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アイアンモールの貨物船

 アイアンモールの船は、貨物船を改造した物だけあってずんぐりとした印象を与える。全長は800mほどでフロンティアラインの開拓船に比べると短いが、戦闘を考慮されていない寸胴な作りで容積は大きい。

 内部は格納庫と居住スペースが半分、残りが搬送用の貨物室となっており、昔は大型コボルトを複数収納する事もあったようだ。

 フロンティアラインもそうだがかつては隆盛していた様子を伺わせる船だな。

 クルーも多数抱えていたのだろう。それが何かのきっかけで人が去っていく事態になってしまう。思ったように稼げなくなったとかだろうか。


 装備類は船の大きさに比べると少ない。ヨロイなども人数分と予備が2つほど。予備も整備が行き届いていないのか部品が欠けている様に見える。使用するヨロイの部品取りに使っているようだ。他のヨロイも手放して資金に変えていると思う。装備屋の親父と懇意なのも処分を繰り返した結果かもな。


 ヨロイで乗れる小型艇が3艇、家族分残してあるようだ。小惑星の側まで貨物船では寄れないから、小型艇で近づくのだろう。

 三輪バギーみたいな形で、またがって座りハンドルで操作するようだ。推進力は車輪ではなく魔力で動くスラスターが座席の後部に2つ。これでリアカーみたいに荷台を引っ張る仕組み。

 今はアイネの魔導騎士で運んで貰っているが、こういうのがあれば便利そうだ。


 格納庫から船首にあるコックピットへと移動する。イメージとしては旅客機にちかい。2つの座席が並んでいて、それぞれに操縦桿や計器類がついている。片方が故障してももう片方で操作できるはずだ。

 そして片方の座席に1人座っていた。現パイロットの爺さんだ。還暦は過ぎているだろう顔は深いシワが刻まれている。白い眉毛がかなり長く、瞳を隠すほどのボリュームがあった。その代わりか頭髪はない。


「邪魔するぜ」

「邪魔するなら帰れ」


 ただ停泊しているだけなのだが、爺さんは計器の確認を続けている。一応、団長から許可は得ているのでコックピットへと入っていき、爺さんがいない方の席へと座った。

 ぱっと見た印象としては「アナログだな」というものだ。今の計器類は具体的な数値を表示するデジタルが主流だが、ここの計器類は針が動いて数値を指し示すアナログな物が多かった。


 特に戸惑いそうなのが速度計だ。宇宙船の速度などは数千km/hまで出せるのだが、自動車のメーターの様に針が一周するくらいの範囲しか動かない。

 ステーションに寄せる際は100km/h以下に落とす必要があるのに、ミリ単位でしか針が動かないのだ。当然、目盛りもアバウトで具体的な速度を知ることは難しいだろう。


「この計器でステーション寄せようとして制限速度を守れるのか?」

「見りゃ分かるだろうが」


 なるほど、これじゃあ教わりようがない。試験用の教本で何km/hまで落とせとか記載されていても、この計器では調整なんてできないだろう。

 この爺さんは目視で速度を調整してるのか?

 宇宙空間は空気がないので物の輪郭がボケる事もなく、距離も地上よりはスケールが大きく、見た目に変化が出る頃には、近づきすぎている場合が多くなる。


 重力がほとんどない宇宙空間で減速しようとするなら、逆方向へ推進力をかけなければならないが、その出力計もアナログなのでかなりアバウトになるだろう。それこそ何度も繰り返して感覚で掴まないと操縦できる気がしない。

 メインパイロットの操縦をサブシートで計器や窓の外を凝視しながら何年も見て覚えて、ようやくスタートラインに立てるってとこか。そしてそんな情報の把握の仕方では、試験で使用する船とのギャップを埋めるだけでかなりの習熟を必要とするはずだ。


「まともな計器を付けるところからだな」

「最近の若いもんは軟弱でいかん」


 俺のつぶやきにちゃんと答えてくれるのは、なんだかんだでこっちの事を気にしているのだろう。自分はいつ引退してもおかしくない状況で後継者がいない、そこに責任を感じているのかもしれない。


