加速の状態で反転させてメインエンジンを吹かせて減速を行う。
重心が崩れたら船体が捻れて折れて千切れる可能性もあるのだが、軋ませる事もなく向きを変えてみせた。
かなり神業に近い操船技術だ。これを継承できれば、ナッシュもパイロットとして生きていけるのだろうが、この爺さんからノウハウを学ぶのは難しい。
ひとまずは計器類を変えて、ちゃんと検定に通るようにしないとな。
ステーションへと接舷して精錬所へとコボルトを運び入れる。ヨロイ使いが多いので運搬はかなり早く済んだ。
そして嬉しい誤算としてコボルトの買取が下がっていなかった。というか少し高値で買ってくれたくらいだ。
レーダーを使用した狩りへの移行に各傭兵団が狩りを控えた為に納入数が減っていたらしい。
おかげでそれなりにまとまった資金を得ることができた。それで計器類を買って貨物船の整備をしないとな。その辺は装備屋の親父に相談だ。
フロンティアラインの方もほぼ無収入の状態で、配給を止められる可能性まであったので臨時収入に喜んでいた。
「まあ、次の狩りを行う頃には他の傭兵団も動き出すだろうから、逆に買取が下がるのだろうけど」
改めてアイアンモールの貨物船で打ち上げを行うことにした。リリアがアイアンモールのサーシャやフロンティアラインの団長代行を巻き込んで料理を準備していく。団長夫妻は久々に酒が買えると出かけていった。
ルーキー達はテーブルや食器の準備を手伝って動いている。ナッシュの指示にちゃんと従っているようだ。
一緒に狩りをしたことで連帯感出ていた。
思っていたより融合は楽なのかもしれないな。金銭的に切羽詰まっていたために、心にも余裕がなくなっていたのだろう。
後はリリアの料理だな。帝国貴族の辛すぎる料理ほど偏ってはいないが、ステーションの料理は労働者向けの配給食がメイン。質より量の料理は下処理も雑で美味しいとは思えない。
特にスラム出身の子供達はまともな食事を食べた経験に乏しかった。
前世の記憶を元に料理を仕込んだリリアにしっかりと胃袋を掴まれていた。
ちなみにアイネは傍観の立場を保っている。元は世話係だったが、記憶を失ってから俺達のトップとなり、自ら給仕などを行うような事はなくなっている。今も1人先に席について待っているだけだ。
酒を買いに出ていた夫妻が戻り、本格的な打ち上げが始まった。
「ひとまず稼がせてもらった事には礼を言うぜ」
アイアンモールの団長ゲーリックが、肩を抱くようにして絡んできた。既にかなり酒臭い。
「言っておくが今回の稼ぎは特別だからな。これからはもっと稼げなくなる」
「おいおい、コボルトの位置さえ分かればもっと狩れるぜ」
「その分、買取価格が下がるからな。今までの何分の一かに落ち込むと思えよ」
「その分、何倍か狩れば良いってことだろ。問題ねぇ」
バンバンと俺の背中を叩きながら楽観的な事を言う。自分の腕に自信はあるのだろうが、経営する観念はなさそうだ。
今までどうやって経営してきたのか疑問が出てくる。
ゲーリックを置いてナッシュへと話を聞きに行く。
「爺様、祖父が団長の頃にサーシャに経理を教えて、金勘定させる様にしたんです」
その祖父は60歳を過ぎた頃、病気によって他界したそうだ。晩年はヨロイ使いの仕事はしていなかったみたいだしな。コボルトに食われずに天寿を全うしたとして、盛大な葬式も行ったようだ。
息子夫婦が金勘定に向いてないと早々に諦め、孫娘を仕込んだというのはどうなのかと思わなくもないが、今更言っても仕方ないな。
傭兵ギルドへの狩り場予約申請などはナッシュが担当し、夫妻の方は狩りに専念しているらしい。
そんな歪な団運営の行く末が、金欠で家族以外のメンバーが抜けていった現状だ。
夫妻としては人が減った方が分前が増えるという考え方で新たな人員を入れる事は考えなかったらしい。
結果として団としての収入は減り、整備などに回す費用も捻出できなくなり装備を手放してやりくりする負の連鎖に陥っている。
「自分達の技量に自信があるんだと思います。実際、私では敵いません」
「なまじ腕があると自力で何とかできると考えがちだな。それが非効率な場合もなかなか改善しない」
「これからは狩りが変わるので差は縮まるかと思ったのですが、やはり小型艇の扱いでも撃破までの速度も勝てそうにないです」
ナッシュはどうにも親に勝てないとの思い込み、パイロットの腕では爺さんにもか、そこで自ら壁を作ってしまってそうだな。下手に上回ると厄介な事になると刷り込まれているのかもしれない。
その辺は家庭の問題だからあまり踏み込みたくはないが、ナッシュ自身のポテンシャルはそこまで低くない。今後、アイアンモールとフロンティアラインを融合する際、団長候補はナッシュだと思っている。
「ナッシュの自信を高める必要があるな」
「私なんて大したことないですよ」
アクの強い両親をフォローする立場でいる時間が長すぎて一歩引くのが癖になっていた。
「まあ、一芸に秀でる者は分かりやすく優れて見えるからな。しかし、実務を考えるとバランスよく器用貧乏の方が上司に向いてたりするんだけどな」
それぞれの分野での苦労が分かるからどこが不足しているかなどが理解しやすく、フォローの方法も分かるだろう。
どうしても実力社会というか傭兵家業の様な命懸けの仕事だと背中で引っ張る団長が部下としても安心できるだろうが、コボルト狩りから危険が減っていけばそうした面よりも、効率良く運営できる人材の方が重宝されるはずだ。
「この星系での仕事は大きく変わる。そこに先んじる立場にいられるかはナッシュにかかっているな」
「ええっ」
「さっき、子供達に指示を与えている姿は様になってたぞ?」
「そりゃ、子供を動かすくらいはできるでしょう」
「大人であっても同じだ。分かりやすい指示を的確に出せるかが重要だ」
その辺も軍学校で習ったので、基本的な部分は教えられるか。人の教育は面倒だがそれが1番の近道だろう。
貨物船のメンテナンスとナッシュの教育、それができれば装備屋の親父が望む結果になるはずだ。
そういえばフロンティアラインの船もちゃんと確認しないとな。あっちもまともなメンテを行ってないはずだ。その修理代を考えるともっと稼ぐ必要はあるだろう。
傭兵ギルドからもらうはずの魔導騎士も使えるようにしないとダメだしな。そのためには開拓船の格納庫は欲しい。
「やることは山積みだが何とか道筋は見えてきたな」




