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傭兵ギルドへの情報提供

 装備屋の求める解決策は、アイアンモール一家がこの星系でやり直すための環境作りという事だろう。

 アイアンモールの持つ改造貨物船は星系間移動能力もなく、装甲も貨物船のまま。付いている砲門は宇宙生物対策というよりは、小惑星を撃つためのものだろう。コボルト退治に小惑星帯へと近づけば、その破片などが飛んでくる可能性もある。


 アイアンモールに不足しているのはパイロット。つまりはフロンティアラインのパイロットをアイアンモールに渡す形で落ち着けるのが良さそうだ。

 残るフロンティアラインの船は俺達が貰って星系外へと乗り出すと。後は新人を教育するか、アイアンモールに引き取らせるかだな。


「キーとなるのはフロンティアラインのパイロット」


 宇宙船を操縦するパイロットは技能職で基本的に食いっぱぐれる事はない。年齢は32歳で新人を抜け出し、一番やる気に満ちてる世代のはず。

 それが将来性のない引き抜きが多い傭兵団に雇われたままと言うのは何らかの訳ありか。

 ステーションの桟橋への接触事故は数回記録されているもののそれは新人の頃だな。ここ5年は記録されていない。技量的には問題はなさそうだ。


 新人の時にフロンティアラインのパイロット後継者として配属。先代のパイロットから研修を受けて3年の経験を積んだところで先代が引退。そのまま引き継いで運行していると。

 整備も任されているようだが、そちらは本業ではなく現場でイレギュラーが発生した時の応急措置程度。本格的な整備はステーションの専門家に預ける形のようだ。


 実際に狩りをするヨロイ使いが新人ばかりなので、実質的に傭兵団を率いているのはパイロットの彼のはず。もしかすると自分が新人を鍛えて団長としてのし上がるといった夢を持ってるかもしれない。


「会ってみないことにはなんともだな」


 外から調べられる経歴では人となりまでは分からない。変に憶測で検討するよりも会って話しながら探る方が良さそうだ。




 日が変わり、傭兵ギルドへと向かう。

 ファンタジーの冒険者ギルドと違って、朝から掲示板の前に人垣ができているなんてことはない。この星系の仕事はコボルト狩りがほとんどで、狩猟場の予約は前もって行うのが普通。朝一に駆け込まなきゃならないという事態はほとんどない。

 なので朝一は受付が空いている。

 俺が入ってくるなり受付の青年はカウンターから出てきて応対してくれた。


「ようこそウィネスさん。課長がお待ちですよ」

「ああ、分かった」


 俺はそのまま奥の応接室へと案内される。ほとんど待つことなく課長が姿を現した。さほど暑くないギルド内で、額の汗をハンカチで拭いながらの登場だ。


「これはウィネスさん、お待たせして申し訳ない」

「いや、待ってはないが。それより話を早くしてくれた方が助かる」

「は、はい、それでは早速……」


 俺がコボルト退治の効率を上げた方法への報酬として提案し、ギルド側が持ってきた魔導騎士。スペックは昨日送られてきたばかりなので改めて確認する事もない。

 そう思っていると課長は俺を先導してエレベーターへと案内。地下10階まで一気に降りた。そこは格納庫になっていて、ヨロイや総備品などが並べられている。

 その一番奥に魔導騎士が立っていた。


「こちらがウィネスさんに提示できる魔導騎士になります」

「確認していいか?」

「はい。魔力炉の起動はできませんが、チェック機構などは見れますので」

「ああ、分かった」


 魔導騎士の全高は5mほど。胴体部分にコックピットがある。脚立を昇ってコックピットを開けると、シートが一つ。両手が当たる箇所に入力用の水晶があるのも帝国製と大差ない。

 早速シートへ座り、制御パネルの電源……魔源か……を入れるとOSが起動していく。


「ウィザードが生きてたらこの辺をいじってくれるかなぁ」


 ウィザードとは例の謎生物の情報を渡してから連絡はとれていない。50年前の弱小国で作られたらしい魔導騎士は、帝国製の最新機体と比べると色々と非効率な部分が多く、演算回路も悪そうだった。

 処理速度が遅くて、緊急発進とか大丈夫だったのかと思わされる。

 この辺を入れ替えていきたいが、パーツの交換も容易じゃないよな。宇宙船のパーツとかを流用できるか?


