表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/185

傭兵団の現状を突きつける

「俺達が欲してるのは外宇宙を飛べる宇宙船だ。他にも戦力になりそうな人員だな。正直、この星系に留まる気はない」


 その宣言に傭兵団の面々は息を飲む。


「つまりフロンティアラインの開拓船が欲しい」

「欲しいと言われてハイそうですかと渡せる物ではありません」


 即座に反論したのは団長代行の女性だ。経理を任される立場なので、開拓船の価値も分かっているだろう。


「もちろん、タダでくれとは言ってない。こちらの狩り記録くらいは見てるだろ? 狩りの仕方をそっちのルーキーに教えてやれる」

「だとしてもっ」


 更に反論しようとする女性を片手で制する。


「落ち着け。力ずくで奪おうとはしてないだろ。別に恨みを買いたくてこんな会合を開いてもらっていない」


 ぶっちゃけた話、俺やアイネの実力なら寝込みを襲って全滅させて船を奪うなんて方法もとれなくはないのだ。もちろん、ステーションの警備に見つかると厄介だが、別星系に飛んでしまえば追って来れる者も少ない。元々偽造している身分なので、この星系を離れてしまえば自由になれるだろう。

 もちろん、そんな手は使わないけどな。


「ただ今のままじゃジリ貧なのも事実だろ。しかもこれからコボルト狩りは情勢が変わる」

「「!!」」


 相手の危機感を煽るために、少し情報を追加してやろう。


「俺達がルーキーで多くのコボルトを狩った件で、傭兵ギルドから忠告があってな。俺達がやった狩り方をギルドに教えた。その結果、これからはコボルト狩りは安全になるが、単価が下がる」

「「……」」


 一同、新たな情報に言葉もない。意味を咀嚼するのに時間が掛かるだろう。しかし、猶予は与えない。


「今のままじゃ、時代の流れに取り残されて、ただでさえ少ない収入は更に減る」

「「!!」」

「フロンティアラインは、狩りをするのがルーキーだ。新たな狩りを覚えるのにも時間が掛かるだろう。その間に完全に取り残される」

「そんなっ」

「アイアンモールはまだもつかもしれないが、パイロットの穴を埋めない事には先はない」

「むむっ」

「まあ、簡単な話。フロンティアラインとアイアンモールで合併しちまえば、パイロットの穴は埋まるし、ヨロイ使いの経験者にルーキーの教育もしてもらえる訳だ」


 情報の内容を理解しようとしているうちに、正解を告げてやる。それをすんなり受け入れてくれたら万々歳だ。


「当座の資金は船1隻の代金で賄えるって訳だ。悪くない話だろ」


 今の手持ちじゃ船を買い上げるには足りないが、その辺は明かす必要もない。


「ま、待て、仮に俺達が欲するパイロットを合併する事で補えるとしてもだ。お前に船を渡す必要はない。もっと高く買ってくれる所を探せば良い」

「待ってください。うちの船を手放すなんて言ってませんよ。そっちの船を売る方法もあります!」


 アイアンモールの団長が俺に対する不信感を露わにしたら、フロンティアラインの団長代行は自分の船を残す方策を出す。船は家だからな、いきなり引っ越せと言われても反発するだろう。


「なんだと、こっちの船は爺さんの代から引き継いだ歴史ある船なんだよ。団長もいない団の船なんて歴史もあったもんじゃないだろうが」

「命を預ける船を歴史で語るなんて、単に古臭いだけじゃないですかっ」


 絶望的な状況でどっちも心が折れてないのは悪くない。ただ足元を見られてきたんだろう、折れたら負けという考え方が強そうだ。何とか自分達の利を大きくしようという思いが見て取れる。

 その利があまりに小さく、ジリ貧に拍車を掛ける訳だが。


 パンパンと手を打っていがみ合う2人の注意を引く。


「目先の保身に必死になってるが、守るほどの現状かを考えろ。俺が流した情報は、新規装備が必要になるものだ。買える者は伸びていくし、買えないものは停滞ではなく、後退していくしかない」


