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ルーキー達のコボルト狩り

 小惑星の上に降り立ち、ルーキーの統率をする間に、アイアンモール団長夫妻は勝手に狩りを始めている。

 小型艇で表面近くまで降りながら、途中で飛び降りて地表を狙う。囮を放ってコボルトを誘い出して仕留める流れはさすがの手際と言える。

 倒されたコボルトは小惑星に対して斜めに飛んだらしく、大きく跳ねて団長から離れていく。しかし、その先には妻の方が待ち受けていて小型艇の荷台に張られたネットで受け止めた。


「長年のコンビネーションという奴かね」


 跳ね飛ばす角度とかで、どの辺で受け止められるか分かっているのだろう。ならば2人は放っておいていいだろう。



 俺は集めたルーキーの様子を見る。多少は狩りを経験しているだけあって、小惑星にちゃんと立てていた。テッドは少し落ち着かない雰囲気。体が浮きそうになるのを、スラスターで調整しようとしている。


「ブーツの重力装置を使え」

「あ、ああ、コレか」


 土魔法の重力術式が起動すると、小惑星の表面にくっつく事ができる。切り忘れると足が上がらないので、普通に歩こうとするとバランスを崩して転倒したりするので慣れが必要だ。


「レーダーの見方は分かるな?」

「「はいっ」」

「まずは2人一組で撃ち損じが起こりにくいようにフォローし合え」


 俺は狩りをせずに全体の監視役に徹する。ヨロイに不慣れなテッドはアイアンモールのナッシュとペアを組ませる事にした。俺が相手だと緊張感に欠ける可能性があるしな。


「それじゃ開始だ」




 フロンティアラインのルーキー6人はまだ恐怖心が大きそうだな。コボルトに対する距離の詰め方がゆっくりだ。

 コボルトを小惑星と挟む位置へとジャンプというよりは飛行して近づかせる。これはショットガンという武器の特性上、全ての弾が的に当たると限らないから必須だ。味方を撃つ状況は極力減らしたい。

 術式弾は物理的に弾を飛ばしていないので、宇宙空間、無重力で跳弾が発生しないというのはかなり楽だ。小惑星で跳ね返った弾が自分に飛んでくるとか最悪だからな。


 ゆっくり近づき、結構離れた位置から囮の魔石を投げる。囮はワイヤーで結んだ魔石だが、遠くから投げるとワイヤーの長さが足りずに戻ってきて慌てる様子も見て取れた。


「コボルトに対する恐怖心が大きいんだな」


 フロンティアラインの前団長は、ルーキーの教導中にコボルトにやられた。あまり経験がない所にベテランであるはずの団長が亡くなった事実は大きいのだろう。

 教導でルーキーに気をやりながら狩りをするというのはかなり無茶だ。俺と違ってどこに潜んでいるかも分かってない状況だからな。ルーキーに気をつけていたら、どうしたってコボルトへの注意は減る。不意打ちへの対応が遅れたのだろう。


 コボルトの位置が分かっているから大丈夫と理屈で分かっても10代前半の子供が怖さを抑え込むのは難しい。

 これは経験で徐々に埋めていくしかないだろう。それを早めるのは競争とか、豊かになるという褒美かもしれない。


 そう思ってデッドを見る。ルーキーの子供達に比べても拙いヨロイの操作はまっすぐに移動するだけでも苦労しているのが分かる。

 しかし、コボルトに恐怖を持っていない分、行動は大胆だ。多少バランスを崩しても、銃口を向けさえすれば倒せると認識している。

 それが過ぎれば危ないが、今はルーキー達の教育のためにも無謀を咎める事はしない。


「デッドくん、コボルトが出ますよっ」

「分かってるっ」


 投じた囮魔石の軌道も安定せず、見てる方はハラハラするが、本人は抱えた銃をブレさせない事に集中している。

 飛び出したコボルトの方へと銃口を向けながら、本人は回転し始めてておいおいと突っ込みたくなるが今は我慢だ。


 テッドの動体視力は元々優秀だったと思う。その上で俺が操縦する宇宙船という本人の意思とは違った動きの中で、敵を見定めて射撃を行う実戦をくぐり抜けている。

 本人が制御できない体という不安定な状況でも、狙いを狂わせない集中力を発揮して的確に命中させて見せた。


 他のヨロイ使いとは違ってライフルを選んだテッドの射撃は、単発でもしっかりとした威力を発揮する。着弾して小惑星へと弾かれたコボルトはそのままバウンドして跳ね返ってくるが、テッドは姿勢を崩したまま射撃したポイントから離れていっている。