 状態モニターを表示して、各回路が繋がっていて動かせそうなのは分かる。魔力炉から魔力を供給しないと実際の性能は分からないが、基本的に問題はなさそうだ。

 一応、俺自身の魔力を通してモニターとの差異がないことも確認できた。焼き切れてる回路も多そうなので、そこを修理すれば50年前の状態には戻せるだろうか。

 何にせよ、バラしていかないと整備もできないが。


「この格納庫をメンテに使わせてもらえるのか?」

「え、い、いえ、それは……」

「まあ、何の機材もないしメリットは人の目を避けられる程度か」


 そのメリットが大きいんだが、あまり無理を言っても交渉が長引くだけだろう。


「分かった。じゃあこちらからの情報を渡す。精査にも時間がいるだろうから、こいつの受け渡しは後日だよな」

「は、はい。こちらで検証してからになります」

「こいつを渡す決断と同じ様に迅速に頼むぜ」


 俺はコックピットを出て課長の所へと戻る。

 持ってきていた資料を渡して簡単に説明した。効果とどうやって検証すべきかなども伝えて、時間を短縮できる様にしないとな。


「という訳だ。この回路を作って、レーダーに鉱石分布を表示できるようにすれば検証できる」

「な、なるほど……整備部の人間に確認してみます」

「ま、早いところ頼むわ」


 こちらで回路を用意するまでできれば、もっと早く検証できたんだろうが、その手の機材がない。あの宇宙船には工作スペースすらないからな。




 検証をギルドに投げた俺は、装備屋へと向かい店の親父と会う。


「儲かりまっか?」

「ああん、喧嘩うってんのか?」


 前世のエセ関西人のノリは親父に受けなかったようだ、仕方ない。


「ちょっと儲けのネタを持ってきたんだが、聞く?」

「ん? 傭兵団の話じゃねぇのか?」

「そっちは実際会ってみないと進まないと思うからな。それより親父の好感度を稼いでおく方が有益だろ」

「なんだ、気持ちワリィな」


 嫌そうな顔をする親父に傭兵ギルドにコボルトの見つけ方の情報を渡した事を伝える。


「そんな情報をホイホイと渡したのか!?」

「個人で稼げるのなんてたかが知れてるからな。ゴールドラッシュで儲けたのは、金鉱脈を見つけた者より、つるはしを売った奴だって話だ」

「??」


 ゴールドラッシュが通じないか、仕方ない。


「魔石を掘るより、掘るための機械を作った方が儲かるって話だよ」

「それがどうした?」

「俺がギルドに渡した情報の肝になるのはとある回路なんだよ」


 今後、この回路はメーカー側で生産される事になるだろうが、それまでにも需要はある。すぐに取り付けてくれという客は多く出るだろう。


「その回路を生産しておく気はないかって話だ」

「そりゃ確かに儲かりそうだが……本当なのか?」

「俺を信用できるかどうかだな」


 今後必要になる回路を予め作っておく。その利益は莫大なものになるだろうが、本当に必要になるのか。俺は確実に売れると思っているが作る施設を持ってない。親父はヨロイの調整も行っているし、回路制作できる機器もある程度は持っているだろう。


「とはいえ、俺が作れる量も知れてるぞ?」

「なに小遣い稼ぎできる程度で十分だろ。変に本格的に製造したらメーカーの反感を買う」

「なるほど」

「何より下町の零細傭兵が死ぬのを減らせるぞ」


 コボルトの位置を特定できれば、不意打ちで襲われるリスクを減らせる。生存率が跳ね上がる事だろう。


「しゃーねぇ、騙されたと思って乗ってやるよ」


 親父の持つ機械で優先的に鉱石を探す回路を作ってもらう。稼ぐよりも救える命を出した方が乗り気になるとは分かりやすい。

 強面の職人肌な親父はお人好し。テンプレだが良いじゃないか。

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