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コボルト狩りの説明

 苦虫を噛み潰しているアイアンモールの団長夫妻は言葉を発しない。その隣にいた青年が俺の方へと近づいてきた。

 多分、夫妻の息子だろう20代半ばの青年だ。ヨロイの下に着込む装飾の少ないパイロットスーツを着ている。母親譲りであろう赤毛を父親の様に短く刈り込んでいた。


「素晴らしい手並みでした。コボルトを見つけられるというのも凄いですが、無駄なく撃破していく事の方がより凄いと感じました」


 好戦的な両親と違って丁寧な口調で評価してくれる。ちょっと調子が狂いそうだ。


「それはどうも……」

「親父達の事だから喧嘩口調で突っかかっていったと思いますが、俺やサーシャ、妹なんかはこのままじゃ駄目だと理解しています」


 なるほど、親の代は何とかなっても、自分達の代では潰れると考えている訳だな。


「親父は自分もできなかったパイロットを俺に押し付けようとしてきますが、やっぱりヨロイとは勝手が違いすぎてできそうにありません」

「それは思い込みだろうけどな」


 実際、俺は本職の方がパイロットのつもりだが、ヨロイや魔導騎士も操れる。もちろん、魔術師として、魔力の扱いができるって点が大きいが、それでもパイロットとヨロイくらいは両立できるだろう。


「ちゃんとした教育を受ければ、そこまで難解なものじゃない。経験者にレクチャーされてるだけだと分からない部分も多いからな」

「そうなんですよ。爺様の教え方は感覚的過ぎて理解できないんです」

「それらも含めて、これからについて話そうか」


 俺はブリーフィングルームの前方へと移動した。




「さて、俺の戦闘を見て実力は分かったと思う。そして、これから狩りが変わるというのも理解できただろう」


 アイアンモールの団長夫妻は顔を歪めたまま、隣の青年と女性は頷いている。フロンティアラインの方の団長代行は眉根を寄せて悩んでいる様子だ。パイロットの方は興味なさげで、ルーキー達は大きく頷いていた。


「コボルトの位置が分かるようになれば、反射神経よりも正確な射撃や姿勢制御の方が大事になってくる」


 これは大きな転換点だ。今までは囮を使ってコボルトを釣り出す際に、反射で対応できるかが肝だった。本来、狩りというなら安全の確保が重要なのだが、コボルト狩りではそれができずに死傷者を出し続けていたのだ。

 フロンティアラインの指導者リーダーの事故死というのも、結局はコボルトへの対応が間に合わなかったから。予め位置を特定できるようになれば事故は減らせる。


 ただ逆を言うと今まで実力者として名を馳せていた者は、その即応性に優れた者達だった。優位に立つために必要な素養が変わるというのは、受け入れがたいものがあるのだろう。

 アイアンモールの団長夫妻が、喜びより苦渋の表情なのはそれがあるように見える。


「狩り方は見せた通り、飛び越しざまに囮で釣りだし、射撃で倒す。ヨロイで狩れる小型コボルトなら魔石もそこまで気にする必要はないから、開けた口へ叩き込む腕があれば十分だ」


 これに対して表情を明るくしているのは、フロンティアラインの若手達だ。視界が制限されるヘルメットで小惑星に降り立ち、いつ現れるか分からないコボルトを警戒して歩く。恐怖と緊張からかなり解放される事だろう。


「射撃に関してはテッドが指導にあたる」


 脇に控えていたテッドを示す。年齢的に近いテッドが手本を見せる方がやる気も出るだろう。テッドの腕ならば簡単には追いつかれる事もない。


「逆にテッドはヨロイの扱い方を教えてもらえ」

「いいのか、兄ちゃん!」

「彼ら用のヨロイがあるみたいだからな」


 テッドの小柄な体躯に合うヨロイがなかったので俺が現場に出て、銃座だけを操作させる形だったが、フロンティアラインの若手達もまだ子供。それに合うヨロイが準備されていたので、それを利用させて貰おう。