 それをナッシュがフォローして小型艇で回収してくれた。


「色々と言いたいことはあるが、ひとまずテッドが一番乗りだな」


 かつてのどこから出てくるか分からないコボルト狩りなら、姿勢制御すらまともにできないテッドは簡単に捕食される側だっただろう。

 でも状況はかわった。あんな不格好を晒す奴でも倒せてしまうのだ。その事実はルーキー達にも伝わっただろうか。

 少し行動速度が上がった様に思えた。




 3時間後、8人で34匹のコボルトを退治できた。俺とアイネ2人に比べても少ないが、かつての狩りと比べれば破格の成果だろう。

 団長夫妻の方は25匹。途中から回収が間に合わず、虚空へと死体を流す事が増え始め、確保できた数が25匹という事だ。日に5匹倒せば上出来だったので、回収方法が難易度が高いと認識してなかったのかもしれない。


 アイアンモールの貨物船へと帰還して、コボルトの死体が山積みになるのを見る各団員の顔は達成感に満ちていた。アイアンモールの団長夫妻はチラチラとこちらを伺っているが、何か言ってくる気配はない。

 まさか褒められるとか考えてないよな?

 俺とアイネに比べたら半分以下の成果だからな。


「皆さん、食事の準備が整ってますよ。ヨロイを脱いで浄化してから食堂に来てくださいね」


 アイアンモールの長女サーシャの声が格納庫のスピーカーから響いてくる。これにいち早く反応したのはルーキー達だ。食事に対する執着が強いのだろう。

 テッドはヨロイの制御でバランスを崩して出遅れている。締まらないやつだ。


 ヨロイを脱いで格納スペースに片付けると、個室の浄化設備がある。シャワールームの様な感じだが、お湯で汗を流すという事はなく、浄化術式で汗や汚れを分解する処理がなされる。なのでさっぱりするようなリフレッシュ感はない。

 術式で水を精製できたりするので、前世の宇宙空間ほど水が貴重という訳でもないのだが、宇宙船という限られたリソースを扱う中で、シャワーでお湯を使うというのは贅沢なのだろう。


 俺は少し物足りなさを感じながら着替えを済ませて食堂へと向かった。




 俺が食堂に足を運ぶ頃には全員が着席していて、俺に向かって遅いと睨みつけていた。


「俺を待つ必要もなかっただろう?」

「貴方は彼らの指揮官の立場。上下の躾はしっかりと行いなさい」


 どうやら先に食べようとした面々をアイネが制していたらしい。待てと言われた犬のように俺を睨んでいるのは言葉だけでなく、実力でも制された後なのだろう。


「この状況で何を言っても頭に入らんだろう。先に食事をしてからでいい」

「「「いただきますっ」」」


 日本式のいただきますは、リリアの仕込みか。学校の給食を思い出す光景だった。俺が先生の立ち位置だから余計にそう思うのかね。


「うおっ、なにこれ、うめぇ」

「えっ、こんなの、食べた事ない」

「オレ、もう死んでもいい……」


 リリアが主導して用意した食事は、フロンティアラインの子供達にとって驚愕の品になっていたらしい。

 恍惚となって咀嚼している奴は大丈夫だろうか。

 隣の奴が隙と見てそっと手を伸ばしたのを、反射的に叩いているから大丈夫か。


 狩りを終え、緊張から解放された子供達の声を聞きながら、閉塞感がかなり薄れたと実感した。

 しかし、ここで全てが終わった訳じゃない。コボルトの買取価格は下落するだろうから、早めに処分しないと駄目だしな。

 パイロットの爺さんは食堂にはいないので、ステーションを目指して加速しているところだろう。


「後はギルドが前もって価格を下げてるかどうかかなぁ」


 今回の稼ぎで多少は整備ができるだろうが、まだまだ不十分。ただ稼げる実感があれば希望は出てくるだろう。

 食事風景を見ながら俺は先の予定を整理していった。

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