 そして爺さんが何をしてるのかと思って手元を覗いてみると、機関部の出力をこまめに調整していた。停泊しているとはいえ、完全に静止させている訳でもないので、機関出力をゼロにせずアイドリングさせておくのが普通だ。

 魔力炉の出力を絞っておけば問題ないはずだが、計器のフレを見てるといきなり出力が落ちてゼロになりそうになっている。そこを少し吹かして出力を上げて、落ちきらないように注意しているらしい。


「そこはちゃんと修理しろよ」

「はっ、こんなもんは無意識で調整できらぁ。金かけて直す必要もねぇ」


 本来なら自動で調整される範囲を手動で管理しないといけないからコックピットから離れる事ができないようだ。寝てる間に出力が落ちたらどうするんだ。無意識で調整って寝ててもできるって意味か?

 アイアンモールの経済状況じゃ、維持管理コストまで制限されてるって事だな。爺さんが倒れたら乗組員全員も道連れになるんじゃないか。


「流石にこのままじゃ駄目だな。勝手に直させてもらうぞ」

「金は払わんぞ」

「爺さんからはな」


 俺はコックピットを後にして、アイネにも声を掛けながら機関部へ移動する。



 気密された機関部へと入る。前世のエンジンなどと違って可動部分はないので、油臭いということはない。魔力を貯蔵状態から使用できる状態に変換するのが魔力炉の役目だ。冷凍された食品を調理できるように解凍する様なものだな。

 その電子レンジ的な役割をしている魔力回路は、並行して作業を行っているのだが幾つもの箇所で断線を起こしていて目詰まりしている。


 緊急回避など急に出力を上げると過負荷になって回路が焼き切れたのだろう。一箇所でもそうした箇所があり、本来なら流れるべき場所に魔力が流れないとなると、他の所へと負荷を掛けるようになり連鎖的に故障箇所が増える事に繋がる。

 本来なら定期的なメンテナンスで切れた回路を修理しておけば、出力が不安定になるような事はないはずなんだが、長期に渡って放置されてきたのだろう。


 俺が機関部の回路パネルを開いて微弱な魔力を流してその場所を特定。魔法陣の扱いが得意なアイネに修復して貰っていく。

 1時間ほどの作業で不安定なブレが起こらない程度にはできた。ただ早いうちにしっかりとしたオーバーホールが必要なはずだ。


 そして装備屋の親父に連絡を入れて、デジタル表示できる計器類の在庫を確認してもらう。宇宙船のパーツはヨロイほど頻繁に出る商品じゃないので、店にストックはないそうだ。倉庫の方をあたってくれる事になった。

 取り付けくらいなら俺でもできるかなとは思ってるが、アイアンモールの長女が普段の整備をしてるって話だったので、相談しながら進める方がいいだろう。


「問題は計器を買う金すら出せそうにないよなぁ」


 貨物船の中を見て回って、換金できそうな物は残ってなかった。強いて言うならヨロイ用の小型艇だが、これまで手放せば収穫量が落ちる。

 今後、コボルトを探す手間が省けるようになるので、狩ってから運ぶまでの時間を短縮できれば効率が上がっていく。

 小型艇はこれからの方が価値が出る総備品だ。

 フロンティアラインにもなかったからそれなりに貴重品でもあるだろう。


 新たに借金でもできたらと思うが、ヨロイなどを処分する前にまずは借金をしてるだろうし、コボルト狩りという仕事自体が不安定なもので、まとまった資金を貸してもらえないだろう。


「となると短期集中で稼がせるしかないか。ただあの夫妻は素直に動きそうにないよな」


 やはりあの長男を動かすのが無駄なくやれそうか。どの道計器類を更新しないと操船の練習もできないしな。

 今日の狩りの予約でも嫌な顔をされたから、アイアンモールかフロンティアラインの名前で予約させないとな。

 俺は短期の金策と訓練の計画を立てる事にした。

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