 今のコボルト狩りでは使用していない鉱物探査用レーダーが必要になる。最初は競争で値も跳ね上がる可能性も高い。

 装備屋の親父の事だから、この2つの傭兵団分は確保してる可能性が高いが、それでも元が取れないとなれば、早々に回収案件だろう。

 どれだけの恩があるのかは分からないが、慈善事業としても沈みゆく船に金を投げ込む必要はない。


「下を見つけて優越感に浸れる立場じゃないだろ。せっかくのチャンスを掴むか否かだ。俺としてはどっちも潰れた後で、売りに出された船を買ってもいいんだ。もって半年だろうからな」


 生き残るだけならもう少しもつだろうが、先がなくなったのを実感するだけ。足元を見られないうちに資産を処分した方が次の職も探しやすい。


「まずは1回、俺の狩りについてきて見てみろ。そのままの体制で生き残れるかをな」


 傭兵ギルドが情報の発信を始めていない今なら、1回くらいなら狩りに出る余裕はあるだろう。

 俺はそのまま傭兵ギルドへと狩り場の予約を入れに行く。結果として婆さんの料理を食べられなかった。




 予約を取ったのは翌日、ステーションから最も近くて獲物が少ないエリアだ。アイアンモールの船は足が遅いので、フロンティアラインの船にまとめて連れて行く。

 小ぶりな小惑星が多く、500m以下のサイズが多い。狩りの最中に小惑星を砕いたバカがいたのか、小さな破片がそれなりの速度で動き回っている。防御結界を厚くすれば船は守れるだろうが、ヨロイで直撃されたら大ダメージだ。といっても自動車事故に遭う程度の確率だろうが。


 今回はヨロイでの狩りを見せるためなので、アイネの魔導騎士は待機。俺が小惑星に降りて狩りを進める。


 まだ3回目だが、ルーティンは確立しているので流れ作業だな。魔力波で鉱石の分布を確認し、自然ではあり得ない密度の鉱石が集まっていれば、そこにコボルトがいる。

 小惑星からジャンプしてコボルトへ上から囮を投げ、それに反応して飛びかかってくる所を射撃で倒す。後は小惑星に押し付けて固定。運動エネルギーを奪って確保という流れ。


 このエリアは小惑星に一匹ずつしかいないみたいなので、小惑星を渡りながら狩りを続けて約2時間。5匹しか仕留められなかった。集団で襲われる危険もないが、時間効率は悪いしコボルト自体も小さめで稼ぎにはならなそうだ。


 宇宙船にコボルトを回収し、フロンティアラインの開拓船へと近づく。さすが開拓船だけあって大きい、1kmを越える船体を持っていた。内部で野菜を栽培するプラントなども備えているようだ。

 俺達の30m級の小型宇宙船なら格納庫にそのまま停められる。

 この世界の船の良い所は、恒星からの魔力で動けるので、燃費をそこまで考えなくてもよい点だな。魔力炉も可動部分があるわけではないので劣化速度も遅い。魔力が走る過程で回路が焼ける可能性はあるが、物理的なエンジンに比べたら故障率は低かった。

 確か200年ものの船だが、星系外へも十分に航行可能だろう。


 格納庫からブリーフィングルームへと移動すると、こちらを称賛の目で見つめる若いというか幼さが残る子供達と苦虫を噛み潰している大人たちと分かりやすい色分けがされていた。

 フロンティアラインで雇用されたルーキーは10歳を越えたくらいの年齢で、青田買いもいいところ。教育するなら若いうちからというのも分からなくもないが、適性を見るにも幼すぎると思う。


「このエリアはコボルトが少ないから効率は落ちたが、今までと違うくらいは分かっただろう?」


 この中で一番それが分かっているだろうアイアンモールの団長夫妻へと言葉を投げた。


「これからはコボルトを探すのが楽になる。危険は減るし、狩る量も一気に増えるだろう。後はいかに効率良く倒すかが報酬に直結する時代だ。生き残れるかね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