「と、言う事で良いかな。フロンティアライン団長代行殿」

「子供達が安全に稼げる様になるなら……」


 自分達の船が狙われている中で、俺の提案に乗るという事は船を失うリスクが上がる。それを受け入れる度量はあるようだ。というより団長を失い、先が見えない状況の方が深刻なのか。

 傭兵ギルドで少し記録を漁っただけでも子供の扱いは悪そうだった。コボルトを釣り出す餌として最前線を歩かせられるケースが多い。特にスラム出身の子供を使った狩りは、ステーションの規定で禁止されているが、実情を見ると子供の事故が多すぎた。

 事故の要因としては技術が未熟だったとの結論にされていたが、実質的にはまだ囮役が続いていると見るべきだろう。


 スラムに流れる子供の多くは、コボルトにやられた傭兵の子が多い。敵討ちができると誘って、スラムから脱出できれば貧しい暮らしから脱出できるとそそのかす。

 配給を受けるためにも傭兵の身分が欲しい子供も多いのだろうが、本質的には増えすぎるスラムの子供を間引いていた可能性も見え隠れする。

 フロンティアラインの前団長がちゃんと育成するつもりだったのか、囮として使うつもりだったかは分からないが、団長代行は子供の安全を願っているようだった。


 気になるのはパイロットだが、こいつの考えはよく分からない。ブリーフィングルームには居るものの、こちらには興味ないといった雰囲気だ。

 団の運営には関わってないのだろうか。手に職があれば他でもやっていけるから、団がなくなったらその時に考える的な感じだろうか。

 見た目の雰囲気としては、自発的に行動するタイプではなさそうだが。


「とはいえ、稼げるようになるに多少は研修期間が必要だがな。フロンティアラインは、ルーキー達が使えるようになるまで、収入は期待できない。蓄えがどれだけあるかは分からんが、この規模の船が必要なほど忙しくなるって事はないと思うぞ?」

「それは……」


 ルーキー6人が狩る量なら、俺達が乗ってる船くらいの規模でも十分だろう。開拓船を維持するメンテナンス料や寄港する際に払う入港料などを考えると無駄が多い。ステーションへは近くに停泊させて搭乗艇で移動してるのだろうが、定期的なメンテナンス時にはどうしたって桟橋に繋ぐ必要があり、大きい船は入港料が高くなる。


「団名の様に開拓に出る予定があるなら何も言わんが、この星系でやってくだけならこの船は過剰で無駄が多い。それは経理をやってたら分かるだろ?」

「……」


 団長代行は黙ってこちらを睨むだけだった。何らかの心情的な理由だろうが、それは俺が解決するもんでもないし、理詰めで追求するしかないだろう。

 何にせよ、この場で即決は求めない。ルーキーがどれだけで使い物になるかも訓練を始めないと分からないしな。


 なので視線をアイアンモールに向けると相変わらず苦虫を噛み潰す夫妻と、苦笑いを浮かべる子供達がいた。パイロットのじいさんは船に残っているらしい。


「さて、アンタ等に提供するのは、宇宙船パイロットとしての教育だ。俺達が乗ってる船は小型だが、一応軍学校で一通りを教わったから大型船も動かせる」

「ふん、マニュアル読んだだけで動かせるもんかよ」


 吐き捨てるように言うのは団長である親父だ。確か自分でもパイロットの勉強はしたものの理解できずに息子に投げたとかだった気がする。

 その息子も時間が取れず、教習所へ通えない状況。現在のパイロットに教わってるらしいが、感覚派のようで教えるのが下手だとか。

 船も貨物船を改造したもので、老朽化も進んでそうだ。計器類も古いと試験内容と違っている可能性も高いな。


「とりあえず、そっちの船も見せて貰おうか」


 テッドには残って貰って、シミュレーターなどのセッティングを任せつつ、俺達はアイアンモールの船へと移動する事にした。

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